翌朝、雨が強い。
みんな朝風呂入りに行くという。
自炊部?と訊くと、そうだという。
昨日はみんな自炊部の廊下をあれこれ迷ったらしい。うまく辿れるかどうかわからないけど行くという。ちょっとした冒険かい?
僕もタオルを出した。
みんなで部屋を出る。小奇麗な廊下の突き当りを降りて、思いドアを開けるとそこにはしっとりとした木の床と、手すりと、すすけた天井があった。
こりゃ、いいね。
木造独特の香り。年季を帯びた、味わい深い琥珀色フィトン・チット。ここが自炊部だ。
床板はまるで羊羹のようにつややかに光る。各部屋を仕切っているのは障子戸。跚も引き手もすっかり古びて角もまるくなっている。
スリッパで歩くのはなんだかもったいない気がする。できれば裸足で歩きたい。
廊下を突き当たると次の廊下が繋がっている。人ひとり通れる位の幅だったり、階段になっていたり、なんだか面白い。
なるほど、これは冒険だね。
昨日は迷ったというが、実は楽しかったんじゃないかしら?
途中、BELAちゃんは女湯へ。僕らは突き当りの混浴露天風呂をめざす。
最後の階段を降りるとそこがもう風呂だった。ここはよく雑誌に載る風呂なのでどこかで見たことあるかもしれない。
すぐ裸になって、掛け湯をする。
それから露天風呂へ身を沈めた。
雨が降っている。
そのせいだろうか、湯がややぬるい。
せっかくだから雨のなかへ泳ぐように出た。
背中や肩に冷やっとする水滴がおそいかかる。
それでも朝の空気はさわやかで、立ちのぼる湯気が山へと吸い上げられてゆく。暖気と寒気が入り混じりながら身体にまとわりついた。そして身体の細胞がつぎつぎと目覚めてゆく。アルコールの抜けもいい。そんなに飲みすぎなかったということだろうか(飲みすぎで入浴するとたいてい吐きます)。さすが銀河高原ビール、抜け際もさわやか(あくまで個人の感想です)。
ふと外を見ると、すこし高い橋の上を渡る人が見えた。川むこうの菊水館へ行くのだろう。あれ、こっち丸見えじゃん。
いまさら気が付くのも間抜けな話だが、なるほど、昔ながらの混浴露天風呂だ。配慮もへったくれもない。
こっちが裸でじゃぶじゃぶやっている向こうで、宿泊客が知ったことかい、と橋をすたすた渡ってゆく。すごい開放的。
すこし気だるくなってきたので風呂から上がった。
なぜか僕達親子だけ、だぁれもいなくなってしまった。雨だしね。
ちょっと又三郎の気分。
浴衣をはおり、再び自炊部の廊下をぎしぎし歩く。
まだ寝ている人もいるのだろう、障子の前にスリッパがそろえてある。これそろえるのは自炊部の夜警さんだそうで。こまこまめな仕事をなさいますね。頭が下がる。
廊下が枝分かれしている。左は菊水館へ行けるらしい。ちょっと左へ行ってみる。つきあたりで下りれるようになっていてドアがある。ノブをまわして開くともう屋外だった。目の前に木の曲がり橋がかかっている。ははぁ、さっき露天風呂で見上げた橋はコレか。菊水館まで行ってみたかったが、雨がひどくて断念。
このあたりの景色はきっと賢治さんの頃とちっとも変わらないのではないだろうか。雨の橋も風情があっていい。
ふたたびメインの廊下にもどる。
おお、食堂かな。メニューが貼ってある。いいなぁ。右手は売店か。なんか木造の廊下で見る商品ってみんなレトロに見える。茶の間もある。じーさんが一人新聞を読んでいた。じーさん似合いすぎる・・・。
一人旅なら自炊部もいいかもしれない。「障子一枚へだててお隣さん」って環境に慣れればね。
またせまい階段を下りて山水閣へ。
ロビーにあがりひろいソファーでBELAちゃんを待つ。
なんか、さっきまでの自炊部とえらい雰囲気が違う。こっちはふかふかの絨毯。おしゃれなLEDの照明。
しばらくしてBELAちゃんも戻ってきた。彼女はやっぱり温泉のはしごをしたらしい。心臓丈夫だねぇ。
部屋に戻り、服に着替える。いよいよ朝食だ。
朝食はバイキングだった。
こういうところのバイキングって、ついいろいろ目移りしてしまう。
お皿にいっぱいいっぱい盛り付けて席へ座る。
ご飯の他にわんこそば食べたり、パン食べたり、もうメチャクチャ。でも牛乳おいしー。
昨日の仲居さんがお給仕の合間にあいさつしていった。ありがとう。
食べ終わってから、売店へ行ってみた。
あ、昨日の吟醸アイスが売っている。
あ、漬物おいしそー。お土産にいいな。
あ、南部鉄器・・・。
魅惑の黒鉄(くろがね)色。重厚かつ端正。急須やカップもある。そして風鈴も。
盛岡や水沢の駅に降りたことのある人なら知っていると思うが、南部風鈴をずらっと並べて一斉に風になびかせている。
一つでもキンキンと冷たい音をだすのに、それが十も二十も集まるとそこら一帯の気温がすぅっと下がる気すらおぼえる。
岩手の夏の風物詩といってもいいかもしれない。
この季節、南部風鈴をみると、またアレを聴きにいきたいなと思ってしまう。
ふと次男が店の一角でなにかをじいっと見つめている。
ーどした?ー
「んー?」
子供が見ていたのは細長い文鎮。
なんだオマエしぶいナ・・・と言おうとしてよく見るとそれはSL機関車に客車を連ねた軽便鉄道だった。
サイズはNゲージよりやや小さいくらい。
なるほど、南部鉄で銀河鉄道・・・。岩手の思い出としてはぴったりだね。でもシブいな。
「ボクのお小遣いで買えるかな。」
-わかった。すこし手伝ってあげよう。ー
南部鉄の文鎮(銀河鉄道)を買うにあたり、僕も思いきって風鈴を選んだ。
なるべく音の澄んだやつを選んだ。
風鈴の専門店にいけば、もっといろいろあったかもしれない。けれど観光客の目にとまるところにある風鈴は、どれも高価だ。
けっきょく、多少値が張ったとしても自分が気に入った音色を探せば、それで「まぁ悪くない買い物をした」と思うよりほかはないのだ。
9時過ぎにお宿をチェックアウト。
すてきなお宿でした。また来たい。
今日も雨降り。
いよいよ遠野をめざす。
みんな朝風呂入りに行くという。
自炊部?と訊くと、そうだという。
昨日はみんな自炊部の廊下をあれこれ迷ったらしい。うまく辿れるかどうかわからないけど行くという。ちょっとした冒険かい?
僕もタオルを出した。
みんなで部屋を出る。小奇麗な廊下の突き当りを降りて、思いドアを開けるとそこにはしっとりとした木の床と、手すりと、すすけた天井があった。
こりゃ、いいね。
木造独特の香り。年季を帯びた、味わい深い琥珀色フィトン・チット。ここが自炊部だ。
床板はまるで羊羹のようにつややかに光る。各部屋を仕切っているのは障子戸。跚も引き手もすっかり古びて角もまるくなっている。
スリッパで歩くのはなんだかもったいない気がする。できれば裸足で歩きたい。
廊下を突き当たると次の廊下が繋がっている。人ひとり通れる位の幅だったり、階段になっていたり、なんだか面白い。
なるほど、これは冒険だね。
昨日は迷ったというが、実は楽しかったんじゃないかしら?
途中、BELAちゃんは女湯へ。僕らは突き当りの混浴露天風呂をめざす。
最後の階段を降りるとそこがもう風呂だった。ここはよく雑誌に載る風呂なのでどこかで見たことあるかもしれない。
すぐ裸になって、掛け湯をする。
それから露天風呂へ身を沈めた。
雨が降っている。
そのせいだろうか、湯がややぬるい。
せっかくだから雨のなかへ泳ぐように出た。
背中や肩に冷やっとする水滴がおそいかかる。
それでも朝の空気はさわやかで、立ちのぼる湯気が山へと吸い上げられてゆく。暖気と寒気が入り混じりながら身体にまとわりついた。そして身体の細胞がつぎつぎと目覚めてゆく。アルコールの抜けもいい。そんなに飲みすぎなかったということだろうか(飲みすぎで入浴するとたいてい吐きます)。さすが銀河高原ビール、抜け際もさわやか(あくまで個人の感想です)。
ふと外を見ると、すこし高い橋の上を渡る人が見えた。川むこうの菊水館へ行くのだろう。あれ、こっち丸見えじゃん。
いまさら気が付くのも間抜けな話だが、なるほど、昔ながらの混浴露天風呂だ。配慮もへったくれもない。
こっちが裸でじゃぶじゃぶやっている向こうで、宿泊客が知ったことかい、と橋をすたすた渡ってゆく。すごい開放的。
すこし気だるくなってきたので風呂から上がった。
なぜか僕達親子だけ、だぁれもいなくなってしまった。雨だしね。
ちょっと又三郎の気分。
浴衣をはおり、再び自炊部の廊下をぎしぎし歩く。
まだ寝ている人もいるのだろう、障子の前にスリッパがそろえてある。これそろえるのは自炊部の夜警さんだそうで。こまこまめな仕事をなさいますね。頭が下がる。
廊下が枝分かれしている。左は菊水館へ行けるらしい。ちょっと左へ行ってみる。つきあたりで下りれるようになっていてドアがある。ノブをまわして開くともう屋外だった。目の前に木の曲がり橋がかかっている。ははぁ、さっき露天風呂で見上げた橋はコレか。菊水館まで行ってみたかったが、雨がひどくて断念。
このあたりの景色はきっと賢治さんの頃とちっとも変わらないのではないだろうか。雨の橋も風情があっていい。
ふたたびメインの廊下にもどる。
おお、食堂かな。メニューが貼ってある。いいなぁ。右手は売店か。なんか木造の廊下で見る商品ってみんなレトロに見える。茶の間もある。じーさんが一人新聞を読んでいた。じーさん似合いすぎる・・・。
一人旅なら自炊部もいいかもしれない。「障子一枚へだててお隣さん」って環境に慣れればね。
またせまい階段を下りて山水閣へ。
ロビーにあがりひろいソファーでBELAちゃんを待つ。
なんか、さっきまでの自炊部とえらい雰囲気が違う。こっちはふかふかの絨毯。おしゃれなLEDの照明。
しばらくしてBELAちゃんも戻ってきた。彼女はやっぱり温泉のはしごをしたらしい。心臓丈夫だねぇ。
部屋に戻り、服に着替える。いよいよ朝食だ。
朝食はバイキングだった。
こういうところのバイキングって、ついいろいろ目移りしてしまう。
お皿にいっぱいいっぱい盛り付けて席へ座る。
ご飯の他にわんこそば食べたり、パン食べたり、もうメチャクチャ。でも牛乳おいしー。
昨日の仲居さんがお給仕の合間にあいさつしていった。ありがとう。
食べ終わってから、売店へ行ってみた。
あ、昨日の吟醸アイスが売っている。
あ、漬物おいしそー。お土産にいいな。
あ、南部鉄器・・・。
魅惑の黒鉄(くろがね)色。重厚かつ端正。急須やカップもある。そして風鈴も。
盛岡や水沢の駅に降りたことのある人なら知っていると思うが、南部風鈴をずらっと並べて一斉に風になびかせている。
一つでもキンキンと冷たい音をだすのに、それが十も二十も集まるとそこら一帯の気温がすぅっと下がる気すらおぼえる。
岩手の夏の風物詩といってもいいかもしれない。
この季節、南部風鈴をみると、またアレを聴きにいきたいなと思ってしまう。
ふと次男が店の一角でなにかをじいっと見つめている。
ーどした?ー
「んー?」
子供が見ていたのは細長い文鎮。
なんだオマエしぶいナ・・・と言おうとしてよく見るとそれはSL機関車に客車を連ねた軽便鉄道だった。
サイズはNゲージよりやや小さいくらい。
なるほど、南部鉄で銀河鉄道・・・。岩手の思い出としてはぴったりだね。でもシブいな。
「ボクのお小遣いで買えるかな。」
-わかった。すこし手伝ってあげよう。ー
南部鉄の文鎮(銀河鉄道)を買うにあたり、僕も思いきって風鈴を選んだ。
なるべく音の澄んだやつを選んだ。
風鈴の専門店にいけば、もっといろいろあったかもしれない。けれど観光客の目にとまるところにある風鈴は、どれも高価だ。
けっきょく、多少値が張ったとしても自分が気に入った音色を探せば、それで「まぁ悪くない買い物をした」と思うよりほかはないのだ。
9時過ぎにお宿をチェックアウト。
すてきなお宿でした。また来たい。
今日も雨降り。
いよいよ遠野をめざす。