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小惑星のまわりを回る小惑星

2022-01-23 07:24:19 | ブログ
 米国のNASAは、2022年秋に小惑星に衝突させることを目的とするDART探査機(Double Asteroid Redirection Test―二重小惑星方向転換試験)を打ち上げた。将来、地球に衝突すると予想される小惑星が近づいたとき、これに何らかの人工物を衝突させてその軌道をそらせ、小惑星直撃から地球を防衛できるのか否かテストするためという。

 この二重小惑星は、直径780mほどの小惑星(以下中心星と呼ぶ)と、そのまわりを回る直径160mほどの小惑星(衛星)とから成る。探査機を衝突させるのは、衛星の方である。

 dartとは、投げて的に当てるための先のとがった矢じりのことであるから、DARTという名称とよく符合しているのはご愛敬か。

 二重小惑星が存在するという話は聞いたことがなく、珍しいので、この際、それが存在できるのか否か、検証と言うとおこがましいので確認しておくことにした。

 まず、二重小惑星の質量を推定する。中心星は球形に近いが、球モデルの直径は2割減とし、620mと仮定した。衛星は、じゃがいも形をしているので、写真の寸法を参考にして、その長さは2割減の130mとし、幅は90mの円柱形のモデルを仮定した。

 これらの仮定に基づいて各々の体積を計算すると、中心星は1.25×10^8m^3、衛星は8.27×10^5m^3となった。

 小惑星の密度は不明であるが、月の平均密度3.34g/cm^3の数値を用いた。そうすると、中心星の質量は4.18×10^11kg、衛星の質量は2.76×10^9kgと計算できる。

 衛星の軌道は円軌道と仮定する。地球のまわりを回る人工衛星の軌道を円とみなしてよいのであれば、この衛星も同様であろう。そうすると、衛星の軌道半径(一定値)をrとし、中心星、衛星の質量を各々m1,m2、重力定数をGとすると、衛星の速度Vは、次の式で与えられる。
   V^2=G(m1+m2)/r

 一方、衛星の公転周期は約12時間と分かっているので、軌道円周l=2パイrと置くと、V=l/公転周期で与えられる。

両式のVは同じになるはずだから、等しいと置くと、rが1100mと計算でき、これからV=0.16m/sが求められる。

 DART探査機は、重さ500kg、速度6.67km/sで衛星に衝突する。この衝突の結果、衛星の軌道は小さく短くなるということなので、正面衝突と考えてよい。

 そこで、衝突前と衝突後の衛星の運動量=質量×速度を計算する。衝突前の衛星の運動量は、4.42×10^8kgm/sとなる。探査機の運動量は3.34×10^6kgm/sとなるから、衝突の結果、衛星の運動量は4.39×10^8kgm/sに減少するはずである。したがって衛星の速度はわずかに落ちる。計算すると、衛星の速度は、0.159m/sになる。

 予測によると、探査機衝突後の衛星の公転周期は10分程度早くなるとのことである。この数値を上記計算式に適用すると、rが1089mになるという計算になる。これによって、衝突の結果、衛星の軌道は小さく短くなるという予想を確認できたとみてよいだろう。

 それにしても、衛星の速度0.16m/秒は遅く、衛星がこれほど遅い速度を実現できるのは二重小惑星の衛星ならでは、ということであろう。二重小惑星の全体は、通常の小惑星と同様に、太陽の引力によって公転しているのだから、km/sの単位で語られるほどの速度で運動しているはずである。

 仮にこの衛星の速度が0.16m/秒の1.5倍程度の速度で中心星の重心から1100m離れた地点を水平に移動するとしてみよう。この天体は、中心星の衛星とはならず、飛び去ってしまうであろう。

 参考文献
 新聞記事、ネット記事のNASAニュースのほかに、
鈴木敬信著「天文学通論」(地人書館)

量子情報と極限宇宙に関する講演を聴講して

2022-01-02 07:51:48 | ブログ
 昨年の12月11日に、京都大学基礎物理研究所の高柳先生による「量子情報から創発する極限宇宙」と題する講演があり、聴講した。

 ブラックホールの重力理論を研究する過程で提唱されたホログラフィ原理が拡張され、宇宙という空間の曲面の面積が物質の情報量を表しているという理論に至ったという。言い換えれば、ホログラフィ原理は、宇宙全体が量子ビットの集合体と解釈できることを示唆する。

 複数の量子ビットの集合には、量子間の相関関係によって、いわゆる量子もつれが生じる。量子もつれの立場で、宇宙の面積と物質の情報量との関係式を解釈すると、プランク面積(プランク長×プランク長)あたり1ビットの量子もつれが存在することを意味するという。つまり1平方cmの面積には10^65量子ビットの情報が存在し得るのである。

 参考文献の説明によれば、「(三次元)空間の果てにある二次元の平面上で起きていることを、三次元空間で起きているように幻想しているのです。」と言うのだが、重力理論と情報量との関係が、素人にはどうにも理解したとは言えない。

 そこで、重力理論のことは脇に置いて、宇宙は量子ビットで構成されているという話を聴いたので、関連する話題として量子コンピュータのことに言及しておこう。

 D-waveのような量子コンピュータは、宇宙のモデルになっているのではないか、と想像する。ここでは、量子ビット間の量子もつれを利用して計算し、量子アニーリングのような工学的技法を用いて計算結果を得ている。

 自然の宇宙では、真空中で量子ビット間の相互作用が量子ゆらぎをもたらすのだろうか。真空から粒子と反粒子が生成されては消滅しているとすれば、これらの粒子の量子もつれによって量子場は常にゆらいでいても不思議ではない。

 量子ゆらぎ(真空ゆらぎ)は、宇宙の構造の起源において重要とされており、宇宙誕生の初期に生じたインフレーションと呼ばれる宇宙空間の急激な膨張は、真空の場が量子ゆらぎにより急速に引き伸ばされることによって生じたと考えられている。

 そもそも真空の場からどのようにして宇宙が誕生したのかという問題については、「量子ゆらぎ」や「量子相転移」をネット検索しても答えが出てこない。宇宙誕生の要因は、真空の場に広く分布していた真空のエネルギーが突然量子ゆらぎの相転移によって、空間の一点(特異点)に集中したのではなかろうか。

 個々の分子がランダムに運動する気体分子の集団という力学系において、個々の分子のエネルギーはゆらぐが、集団の分子数Nが限りなく大きくなると、ゆらぎの総和をNで割った一個当たりのゆらぎは限りなくゼロに近づく。気体分子の集団では、分子集団の全エネルギーが一点に集中することは無理であるが、量子ビット密度が格段に高い真空場となると、エネルギーの一点集中は可能ではなかろうか。

 ところで、高柳先生は、「ブラックホール(BH)は温度をもっているので、実は電磁波(光)を放射する」と説明された。私は、BHが粒子や反粒子を放出するが、光を放出しないように思い込んでいたので、関連する記述を訂正する必要を感じた。

 BHは、時間の経過とともにエネルギー、すなわち質量を失って痩せていく。その理由は、真空から対生成した一方の粒子または反粒子が負のエネルギーをもってBHの中に落ち込むことで、事象の地平線の外側にいる正のエネルギーをもった他方の反粒子または粒子がもっていた運動エネルギーによってBHから飛び去っていくためである。

 事象の地平線から離れた粒子と反粒子の中にはそのまま飛び去っていくものもあるが、粒子と反粒子とが出会って対消滅するものもあるだろう。後者の場合には、ガンマ線のような電磁波を放出する。

 そこで、2021年5月2日付の「ブラックホールの熱力学にはまる」と題するブログの「ホーキング放射は、通常の黒体放射のように・・・放出するのである。」のパラグラフを以下のように訂正します。

 「ホーキング放射は、通常の黒体放射のように熱放射であり、粒子の放出量はブラックホールの表面積だけで決まる。したがって、ブラックホールに物体を投入すれば、その物体の分だけ表面積が増えるので、粒子の放出量が増えるだけである。放出される粒子と反粒子の中には、両者が出会って対消滅するペアがあるだろう。その場合には、ガンマ線のような電磁波を放射する。太陽は、強烈な電磁波とともに粒子も放出する。ブラックホールは、粒子とともに、目には見えないが電磁波を放出するのである。」

 参考文献
 大栗博司著「重力とは何か」(幻冬舎新書)