もう9年前のことになるが、多変量解析という手法を一度使ってみたいと思っていた。ちょうどその頃、県民性に興味をもち、岩中祥史著「出身県でわかる人の性格」(草思社)を読んだので、多変量解析によって県民の性格を分析できるものかどうか、試してみることにした。なお、各県の性格データは、当時のデータのままである。
とり挙げる性格として、1=忍耐強い/あきらめ早い、2=体制的/反骨的、3=とっつきにくい/人あたりがよい、4=質素倹約/はで好き、5=消極的/積極的、6=協調性大/個人主義、7=勤勉/あそびずき、8=排他的/開放的の8つの分類とした。
各性格の前者に+1、後者に-1、いずれとも言えないに0の値を与え、各県の人口比をウェイトとして値に掛け、各性格の全国平均値を求めた。
参考までに、各県の性格値の一覧表を以下に挙げる。
性格 12345678
北海道 0 0-1 0 0-1 0-1
青森 1-1 1 0 0 0 0 0
岩手 1 0 1 0 0 0 1 0
宮城 -1 0 0-1 0 0 0 0
秋田 0 0 0-1 0 1-1 0
山形 1 0 0 1 0 0 1 0
福島 1 0 1 0 0 0 0 1
茨城 0 0 1 0 0 0 0 0
栃木 0 1 0 0 1 0 0 0
群馬 0 0 0-1 0 0-1 0
埼玉 0 1 0 0 0 0 1 0
千葉 0 1 0 0 0 0 0 0
東京 0 0 0 0 0-1 0-1
神奈川 0 0-1 0 0 0 0 0
新潟 1 0 1 0 0 0 1 0
富山 0 0 0 1 0 0 1 0
石川 -1 1 0 0 1 0 0 0
福井 -1 1 0 1 0 0 0 0
山梨 0 0 0 0 0 0 0 1
長野 0 0 0 0 0 0 0 1
岐阜 0 1 0 0 1 0 1 0
静岡 0 1 0 0 1 0 0 0
愛知 0 1 0 1 0 0 1 0
三重 0 0 0 0 1 0 0 0
滋賀 0 0 0 0 0 0 1 0
京都 0 1 0 0 0 0 0 1
大阪 0 0-1 0 0-1 0-1
兵庫 0 0-1 0 0 0 0-1
奈良 0 0 0 0 1 0 0 0
和歌山 0 0-1 1 0 0 0 0
鳥取 1 1 0 0 1 0 1 0
島根 1 1 0 0 1 0 1 1
岡山 0-1 0 0-1 0 0 0
広島 -1 0 0 0-1 0 0 0
山口 0 0 0 0-1 0 0 0
徳島 0 0-1 1 0 0 1-1
香川 -1 1-1 1 0 1 0 0
愛媛 -1 0 0 0 0 0 0 0
高知 0-1 0-1 0 0-1 0
福岡 0 0 0-1 0 0-1 0
佐賀 0 1 0 0 0 1 0 0
長崎 0 0-1-1 0-1-1-1
熊本 -1 1 0 0 0 0 1 0
大分 0 0 1 0 0-1 0 0
宮崎 -1 0 0 0 1 0 0 0
鹿児島-1 1 1 0 1 0-1 1
沖縄 0 0 1 0 1 0 0 0
次に、各性格の分散vi(i=1~8)と共分散vij(i,j=1~8)を計算し、これらからrij=vij/(vivj)によって相関係数を求めた。その結果、まず3=とっつきにくい/人あたりがよい、6=協調的/個人主義的、8=排他的/開放的の3つの性格が相関性強いことがわかった。また、2,4,7の3つの性格が相関性強いことがわかった。3-6-8と2-4-7との間にはほとんど相関がないので、これら2つのグループを分けて、各々のグループについてさらに分析を進めればよい。
次に、3-6-8の性格グループについて、その相関行列に基づいて主成分分析を行った。第1主成分、第2主成分、第3主成分の固有値と各々の固有ベクトルの成分値を計算した。その結果によると、第1主成分と第2主成分によって情報の97%を吸収しているので、第3主成分を無視してよい。
各主成分の固有ベクトルの成分から成る行列に、元の座標軸についての3,6,8の性格の値を成分とする各サンプルの性格ベクトル(x3,x6,x8):x3,x6,x8=1,-1又は0、を掛けると、第1~第3主成分軸から構成される座標に変換したときの性格ベクトル(f1,f2,f3)が得られる。(f1,f2,f3)は、主成分得点と呼ばれる。
3,6,8の性格値の組合せをパターンに分類し、各パターンについて主成分得点を計算する。各サンプルについて第1主成分得点と第2主成分得点をグラフにプロットすることができる。これによると、第1主成分の負の方向に偏った東京、北海道、大阪、長崎、兵庫、徳島が都会型のパターンを示す。また、第1主成分の正の方向に偏った青森、岩手、茨城、新潟、沖縄、鹿児島、福島、山梨、長野、京都、島根、秋田、佐賀が反都会型のパターンを示す。また、山形などx3,x6,x8=オール0の県は、いずれにも属さず、中間型と言えようか。すなわち、第1主成分は、(x3,x6,x8)の成分のうちいずれか1つの成分が-1であるパターンを都会型、いずれか1つの成分が1であるパターンを反都会型とすると、都会型か反都会型かの性格パターンに分けるものである。なお、大分と香川は、このような類型的パターンに属さないので、異端の県民性をもつ県であると言える。
東京、大阪が都会型であることは予想通りであるが、京都と茨城が反都会型であるとわかると、やっぱりなあ、と思ってしまう。それにしても、都会型の大阪近くの北東方向に反都会型の京都が位置しており、東京近くの北東方向に茨城が位置しているという構図を確認すると、関東と関西は、性格パターンの視点から見て自己相似形をしたフラクタルの一例ではないか、と考えたくなる。いささか悪のりしたようだ。