18世紀の天才数学者オイラーは、自然数全体の和の公式
1+2+3+...=-1/12 (1)
を導き出している。左辺はどう見ても無限大になるのに、右辺が-1/12に収束することを示しているから、この式は矛盾である。
途中の計算結果を省くが、オイラーは、次の無限級数の和を算出している。
1-2+3-4+5-6+...=1/4
この式の左辺を自然数全体の和から偶数全体の和を2倍して引くと見て、
1-2+3-4+5-6+...
=(1+2+3+4+5+6+...)-2(2+4+6+...)
=(1+2+3+...)-4(1+2+3...)
=-3(1+2+3+...)
というように考えると、(1)式が導き出せる。
しかし、この計算は、無限級数の項の順序を変えてしまっている。無限級数の項の順序変更は、やってはいけないこととされている。そのため、上記の矛盾に陥ったものと見ることができる。
しかし、この問題は、これで終わりではなく、ゼータ関数につながるのである。
ゼータ関数とは、
Z(s)=1-s+2-s+3-s+4-s+...
で表現できるsの関数である。ブログでは、ギリシャ文字のゼータ記号を使えないようなので、Zで代用する。
またも途中の数式計算を省くが、次の定理が証明されている。n=N,...,M-1とすると、
Sn=NMf(n)=SNMf(x)dx+(f(M)+f(N))/2+(f‘(M)-f‘(N))/12+(1/6)SNMh(x-[x])f‘‘‘(x)dx (2)
が得られる。f(x)はxの関数、f‘(x)はf(x)の1回微分、f‘‘‘(x)はf(x)の3回微分、Sn=NMf(n)はf(N)+f(N+1)+...+f(M)を、SNMはdxの前に置かれた関数をNからMまでの区間について積分することを示す。
xの関数h(x)は、xの区間(0,1)でx3-3x2/2+x/2で表現される関数である。h(x)は、x=0,1/2,1で値0をとり、x=1/2-1/2root3で1/12root3の極大値をとり、x=1/2+1/2root3で-1/12root3の極小値をとる。
h(x-[x])は、任意の区間(n,n+1)で区間(0,1)のh(x)のパターンを繰り返す周期関数である。[x]は、xの整数部分を示すガウス記号である。
式(2)において、f(x)=x-sとおいてみる。はじめはs>1とする。そのときは
f‘(x)=-sx-s-1,f‘‘‘(x)=-s(s+1)(s+2)x-s-3,SNMf(x)dx=(M1-s-N1-s)/(1-s)
だから
Sn=NMn-s=(M1-s-N1-s)/(1-s)+(M-s+N-s)/2-s(M-1-s-N-1-s)/12-s(s+1)(s+2)/6SNMh(x-[x])x-s-3dx
となる。そこでM→無限大(*で示す)とすると、
Sn=N*n-s=-N1-s/(1-s)+N-s/2+sN-1-s/12-s(s+1)(s+2)/6SN*h(x-[x])x-s-3dx
を得る。ここで、
Sn=N*n-s=Z(s)-Sn=1Nn-s+N-s
だから、
Z(s)=Sn=1Nn-s-{N1-s/(1-s)+N-s/2-sN-1-s/12}-s(s+1)(s+2)/6SN*h(x-[x])x-s-3dx (3)
となる。
(3)式の右辺の積分は、h(x-[x])がその極大値と極小値の範囲にしかなく、s>-2においてx-s-3が0に収束するため、絶対収束する。そこで、(3)式は、s>-2における解析接続を与えていると言われる。Sn=1Nn-sがZ(s)の有限級数の部分を与え、積分は無限部分であり、{ }の項が両者を接続する部分となっている、ということだろうか。
さらに、N→無限大とすると、積分は0に収束するため、
Z(s)=limN→*{Sn=1Nn-s-(N1-s/(1-s)+N-s/2-sN-1-s/12)} (4)
というゼータの繰り込み表示が得られた。s=-1とおいてみると、
Z(-1)=limN→*{Sn=1Nn-(N2/2+N/2+1/12)}=limN→*{(N2/2+N/2)-(N2/2+N/2+1/12)}=-1/12
となる。このようにして、Z(-2)=0,Z(-3)=1/120,...などの計算結果が得られている。
ここで、Mに関するM-sなどを0に収束させるためにs>1としたのに、x-s-3を0に収束させるときにはs>-2という条件にしたのは、矛盾ではないか、という疑問が生じる。しかし、Mに関するM-sなどを収束させるときには、Nに関するN-sなどは関与していないからそのsは何でもよいとみなしており、これは巧妙なトリックかも知れない。
Z(-1)の有限級数部分は、(1)の有限級数部分と同じであるから、それは正の値でなければならない。無限級数Z(-1)がどこで負の値に転じるのか不明であり、ただ結果として(4)式が得られたということになる。limN→*Sn=1Nn-sは、Z(s)それ自身であるから、{ }内の項をlimN→*をつけて項分けすることはできない。無限大となるべきNが消えるのも巧妙である。
(1)式のように発散してしまう無限級数も、Z(-1)のようにゼータ関数表示にして繰り込み操作をすると収束するというのも、無限級数の興味深いところである。数学的には(4)式が正しいと認められているが、数学外の世界でも(4)式が許容されるのか否かが次の関心事となる。
場の理論によると、真空も電磁場として取り扱われる。真空は、エネルギー的には基底状態にあり、零点エネルギーをもって零点振動を行っている状態とされる。零点エネルギーの大きさは、電磁場の波数ベクトルkの各三次元成分を無限大にまで及ぶkの可能な範囲について加え合わせたものに比例する。
真空中に、薄い金属膜を2面、接近するように向かい合わせておく。2つの膜の間には電気的クーロン力が存在しないにもかかわらず、膜の間には弱い引力が働き、膜が互いに引き合うことが確かめられている(カシミール効果と呼ばれている)。
金属膜の間の狭い空間に閉じ込められている電磁場の零点エネルギーと、金属膜がないときの同一空間内の零点エネルギーとの間には差分が生じるので、その差分を計算することによって、膜の間に生じる引力の大きさを算出することができる。
参考文献を参照し、零点エネルギーの差分を計算する数式に基づいて、その計算を実行してみた。この数式に到達するまでの論理的手順には理解できない個所もあったが、とにかく、この数式を信頼して計算を行った。その結果、最終的には、
13+23+33+43+...
を計算すればよいことが分かった。この無限級数をゼータ関数とみなせば、Z(-3)=1/120に相当する。この数値を用いると、私の計算結果は、参考文献の結果にピタリと一致した。
カシミール効果による引力の大きさは、実測されており、理論値と一致することが確かめられている。そうすると、ゼータ関数の少なくともZ(-3)が、間接的に確認されたことになる。
参考文献
黒川信重著「オイラー探検」(シュプリンガー・ジャパン)
武田暁著「物理学選書21:場の理論」(裳華房)
武田暁著「基礎物理学選書25:素粒子」(裳華房)