冷蔵庫の中に入れた物体は冷やされるので、庫内のエントロピーは小さくなる。そうすると、熱力学の第二法則が破られるようにみえる。しかし、それは物理系の一部だけをみているから、そうなるのであって、冷蔵庫の背面からは熱が放出されるので、部屋の中のエントロピーは増大する。すなわち、物理系全体としては第二法則が順守されている。
ブラックホールの内部は、絶対零度に近い温度であるので、外部から投げ込まれた物体は冷やされ、ブラックホール内部のエントロピーは減少する。したがって、第二法則を守るためには、ブラックホール全体としてエントロピーが増大しなければならない。
ブラックホールの温度TとエントロピーSを計算するためのホーキングの公式は、次の通りである。
T=hバー×c^3/(8パイ×kGM) S=Akc^3/(4hバー×G)
ここで、hバーはプランク定数/2パイ、cは光速度、kはボルツマン定数、Gは重力定数、Mはブラックホールの質量、Aはブラックホールの表面積である。
表面積Aは、シュワルツシルド半径の式r=2GM/c^2と球の表面積公式A=4パイr^2から求められる。
ブラックホールの質量M=10^31kgの場合の温度Tを計算すると、約10^-8度Kという極低温を得る。よってブラックホール内部のエントロピーSはほぼゼロとなる。
ブラックホールが温度300度Kもつ10kgの物体を飲み込んだときの内部のエントロピーの変化分dsを求める。ブラックホール内部がもつエネルギーの変化分をdEとすると、計算式はdE=Tdsである。なお、物体は電荷をもたないので、電荷の増加によるエネルギーの変化分はないものとし、ブラックホールの自転に伴う角運動量の増加分は無視する。
物体の比熱を100cal/g.degとすると、物体がもつ熱量は約10^9ジュールと計算できるので、これがdEとなる。T=10^-8とすると、内部エントロピーの減少分dsは約10^17ジュール/度となる。
物体の投入によるブラックホール全体のエントロピーの増加分dSは、表面積の変化分をdAとすると、
dS=dA×kc^3/(4hバー×G)
の式から得られる。dAはMdMに依存する。M=10^31kg,dM=10kgとすると、dSは約10^24ジュール/度となる。つまり、ブラックホールが物体を飲み込むことで失われるエントロピーの減少を、ブラックホールのエントロピーの増加が補って余りあることになる。
ブラックホールに投げ込まれる物体がなくとも、「ホーキング放射」により、ブラックホールは時間の経過とともにエネルギー、すなわち質量を失って痩せていく。それは、あたかもブラックホールが粒子を放出して痩せていくように見える。実際には、真空から対生成した一方の粒子または反粒子が負のエネルギーをもってブラックホールの中に落ち込むことで、事象の地平線の外側にいる正のエネルギーをもった他方の反粒子または粒子がもっていた運動エネルギーによってブラックホールから飛び去っていくという現象である。
ホーキング放射は、量子力学によって説明できる現象であり、ブラックホール内部にある粒子が事象の地平線をつき抜けて外部に流出するわけではない。よって古典力学ではこの現象を説明できないとともに、熱力学の第二法則が破られることになる。
ホーキング放射は、通常の黒体放射のように熱放射であり、粒子の放出量はブラックホールの表面積だけで決まる。したがって、ブラックホールに物体を投入すれば、その物体の分だけ表面積が増えるので、粒子の放出量が増えるだけである。放出される粒子は、運動エネルギーをもつとともにボルツマンの速度分布のような速度分布をもち、熱平衡状態にある領域についてはそれ相応の温度をもつのであろう。太陽は、強烈な電磁波とともに粒子も放出する。ブラックホールは、電磁波を(ほとんど)放出しないが、粒子を放出するのである。
蛇足ではあるが、動物または人間の集団も時間の経過とともに自然にその個体数や人口が減少していく。この集団に新たな出生者が加わったとしても彼らも順次消えていくことになる。ブラックホールも生命体も、ともに自然の摂理から逃れることはできないのである。
ブラックホールがエントロピーをもつのであれば、その量に応じて可能な状態の数が決まる。計算によれば、その状態数は膨大な数になる。状態数は、ブラックホールに書き込める情報量に対応する。参考文献は、ブラックホールに投げ入れた本の情報が再現できるのか否か(「ブラックホールの情報問題」)について論じている。ブラックホールに本を投入すると、その情報に応じた状態が形成され、その状態がブラックホール全体の状態に反映され、ひいてはホーキング放射に反映されるのであろうか。ブラックホールでは、いわゆる「因果律」が成立するのか否かという問題が提起された。
参考文献
ウィキペディア「ブラックホールの熱力学」のほかに、
大栗博司著「重力とは何か」(幻冬舎新書)
スティーヴン・ホーキング著「ホーキング、未来を語る」(アーティストハウス)
ブラックホールの内部は、絶対零度に近い温度であるので、外部から投げ込まれた物体は冷やされ、ブラックホール内部のエントロピーは減少する。したがって、第二法則を守るためには、ブラックホール全体としてエントロピーが増大しなければならない。
ブラックホールの温度TとエントロピーSを計算するためのホーキングの公式は、次の通りである。
T=hバー×c^3/(8パイ×kGM) S=Akc^3/(4hバー×G)
ここで、hバーはプランク定数/2パイ、cは光速度、kはボルツマン定数、Gは重力定数、Mはブラックホールの質量、Aはブラックホールの表面積である。
表面積Aは、シュワルツシルド半径の式r=2GM/c^2と球の表面積公式A=4パイr^2から求められる。
ブラックホールの質量M=10^31kgの場合の温度Tを計算すると、約10^-8度Kという極低温を得る。よってブラックホール内部のエントロピーSはほぼゼロとなる。
ブラックホールが温度300度Kもつ10kgの物体を飲み込んだときの内部のエントロピーの変化分dsを求める。ブラックホール内部がもつエネルギーの変化分をdEとすると、計算式はdE=Tdsである。なお、物体は電荷をもたないので、電荷の増加によるエネルギーの変化分はないものとし、ブラックホールの自転に伴う角運動量の増加分は無視する。
物体の比熱を100cal/g.degとすると、物体がもつ熱量は約10^9ジュールと計算できるので、これがdEとなる。T=10^-8とすると、内部エントロピーの減少分dsは約10^17ジュール/度となる。
物体の投入によるブラックホール全体のエントロピーの増加分dSは、表面積の変化分をdAとすると、
dS=dA×kc^3/(4hバー×G)
の式から得られる。dAはMdMに依存する。M=10^31kg,dM=10kgとすると、dSは約10^24ジュール/度となる。つまり、ブラックホールが物体を飲み込むことで失われるエントロピーの減少を、ブラックホールのエントロピーの増加が補って余りあることになる。
ブラックホールに投げ込まれる物体がなくとも、「ホーキング放射」により、ブラックホールは時間の経過とともにエネルギー、すなわち質量を失って痩せていく。それは、あたかもブラックホールが粒子を放出して痩せていくように見える。実際には、真空から対生成した一方の粒子または反粒子が負のエネルギーをもってブラックホールの中に落ち込むことで、事象の地平線の外側にいる正のエネルギーをもった他方の反粒子または粒子がもっていた運動エネルギーによってブラックホールから飛び去っていくという現象である。
ホーキング放射は、量子力学によって説明できる現象であり、ブラックホール内部にある粒子が事象の地平線をつき抜けて外部に流出するわけではない。よって古典力学ではこの現象を説明できないとともに、熱力学の第二法則が破られることになる。
ホーキング放射は、通常の黒体放射のように熱放射であり、粒子の放出量はブラックホールの表面積だけで決まる。したがって、ブラックホールに物体を投入すれば、その物体の分だけ表面積が増えるので、粒子の放出量が増えるだけである。放出される粒子は、運動エネルギーをもつとともにボルツマンの速度分布のような速度分布をもち、熱平衡状態にある領域についてはそれ相応の温度をもつのであろう。太陽は、強烈な電磁波とともに粒子も放出する。ブラックホールは、電磁波を(ほとんど)放出しないが、粒子を放出するのである。
蛇足ではあるが、動物または人間の集団も時間の経過とともに自然にその個体数や人口が減少していく。この集団に新たな出生者が加わったとしても彼らも順次消えていくことになる。ブラックホールも生命体も、ともに自然の摂理から逃れることはできないのである。
ブラックホールがエントロピーをもつのであれば、その量に応じて可能な状態の数が決まる。計算によれば、その状態数は膨大な数になる。状態数は、ブラックホールに書き込める情報量に対応する。参考文献は、ブラックホールに投げ入れた本の情報が再現できるのか否か(「ブラックホールの情報問題」)について論じている。ブラックホールに本を投入すると、その情報に応じた状態が形成され、その状態がブラックホール全体の状態に反映され、ひいてはホーキング放射に反映されるのであろうか。ブラックホールでは、いわゆる「因果律」が成立するのか否かという問題が提起された。
参考文献
ウィキペディア「ブラックホールの熱力学」のほかに、
大栗博司著「重力とは何か」(幻冬舎新書)
スティーヴン・ホーキング著「ホーキング、未来を語る」(アーティストハウス)