ゆめ未来     

遊びをせんとや生れけむ....
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しなやかに、のびやかに毎日を過ごそう。

二人のウィリング 新聞で事件の記事を読むように

2017年05月22日 | もう一冊読んでみた
二人のウィリング/ヘレン・マクロイ  2017.5.22

『2017年版 このミステリーがすごい!』 海外編 第15位

訳者あとがきには、次のようにあります。

 冒険小説的な展開によってストーリー全体をまとめ上げながら、その枠組みの中でフーダニット(犯人)、ハウダニット(手段)、ホワイトダニット(動機)という謎解きとしての主要なファクターすべてに趣向を凝らし、シリーズのレギュラー・メンバーもほぼ勢揃いさせた総ざらい的な面白さを持つマクロイ中期の傑作『二人のウィリング』なのである。

 米初版 Alias Basil Willing (1951) 『二人のウィリング』

14ページほどのヘレン・マクロイの紹介ですが、十分な解説になっています。

また、深緑野分氏の「解説 怜悧と温もりと」もあります。

作家ヘレン・マクロイの魅力について、本書でも解説されていますが、ネット上にも、このような解説をみつけました。

 初心者のためのヘレン・マクロイ入門 (執筆者・深緑野分)

この解説も、ぼくは楽しく読みました。

 「あなたのせいで、カクテルを飲む客は十三人になったわけだ。ツィンマーは必ず十三という数字を避けるんですよ」
 「そうしない人はいないでしょう」とベイジルは応じた。「迷信を信じない人でも、その手のことを遵守し続けるものですよ---万一のことを恐れてね」

 なんと言ったって、個性は二つの力---内なる精神と外の社会---の産物ですもの。

 「人殺しなら目的はみな一つさ---つまり安心を得るためだよ」
 「金のために人殺しをする者もいますよ」
 カニングはとげとげしく笑った。「安心を得るためには金が必要な者もいるのさ。殺人者の事情は細かいところではみな違う。金や欲望、恐怖や復讐のために人を殺す。なんでもありだ。だが、つまるところは、精神的な不安を解消するためだ。みんな安心を求めているのさ」
 「ひとたび人を殺せば、安心を得ることなどできますかね?」
 「悔恨のことを言っているのかい? それとも、捕まる恐怖のことかな?」
 「どちらもですよ」
 カニングは再び笑った。「強い男は悔恨など抱かないし、頭のいい男は捕まらないよ」
 「では、強くて頭がよく、十分な安全対策も取れるほど金のある男なら、人を殺しても捕まらないと思っておられるわけですか?」
 「むろんさ!」カニングは驚いた。「金に知性が伴えば、現代の世界でできないことなどほとんどないよ、ウィリング博士。....闇市はどんなものにも存在するのさ。美しい話じゃないが、ものごととはそんなものだよ」
 「賢い男は、ものごとを変えようとはしないものだよ。確実に配当にありつくようにするだけさ」

 「歳長ずるにつれて、自然が芸術を映す鏡であり、人生が小説の空想を模倣していることに気づいて驚くようになるものさ」


「二人のウィリング」の雰囲気を感じてもらうために、少々長い引用をしました。
自然描写も美しく、会話も自然で直ぐ隣で営まれている日常生活が語られているようです。
殺人の現場もただ殺された。という感じで劇的な情景描写があるわけでもありません。
大変地味なミステリーです。
そんな中で、登場人物の誰もが怪しく感じられ、犯人の動機もあまりはっきりしません。
そんなミステリーなのですが、ぼくが調べた限りでは、ヘレン・マクロイ好きな人は、とびっきりに好きになってしまう作家のようです。
ぼくは、とびとびですが今回が3冊目です。機会を見つけて、もう少し読んでみたいと思います。

  『 二人のウィリング/ヘレン・マクロイ/渕上痩平訳/ちくま文庫 』


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悪い夢さえ見なければ

2017年05月22日 | もう一冊読んでみた
悪い夢さえ見なければ/タイラー・ディルツ  2017.5.22

 「胴体を執拗に刺されている。みぞおち付近にはおびただしい数の傷が認められ、ずたずたになった肉片と布の繊維が血にまみれて見分けがつかないほどだった。陰部も切り刻まれていた。何よりも厄介なのは、左手が手首から切断され、現場から消えていたことだ。」

この凄惨な事件現場以外は、いたって地味なミステリーだった。

 「たとえ胡桃の中に閉じ込められていようと、自分は無限の宇宙の王と思えるのだ、悪い夢さえ見なければ

物語の展開に大きく係わる何かがあるのかと気にしていたのだが、ぼくが読んだ限りでは余り関連はないような気がした。

 どうしてみんな、人生で最高に幸せな瞬間を必死になってフィルムに残そうとするのだろうか。そう願う人の大半が、至福の瞬間をふたたび味わえるからだと答える---そのときの感動を思い出して追体験し、あのほんわかとした幸せな思いに満たされたい。そう願うのはぜんぜん悪いことじゃない。ケチなんかつけてはいない。
 ただし、その幸せが持続していれば、の話だ。

 今日の幸せが明日不幸へと転じる。いつ変わっても、少しもおかしくはない。

このミステリーの要約のような気がしました。予言的です。

仕事について。

 無線機に目をやり、グラスの中身をシンクに捨てた。悲しみと後悔の念を癒やしてくれるのは、ウオッカでなくて仕事であることは、自分が一番よくわかっている。

 勢いに乗り続けていかなければならない、そうじゃなければ落ちるだけ。飛行機と同じです。


人生の流れゆく時について。

 ハイスクール時代に知り合いました。ベスは作家に、わたしは女優になるのが夢でした。若いころって、分不相応な夢を抱くものですから

 「年を取るもんじゃないぞ、若造。人はどちらかひとつしか選べない---冷酷非情のひねくれ者か、涙もろい阿呆か。何よりも厄介なのは、どちらかひとつしか選べないことさ」


このミステリーは、タイラー・ディルツ氏の長篇デビュー作です。

  『 悪い夢さえ見なければ/タイラー・ディルツ/安達眞弓訳/創元推理文庫 』


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