【じごく耳】基本的人権は~現在及び将来の国民に対し侵すことのできない永久の権利として信託されたものである

国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

☆老木の告白☆不思議な世界~ショートストーリー(フィクション)

2011年09月22日 | ショートストーリー超短編小説

 今年で私は、幾つになったのだろう?50年は、過ぎたのだろうか・・・いや、あの戦争での戦火も運良く潜り

ぬけて来たのだから、100年位は経ってしまったのだろうか・・・私の立っている所から、色々な窓が見える。

細い枝先、私にとっては手だが、その枝先が窓を開けているとその中に入り込んでしまって、閉める時に邪

魔にされ、時々挟まったままになる。

窓を閉める人も色んな人がいて、邪魔だと思うだけならよいがバキンと折ってしまうおっかない人もいる。

その痛さときたら、熱湯に浸かったように痛い。あちらさんから見たら、私はモノなのだから仕方のない事かも

れない。余程の人格者か苦労人で心根の優しい者しか、他者の痛みなど判る筈もない。

 私は、元々、広場のような公園のような場所に立っていたのだが、40年位前に突然、ここが整地されて大き

な建物が出来てしまった。毎日、何時私を切ってしまうかとビクビクしていたが、「これは、残しておこう」と云う

誰かの鶴の一声で難を逃れた。

その時の気持ちは、「天にも昇るような気分」だった。安堵したというより嬉しさの方が大きかった。人が集まる

場所は、にぎやかでいい。これから、もっと楽しい光景が見えるかもしれないと思ったからだ。

 今、私は、その建物の裏側にいる。あれから、随分と年月が経ったが、ここから見える窓の中には、動いて

いる人は殆どいない。皆、ベッドに横になっているかベッドの端に腰を掛けているかである。

時々、やってくる元気そうな人は、ここの職員のようだ。ベッドの人達は、皆お年寄りのようで、何かの施設か

しれない。

 私は、最近、心底悩んでいた。「見て見ぬ振りをしていようか?それとも、何かをするか?」

ここの窓の中では、期待していたような楽しい賑やかな風景等殆どなくて、時々、ぞっとするようなことが行わ

れていた。夜になると、それは行われた。何らかの理由で、選ばれた?お年寄りが別室へ連れていかれる。

床に直接マットのような物が敷かれているだけの寒々とした部屋で、お年寄りが何かを言われている。

ここの人が、何かを言い聞かせているようだ。それに、逆らうような素振りを見せるお年寄り。そう思った途

端、ここの人がマットに寝かされているお年寄りの肩辺りを足で蹴った。蹴った人は、そのまま無言で部屋の

扉を閉めて出ていってしまった。

 私は、夜も目が見えるけれど、何しろ窓の外からだ。はっきりとした状況は判らない。お年寄りが心配だ。

けれども、窓から遠い場所にその人が横たわっているので、私の長い枝でも到底届かない。何も術がない。

一晩中、心配で眠れなくて疲れたのか、早朝にうとうとしていた私は、新聞配達のバイクの音でハッが目が

めた。窓の中を覗き込むと、あのお年寄りがいない。何処へ行ってしまったのか?

 何日か経って、この建物の玄関を見ると大きな荷物を抱えた中年の人が、ここの人達に頭を下げて車に乗

り込んでいった。荷物は、あるけれど荷物主がいない。もしかして、荷物主は、あのお年寄りなのだろうか?

 最近、私は、身体の芯がカラカラになっていて、こうして立っている事さえ苦痛だ。水分や養分を吸い上げ

力がもう無くなってきたようだ。命のゴールまで、そう長くは無いだろう。

 或る日の深夜、あの時の人が窓にもたれかかるようにして、私の枝のすぐ前にいた。窓際のベッドのお年

寄りの手を力を込めて掴んでいた。掴まれたお年寄りの手は、ここから見ても赤く染まっていた。

私は、決心した。窓を開け、尖った枝の先を渾身の力を込めて、その人の首に差し込んだ。その人は、うぅ~

と低い声を発して、その場に倒れ込んだ。人がこんな事をすれば、凶悪な犯罪者だ。それでも、私は、不思

議なくらい全く後悔していなかった。今まで、私の身体や枝に絡みついていたドロドロとした空気が、急に爽

なったからだ。

 

 

 

 

 


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☆正夢☆不思議な世界~ショートストーリー(フィクション)

2011年09月21日 | ショートストーリー超短編小説

 コーヒーとタバコが一日も欠かせない理子は、少々イライラしながら“缶コーヒー買って喫煙所に行ってこよ

うかな、でも、もう少しで終わるかな”と、義父の診察を待っている間待合室で何度も思ったのだが、その内に

機を逸してしまった。

 「胃が掴まれるように痛い」と、深夜になってから義父が顔を歪めて言いだすものだから、夜間診療をしてく

るこの病院へ車を走らせたのだ。それにしても長い。

時折、救急患者さんが運ばれてくるので、義父のような命に全く別条のない人は、後になるのだ。

“日中に胃が痛いって言ってくれればいいのに、その上どうしてあなたの息子が出張中に病気になるの”と

勝手な事を思ったりしていた。通路の奥に飲み物の自動販売機が置いてある。やっと決心して、缶コーヒー

を買おうと歩いて行くと、そこには夜間診療とは違う治療棟があった。

夜間診療の診察室の向かい側は、『救急治療室』だった。重篤な患者さんは、ここに運ばれてくるのだ。

サイレンを鳴らした救急車が時間外診療窓口の玄関に到着すると、急に待合の通路が慌ただしくなり、医

者や看護師があちらこちらに移動している。

 救急治療室に新たな重篤そうに見える男性の患者がベッドに運ばれてきた。頭部に損傷があるようだ。

医師は、慎重にその患者の頭部に包帯を巻き、たくさんの医療機器と身体に付いたチューブを丁寧に確認

していた。そして、何やら看護師に話をした後、患者の家族であろう人と共にその場を立ち去った。

この患者は、重篤な状態を脱したのだろう。多分、小康状態になったから看護師に引き継がれたのだ。

今では珍らしくもないが、その看護師は大柄な男性で、私としては、初めて接する男性の看護師だった。

しばらく経った頃、ベッドの患者が呻き声を発した。見ると、その大柄な男性看護師が患者の頭を押さえつ

ている。“どうして?頭押さえちゃいけないでしょう。”と、あまりのショッキングな光景に声も上ずっている。

大きな声が出ない・・・身体が動かない・・・

 「理子さん、すまんねぇ、痛みが治まった。」目の前に義父がいる。あぁ、あれは、夢だったんだ。

ほんの少しウトウトとした間に、現実を見たかのようなリアルな夢を見ていたのだ。

この長イスからでは、『救急治療室』が見えるわけがない。少々、ほっとした。

 義父の次回診察は、翌日の午前中の予定になっていて、今度は早い時間に連れて来なければならないと

思ったら、又鬱々とした気分になった。

 翌日、義父を連れその病院へ行ったが、今回は『予約』なので診察も早く、薬を飲んで様子を見るといった

事だった。安堵して会計を済ませ、玄関の方へ歩いていくと向こうから大柄な看護師の服を着た男性がやっ

てくる。すれ違いざまに思わず声を上げてしまった。

「ああ・・・」昨日の夢に出て来た男性看護師だ。

あまりの動揺で胸の鼓動が速くなり、その場を動く事が出来ない。ふと、あの『救急治療室』へ繋がる通路を

見ると、昨日の夢の中で付き添っていた家族であろう人と先生が深刻な顔をして歩いてくる。

 付き添いの人は、泣きじゃくっている。

“あの患者に何かあったのだ”通路の奥には、白い布が被せられた人を載せたストレッチャーがあった。

“正夢だ・・・”義父の顔を見ながら、呟いた。「ここへは、もう来ないようにしようね・・・健康一番!」

 


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