我々は、強制避難地域に向かう途上にある。
福島第一原発まで後30キロ。この辺りの村落は、殆ど死滅している避難地域だ。
この学校では、もう授業はない。生徒と教員は、他の学校に振り分けられた。
どこも荒れ果てた田んぼ、放置された土地。
ついに、“Jビレッジ”が見えた。かつてのサッカー日本代表のトレーニングセンターだ。
3.11の三重災害後は、原発事故収拾作業の拠点である。20キロ避難区域に位置し、許可のない立ち入りは禁止。原発で働く
作業員は、ここに戻ってくる。
ジャーナリストは、歓迎されない為、我々は、脇道から侵入し、こっそりカメラを回す。う回路は、20キロ圏内深く入り込む。
ここで、3人の作業員が彼らの非人間的な労働条件について話してくれる事になっている。彼らは、身元が割れて報道される事
を恐れている。「この地方には、もう仕事はありません。それで、東電の仕事をしています。」(喋ったことが、バレたらクビで
す。そうしたら、他に仕事もない、家族を食べさせていけません。)
東電と下請け会社は、何よりも“情報漏洩”を恐れている。作業員達にジャーナリストとの接触を禁止する契約書を発見した。
引用「この契約により、本業務を行うにあたり、福島第一原発構内外に関わらず、知り得た情報に関して(書面、あるいは口頭・
目視等形態に係りなく)厳に秘密を保持するものとする」更に「作業員は、各種報道機関からの取材は、業務情報の如何に関
らず、一切受けないものとする」 作業員達は、原発内での仕事の条件について話してくれた。
上層部が秘密を守ろうとする筈だ。敷地内では、続々とホットスポットが見つかるのだ。しかし、作業員達は、たいてい後でテレ
ビを見てそれを知る。8月上旬に致死量を超す放射能10シーベルトが発見された時もそうだ。
「命の危険がある場所が何処かも教えて貰えない。説明会で少し注意されるだけで、どこが危険か詳しい情報もなければ封鎖
区域もない。」
放射能は、目に見えない、感触もない、また作業員に測定さえ出来ない事がある。
「私の測定器は、マイクロシーベルトしか測定出来ません。原子炉建屋に入るとエラーが出ます。測定器が測定しきれない位の
高い数値なのです。」
高濃度汚染区域には、ロボットが使用されているものの、原発内の仕事は決死のものだと放射線専門家は、警告する。
「作業員は、外部被曝だけでも極めて高いものを受けます。呼吸や飲食から受ける内部被曝も加えると大変な量です。最近、
計測された10シーベルトは、計測器が振り切れたので、それ以上かもしれません。人間は、7~8シーベルトの被曝で死んでし
まいます。」
しかし、もっと低い被曝量でも長い間受け続ければ、作業員やその子孫に深刻な健康被害を与える可能性がある。
「男性の精巣が高い被曝を受けると、生まれてくる子供の染色体が損なわれ、肩から指が生えるというような手足の奇形や中枢
神経の異常、知能障害等を引き起こす事があります。」
作業員達は、逃げ場もないまま、様々な恐怖に怯える。放射能の恐怖、失業の恐怖、そして、東電への恐怖。二人は、原発か
ら遠く離れた我々のスタジオでなければ話をしてくれなかった。
「十年後、二十年後、病気で仕事が出来なくなるのが不安です。そしたら、家族をどう養えばいいのか・・・子供が健康に生まれ
てくるかどうかも心配でたまらないのです。」
“そんな心配は、非科学的である”そのように、事故直後の情報セミナーで主張したのは、福島県の放射線防護健康アドバイ
ザーである。数々の肩書きを持つこの医者は、大真面目に言う。「ニコニコ笑っていれば、放射能の被害は受けない。くよくよ
していると受ける。」と。「動物実験はありませんが、困難の時にもくよくよしなければ、健康被害はないのです。毎時100マイクロ
シーベルト以下なら、何れにしろ健康には害はありません。」
毎時100マイクロシーベルトは、年間に換算すると876ミリシーベルト。ドイツの原発労働者の被曝許容量は生涯400ミリシーベ
ルトだ。日本の行政は、それでも被曝リスクの過小評価を続け、原発作業員に相当の報酬を支払う必要はないとする。毎日、
被曝を受ける労働者なのに・・・
我々の取材に応じた人達が下請け会社との契約を見せてくれた。原発での仕事は、日給一万円。危険に対する特別手当を得
るには、条件を飲まなければいけない。「危険特別手当を受けますか?それでは、サインしてくださいと言われる。1時間1000
円の手当です。他に選択肢は無いので、サインします。それは、後で病気になっても訴えを起こさないという同意書のサインな
のです。」
こうした苦情が事実かどうか確認をしに我々は、東電本部を訪ねた。広報担当者は、無関係を主張する。
「作業員は、現場でリスクの説明を受けていると聞いています。」と言う。
それに、契約書は、東電の出したものではないと。「下請け会社が作業員と結んでいる契約の内容は、知りません。」
我々が知りたいのは、東電が自分の事故を起こした原発で働く人間に責任を感じないのかという事だ。
「すみません。契約内容を存じませんのでコメントも出来ません。」
事故を起こした原発の汚い仕事をダンピング価格で請け負わされる作業員。責任逃れ一点の雇用者。笑えば、放射能から身
を守れるとアドバイスする医者。
これが、日本式の人権蹂躙である。
☆真実を報道しようとするドイツの報道陣。ドイツZDFテレビ「福島原発労働者の実態」