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究極のノートパソコンとは

2020-05-17 07:52:28 | ブログ
 ブラックホールから通常の熱放射によるエネルギー放出はないので、ブラックホールは熱平衡状態に達した孤立系と考えることができる。

 ホーキングは、ブラックホールの温度TとエントロピーSを計算するための公式を導き出した。Tはブラックホールの質量Mに依存するが、Sはブラックホールの表面積Aのみに依存する。ブラックホールが熱平衡状態にあるのであれば、そのエネルギーをEとするとき、E=TSが成り立つものと考える。ここでEはMc^2と置いてみる(cは光速度)。そこで、ホーキングの公式からTSを計算する。Aはシュワルツシルドの公式を用いてブラックホールの半径を計算し、その半径から球の表面積公式により計算できる。結果は、Mc^2/2であり、想定したEの値に一致しなかった(その理由は不明)。

 このブログでは、いっさい熱を発生させずに情報を処理できる究極のノートパソコンと称する参考文献のコンピュータについて検討することにした。ただその実現性は大いに疑わしいので、一種の思考実験と考え、物理法則の下で語られるエネルギー、エントロピー、量子状態の数および情報がどのように関連するのかについて注目したい。

 このノートパソコンは、容積1リットルの空間に格納された質量1kgの物質をエネルギー源とする。仮にこの物質がブラックホールになったときのシュワルツシルド半径を計算すると、約10^(-27)mとなる。この程度の微小なブラックホールは、量子現象に由来する「ホーキング放射」のためにその物質、すなわちエネルギーは短時間のうちに蒸発してしまうとされる。

 まず与えられた1kgの物質がもつ全エネルギーを計算に利用するとき、計算性能の最大限界を求める。物質の質量をm、プランク定数をhとすると、mc^2=h×(電磁波の周波数)の式からコンピュータのクロック周波数が計算できる。m=1と置くと、周波数=10^51と算出できるから、毎秒10^51回の演算が可能である。

 次に、このコンピュータがもつメモリ容量の最大限界を求めるために、この系の量子状態の数を計算する。ここでは、統計物理学に出てくるエネルギーの分布関数w(E)を求める式が基本法則となる。この分布関数にはフェルミ分布とボーズ分布があるが、系の温度Tは10億度を想定するので、物質はプラズマ状態になっている。電子などのフェルミ粒子とボーズ粒子である光子とが混在した状態になっているので、両分布関数は一つに統一したものになる。また、ギリシャ文字のミューで表される化学ポテンシャルは無視してよい。

 0とEとの間にエネルギーをもつ量子状態の総数をQ(E)とすると、エネルギーの確率分布を積分したものが1になるようなQ(E)は、
   Q(E)×w(E)=1
から求められる。そうすると、
   Q(E)=exp(E/kT)
の式によって状態数が計算できる。kはボルツマン定数である。正確には系の容積×エネルギー密度であるが、全エネルギーEだけで計算できることになる。

 E=c^2と置いて計算すると、
   E/kT~10^30
となる。

 物理的なエントロピーSはS=klnQ(E)の式によって計算できる。ここでTSを求めるとEに等しくなるから、統計的な平衡が成立していることを確認できる。

 情報を扱う場合には、情報理論に則り、
   エントロピー=log(2)N=n
の式によってメモリのビット数nに相当するエントロピーを求める。ここでN=Q(E)である。log(2)は2を底とする対数を表す。すなわち、N=2^nである。

 Q(E)を計算すると、nはおよそ10^31ビット、Nは2の「10の31乗」となる。ほぼ参考文献のn,Nの値に一致する。

 毎秒の可能な演算回数10^51を総ビット数10^31で割ると、ビット当たりの毎秒可能な演算回数10^20を得る。この数値は、ビット当たりのスイッチ回数を示し、基本的な論理演算の回数を示し、近隣のビットとの間の相互作用の回数を示す。この演算数はkT/10hの式で表されるので、系の温度Tに比例する。

 このコンピュータへの情報入力およびこれからの情報出力について、そのデータ入出力速度を求める。コンビュータの容積は1リットルであるから0.1m^3の容積をもつ。総ビット数10^31分のデータを光速度で隣接する1リットルの空間に移動するときかかる時間は0.1m/c秒であるからデータ転送速度は、10^31をこの所要時間で割って、およそ10^40ビット/sの計算となる。

 1ビットの情報をコンピュータの一端から他端まで0.1mの距離を転送するに要する時間10^(-10)秒にビット当たりの毎秒のスイッチ回数10^20回/秒を掛けると、この間のスイッチ回数10^10回を得る。この間に多くのアクションが並列して行われるから、計算は並列計算となる。

 このようにして、この理想的なコンピュータは、この孤立系の内部エネルギーだけで情報処理を続行するというのが科学者と技術者の夢であろう。ただこのプラズマ状態の系を安定して制御できるものかどうかは素人には分からない。例えば、核融合実験炉のプラズマ状態をこのコンピュータでシミュレーションできるのであれば、すばらしい成果を期待できるような気がする。このコンピュータを安定的に制御するということは、すなわち核融合炉のプラズマ状態を安定して制御することを意味するのではなかろうか。

 ところで、人間の脳は1000億個くらいのニューロンをもつと言われている。各ニューロンは1つの状態を表すとみてよいから、N=10^100の状態が存在することになる。そうすると、10^100は2^333に相当するから、n=333となり、わずか333個の量子ビットをもつ量子コンピュータがあれば脳のシミュレーションが原理的に可能である。ただし脳全体の状態とその時間変化を表現するような量子アルゴリズムの開発が難題であり、将来の課題であろう。

 参考文献
 https://www.edge.org/conversation/seth_lloyd-how-fast-how-small-and- how-powerful
 大栗博司著「重力とは何か」(幻冬舎新書)
 スティーブン・ホーキング著「ホーキング、未来を語る」(アーティストハウス)
 ポール・デイヴィス著「生物の中の悪魔」(SBクリエイティブ)