「音楽之友」昭和30年2月号を読んでいたら、この年に封切られた『ここに泉あり』(監督・今井正、脚本・水木洋子)という映画が見たくなりました。
ストーリーは終戦直後群馬県高崎市に生まれたアマチュア・オーケストラ「群馬フィルハーモニーオーケストラ」(現・群馬交響楽団)の地方音楽活動からヒントを得て書かれたもので、昭和22年頃、荒れ果てた生活に追われる人たちを音楽で元気づけようと町の人々が「市民フィルハーモニー」をつくり、ついには東京の交響楽団と合同演奏するまでに至るという地方交響楽運動の苦闘の足跡を描いたものになっています。
↑ 音楽担当は団伊玖磨氏。
↑ 東京交響楽団が出演。「篠崎ヴァイオリン教室」って篠崎教本の?
自分としてはこの映画の一番の注目点は本物の音楽家が出演していることです。
誰よりもまず、山田耕筰さん(1886-1965)が指揮者としてかなり長い間画面に映ります。
それとピアニストの室井摩耶子さん(1921年生まれ)がチャイコフスキー、グリークの協奏曲を弾きます。
そして、第九のソリストとして、静止画でしか見たことのない伊藤亘行さん(1921-2002)、柴田睦陸さん(1913-1988)、川崎静子さん(1919-1982)、柴田喜代子さん(柴田睦陸さんの奥様、1924-2005)ら二期会メンバーが歌う姿も見られます。
。。。といっても、実際に演奏しているところを撮影したのではなく、あらかじめレコーディングされたものを再生し、それを聴きながら指揮をしたり、口パクしたりしたそうです。
また、山田耕筰さんは指揮以外にも半身不随の病気を押して、杖をついて歩いたり、顔での演技↓(セリフはありません)で頑張っていらっしゃいます。
↑ 「そうか。。あいつらまだ頑張っているのか」という気持ちを目で表現する山田氏。さすが指揮者!
一応、岸恵子と岡田英治のとってつけたようなラヴなシーンや、「市民フィルハーモニー」を「市民フィルハーモニカ」と言い間違える、本来爆笑すべきギャグもありますが、この映画は協奏曲、交響曲等の音楽シーンを見て聴いて楽しむべきものだと思います。
7,8人の室内楽っぽい編成から大オーケストラ風サウンドが出るシーンが頻出するのはご愛敬ですが、最後の、大人数の第九の合同演奏はちょっと背筋がブルブルきました(感動と若干の虫酸ランにより)。
↑ 会場は神宮外苑の日本青年館。
くやしいのは、自分が参加しているアマチュア合唱団より60年くらい前のこの合唱のほうがウマいってことですね。(当たり前か)
とにかく、クラシック・ファンがヒマなとき見るには良い映画だと思いました。DVDが出ていますが、YouTubeでも見れます。アップして下さったかたありがとうございます。
↓ 近衛秀麿。。ここでも山田耕筰との確執があったのか?音楽之友1953年9月号より