新聞記事で、錯視の研究をしている杉原厚吉さんの模型を見て、錯視について興味をもった。
図に示すように、杉原さんの模型を前面から見ると、カマボコ形(a)に見える。また、この模型を後面から見ると、蛇腹状(b)に見える。模型の本体はどのような形状をしているのか、謎であった。
射影幾何学の知識をもって、まともに本体の形状を推定しようとすると、本体は存在しないという結論になる。
(a),(b)いずれも、3次元空間上の同一位置にある本体をある平面上に投影し、その平面上の線図形をある視点から見ているものと考えることができる。そうすると、(a)では、本体の前面の視点から見て、中央の稜線は、その両脇の2つの稜線がつくる平面より近くになければならない。また、(b)では、本体の後面の視点から見て、中央の稜線は、その両脇の2つの稜線がつくる平面より遠くになければならない。(a)と(b)両方の図から、この遠近関係が前面と後面で同一でなければならないことが読み取れるので、これは矛盾である。
本体の形状が展開図で示す(c)のようなものではないかと想定しながら試行錯誤を続け、(a),(b)いずれかの中央稜線が実像であり、他方は錯視であることに気付くまでには相当の時間が必要であった。
平面図が(c)の形状の図形を描き、切り抜いて、3つの稜線を適当に山折りにして本体をつくる。この模型を一方の方向(前面)から見ると、(a)の形状に見える。また、この模型を他方の方向(後面)から見ると、(b)の形状に見える。
(b)では、適当な視点から見ると、視覚が両脇の山を強調する形状にだまされて、中央稜線が谷のように見えるのである。
新聞記事に出ていた別の角度から見た本体の形状を示唆する写真から本体の寸法を採取させてもらうと、両端の長方形の短辺が7mm、長辺が13mm、中央稜線の両脇の平行四辺形の高さが7mm、両端の長方形から中央稜線に達する斜線が12mmと計測できるので、ほぼこの寸法の比率で本体をつくればよいことが分かる。
この錯視に類似した現象として、「お化け坂」の名で知られる錯視がある。急な下り坂の途中からゆるやかな下り坂が続くような道では、ゆるやかな下り坂が上り坂に見える現象である。車を運転する人の中には、この錯視を経験した人がいるのではなかろうか。
参考文献
杉原厚吉著「形と動きの数理」(東京大学出版会)
図に示すように、杉原さんの模型を前面から見ると、カマボコ形(a)に見える。また、この模型を後面から見ると、蛇腹状(b)に見える。模型の本体はどのような形状をしているのか、謎であった。
射影幾何学の知識をもって、まともに本体の形状を推定しようとすると、本体は存在しないという結論になる。
(a),(b)いずれも、3次元空間上の同一位置にある本体をある平面上に投影し、その平面上の線図形をある視点から見ているものと考えることができる。そうすると、(a)では、本体の前面の視点から見て、中央の稜線は、その両脇の2つの稜線がつくる平面より近くになければならない。また、(b)では、本体の後面の視点から見て、中央の稜線は、その両脇の2つの稜線がつくる平面より遠くになければならない。(a)と(b)両方の図から、この遠近関係が前面と後面で同一でなければならないことが読み取れるので、これは矛盾である。
本体の形状が展開図で示す(c)のようなものではないかと想定しながら試行錯誤を続け、(a),(b)いずれかの中央稜線が実像であり、他方は錯視であることに気付くまでには相当の時間が必要であった。
平面図が(c)の形状の図形を描き、切り抜いて、3つの稜線を適当に山折りにして本体をつくる。この模型を一方の方向(前面)から見ると、(a)の形状に見える。また、この模型を他方の方向(後面)から見ると、(b)の形状に見える。
(b)では、適当な視点から見ると、視覚が両脇の山を強調する形状にだまされて、中央稜線が谷のように見えるのである。
新聞記事に出ていた別の角度から見た本体の形状を示唆する写真から本体の寸法を採取させてもらうと、両端の長方形の短辺が7mm、長辺が13mm、中央稜線の両脇の平行四辺形の高さが7mm、両端の長方形から中央稜線に達する斜線が12mmと計測できるので、ほぼこの寸法の比率で本体をつくればよいことが分かる。
この錯視に類似した現象として、「お化け坂」の名で知られる錯視がある。急な下り坂の途中からゆるやかな下り坂が続くような道では、ゆるやかな下り坂が上り坂に見える現象である。車を運転する人の中には、この錯視を経験した人がいるのではなかろうか。
参考文献
杉原厚吉著「形と動きの数理」(東京大学出版会)