チュエボーなチューボーのクラシック中ブログ

人生の半分を過去に生きることがクラシック音楽好きのサダメなんでしょうか?

新交響楽団のチラシ「新響ドゥーズ」(1941年)

2016-01-17 21:18:09 | 第九らぶ

昔の音楽雑誌にコンサートのチラシのようなものが挟まっていました。『新響ドゥーズ』、A5版二つ折。



5月7日と8日となっていますが、これだけではいつの年だかわからなかったのでNHK交響楽団演奏会記録で調べると1941年(昭和16年)のことでした。

前の年から日比谷公会堂においてローゼンストック指揮、新交響楽団(現・NHK交響楽団)によるベートーヴェン交響曲チクルスが始まっています。その最終回がこの第九演奏会です。



最初に第九と密接な関連があるとされる合唱幻想曲Op. 80が演奏されています。ピアノは永井進(1911-1974)。このときが永井氏のデビューだったようです。ちなみに永井氏は1961年のカザルスの公開レッスンにも参加されています。

1941年というと12月には日本は英米に宣戦布告してしまうという不安に満ちた時代であり、裏表紙もナチス・ドイツ国策映画の宣伝広告になっています。『勝利の歴史 (Sieg im Westen)』。(YouTubeでちょっと見たけど激しくつまらない。。)



こんなキナ臭い時世に、新響226回定期の演目はモーツァルトのほかプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番とラヴェルの「ダフニスとクロエ第2組曲」、しかも両曲とも日本初演となっていて、なかなか平和的かつ意欲的なメニューだと思いました。



。。。ところで「ドゥーズ」ってフランス語のdouze(12)のこと?毎月のコンサート予告という意味なんでしょうか。(違ってたらごめんなさい)


熊本の歌舞伎小屋で演奏したジャック・ティボー(1936年、2度目の来日)

2016-01-15 18:17:56 | 来日した演奏家

1936年、ジャック・ティボー(Jacques Thibaud, 1880-1953)は二度目の来日を果たしています。(初来日は1928年)



その訪日時の、熊本公演でのエピソードが『藝術新潮』1965年7月号に載っていました。書いたのは上村健一さんという、当時熊本にお住まいの公務員のかたです。文章力!

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 昭和11年6月。九州中部のささやかな城下町に、時ならぬ大看板が立った。ヴァイオリンの巨匠・ティボー来る!

 第一級演奏家の来朝は中央でもまれであった当時、地方都市でいながらにティボーが聞けるとは、望外の好運である。すでにビクターの赤盤で彼の魅力に取り憑かれていた私は、文字通り雀躍した。

 ここでぜひとも、当夜の演奏会場について触れておかねばならぬ。地方都市のホールの貧相さは今も大して変りはないが、そのおりの会場は、なんと、町の歌舞伎小屋(※1)であった。引き幕に両花道、階上階下総タタミ敷という、まことに大時代の日本建築。ここで西欧一流の演奏技術を聞こうというのだから、およそ和洋折衷を絵にかいたようなもの。花のパリから遠来の巨匠に対して気恥ずかしいことおびただしかったが、それでも、まさかあれほどの椿事が突発しようとはつゆ知らず、押し寄せた聴衆で会場はたちまち満員となった。

 さて、いよいよティボーの登場である。曲目はヴィタリーのシャコンヌ、モーツァルトのトルコ協奏曲、ラロのスペイン交響曲と、望みうる最上のプログラムだ。鳴りわたるストラディヴァリ。G弦の雄渾、E弦の洗練、満場ただひたすらに、ティボーの醸し出す古典の美酒に酔いしれた。

 驚天動地の大椿事は、まさにこの陶酔のさなかに起った。プログラムは進んで、モーツァルトのアダジオに入ったあたりでもあったろうか。水を打ったような会場に、異様な雑音が流れこみ始めた。遠雷のごとき太鼓の轟きと、多人数の喚声である。場外の道路のかなたから、その物音は起った。はじめは微かに、しかし確実に音量を増して、クレッシェンドに近づいてくる。ハテ、と小首をかしげた瞬間、私はその雑音の正体に気付いて、思わずあっとなった。

 この町は、加藤清正の昔より、人も知る日蓮宗総本山の巨刹(※2)を有している。その宗門の行事に、雨乞いというものがある。夏季、旱天ともなれば、大勢の僧侶信徒が集結して慈雨を祈願し、一団となって市中を行進する。手に手に団扇太鼓を打ち鳴らし、高らかに南無妙法蓮華経を合唱しながら町々を練り歩くのである。思うに、その年当地は空梅雨であったらしい。いま会場前の道路にさしかかったのは、このすさまじき大音響を発する雨乞い部隊の行列であるに紛れもなかった。

 聴衆は動揺した。なにしろ前述のとおり、隙間だらけの芝居小屋である。防音装置もヘチマもない。寸刻も早く主催者側で、この一隊の通過を阻止せねば、と焦慮する暇もあらばこそ、呪うべき〈南国のリズム〉は容赦もなく近づき、乱入し、ついに耳を覆わんばかりのffに達した。ティボーもさすがに驚いて、正面入口あたりを、ハッタと睨みつけた。もう駄目だ!

 冷汗三斗どころではない。私は目の前が真っ暗になった。当然、ティボーは憤然として演奏を中止するだろう。誇り高き天下の名匠、なによりもエレガンな雰囲気を生命とする生粋のパリジャンである。こんな原始的な雑音に蹂躙されて演奏が続行できるか、会は即刻打ち切り、音楽家は席を蹴って退場――するに違いないと、私は観念の目を閉じた。

 しかるに!見よ、ティボーは弾きつづけたのである。

 一瞬の激昂から、彼はすぐさま立ち直った。騒音の遠ざかるにつれて、コンディションの乱れを懸命に克服した。この不幸な事故は聴衆の責でない、彼らは終始熱烈に音楽を享受しているのだ。彼はそう達観したに違いない。予定のプロをみな弾いた。幾つかのアンコールすら、鄭重に応えた。この夜、私たちの感動と、ティボーに与えた賞賛が爆発的であったのは、三十年をけみした今日、いまだ記憶になまなましい。

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※1 「八千代座」(熊本県山鹿市山鹿1499)だと思われます。→(訂正)練兵町にあった歌舞伎座(1962年閉館)だということです。SAWAKO様、コメントありがとうございました。

※2 会場が八千代座ならばおそらく「常明山圓頓寺」(熊本県山鹿市山鹿55)。→(訂正)これはわからなくなりました。


。。。雨乞いの人たちの責でもないですよね。そんな日に演奏会を設定した主催者が悪いような?それにしてもティボーさん粋ですね!

こういう状況になったら絶対怒ってすぐ帰っちゃいそうな外人演奏家が何人か思い浮かびました。


超話題作!? ブーレーズの「運命」(1971年)

2016-01-14 21:57:39 | 音楽史の疑問

『LP手帖』1971年5月号より、ブーレーズ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団による「運命」の宣伝広告です。




「164年後の今日、一人の天才が現われて彼の楽譜の「書落し」を指摘し第五交響曲の演奏に革命をもたらすなどとベートーヴェン自身想像しえただろうか!」

→当然そんなもん想像しえてないですよね!絶対聴きたくなります。


「第3楽章でブレーズは、スケルツォとトリオを繰り返すという全く異例の解釈を行い、ベートーヴェン自身が「繰り返し記号」を全くの不注意で書き落したのだと指摘。作曲以来164年間いかなる指揮者も、これに気付かなかった。」

→なんだー、第3楽章の繰り返しの問題かあ。ちょっとガッカリ。


「史上最長!実に38分35秒に及ぶ演奏」

→繰り返せば当然長くなりますよね。。大袈裟な広告でした。


本当にベートーヴェンの不注意で繰り返し記号が書き落とされたのかどうかはもうちょっと調べたいところです。

ちなみにアマゾンではこの録音のCDは「中古品の出品:8000円より」となっていて、気楽には買えません。

→ AppleMusic、Spotifyで聴けます。

(2016年1月5日にブーレーズ氏はお亡くなりになりました。)


ピアニスト、井口基成・秋子夫婦(1936年)

2016-01-12 22:36:23 | 日本の音楽家

『婦人之友』昭和11年(1936年)10月号より、ご結婚されてまだ半年の井口基成・秋子ご夫婦です。



↑ 井口基成(1908-1983)と井口(旧姓・澤崎)秋子(1905-1984)。和風でステキなお部屋ですね。でも音が外に漏れまくり?左のピアノはYAMAHA。

井口基成はもちろんのこと、一人目の奥様である秋子さんも高名なピアニストだったんですね。ちなみにこの雑誌の記事では「章子」となっていますが、のちに改名されたんでしょうか?それとも誤植?(ナゾが解け次第追記します)

ここのサイトによると基成さんにとって秋子さんはとても恐い奥さんだったようです。。


フランツ・リスト最晩年の写真(ナダール撮影、1886年)

2016-01-08 20:59:28 | メモ

ナダール(Nadar, 1820-1910)が撮影した、死の年のフランツ・リスト(Franz Liszt, 1811-1886)です。74歳。

(ライフ写真講座『68人の写真家』1972年発行より)



同じくナダールが撮影したワーグナーの写真(本人かどうかもわからない)とはなぜか雰囲気が違いますね。

若い頃はイケメンでモテまくりだったリスト最晩年の、達観したような穏やかな表情が心を落ち着かせてくれます。

着ている服はリストが50歳のときに入団したフランシスコ修道会のものだということです。



きょうはこの写真をガン見しながら「巡礼の年」全曲(ベルマン)を聴いて寝ます。(ぜったい、一曲目で眠っちゃう自信アリ)