ゆめ未来     

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愚者の街 下/R・トーマス

2024年01月08日 | もう一冊読んでみた
愚者の街 2024.1.8

ロス・トーマスの『愚者の街 下』を読みました。

ルシファー・C・ダイが、「街をひとつ腐らせる」謀りごとに加担した目的はなにか。
ダイのグループは、どのような方法で街を腐らせるのか。
それを求めて、下巻を楽しく読みました。面白かったです。

しかし、下巻を最後まで読んでも、ぼくには、ダイのその目的が分からなかった。

 「実はあなた好みじゃないんでしょう?」キャロルが言った。
 「何が? セックスかい?」
 「ちがうわよ」
 「じゃあ何だ?」
 「このスワンカートンの狐と狸の化かし合いよ」
 「うまい言い回しだ」
 「ぴったりでしょ」
 「たしかに」
 「でもあなたは馴染めないのよね?」
 「考えたことはないな」
 「あなたは嘘がうまいけれど、それほど上手じゃない」
 「わかったよ、たしかに考えた。君に電話する前に五分ばかり」
 「それで、どうしようと決めたの?」
 「なんだって何か決めなきゃならない? ただ考えてただけだ」
 「誰かにはめられようとしていたら、わたしなら考える。必死にね」
 「召集令状は念入りに読んださ」
 「それでサインしたのね、タフでいますって?」
 「そんなようなもんだ」
 「どうして?」
 「そこまではよく考えなかった。明日は明日の風が、だ」
 彼女は煙草を灰皿に押しつけ、火が消えたあとも押し潰していた。「あなたはずうっと長く落っこちてる途中。どこまで落ちていくのか、わたしにはわからない」
 「自分でもそう思う」
 「そんなに長く落ちていたら、わたしなら何か捕まえてくれるものを探すわ」
 「ただ跳ね返るだけかも」
 「いいえ」かぶりを振って言う。「あなたは跳ね返らない。ぶつかって砕けるだけ、何万、何億、何兆っていうかけらに」
 「えらくたくさんだな」
 「子どものころよくそんなふうに言ってたわ」
 「どうしていきなり気にするんだ?」
 彼女がじっとこちらを見すえた。「まったくあなたって、ときどきろくでもないことを訊いてくるのね」
 「ああ」私は言った。「そうなんだろうな」


 ルシファー・C・ダイ/元“セクション2”の秘密諜報員
 ヴィクター・オーカット /ヴィクター・オーカット・アソシエイツ経営者
 ホーマー・ネセサリ/オーカットの共同経営者
 キャロル・サッカティ/オーカットの秘書


 「リンチの仲間たちも、ひとりめのときはまだ疑ってかかるだろう。罠じゃないか、こいつは嘘をついているんじゃないかと。だが二人めの生贅を引き渡せば、さすがに信用するはずだ。その時点での予想を言うなら、向こうは私にニセの情報を聞かせて君たちに伝えるように仕向けるだろう。君たちがその情報に沿って動くように。こちらはそう見せかけておいて、何かしら対抗手段を収る。ただしリンチの一派に対しては、それを鵜呑みにしたように見せる。私は彼らの側にいて、内側に入りこみ、やつらのニセの情報を君に伝え、君からは本当の情報をやつらに伝える」
 「いけるかもしれない」オーカットが言う。「うまくいくかも」
 「そうして内部に食いこんでいく。それだけだ。リンチの一派もこちらを完全には信じないだろう。二人の人間を破滅させるよう手伝ったあとでも。まだ私の----ああ、そう言ってもよければ、忠誠をな。それでも向こうはつきあって動くはずだ。自分らは頭がいいから、私か何を仕掛けても見抜けると思ってる。だがこっちはそうでないほうに賭ける。似たような世界で十一年も不愉快な経験をしてきたから、それぐらいはわかる」
 オーカットは下唇を人差し指でとんとんやった。「つまりあんたは、二重スパイになるってわけか
 「いや。それを言うなら三重スパイだな。そこが最大のミソだ。そんな危ない橋を渡る人間は多くない。とくに四十にもなろうかという人間なら」
 「三重スパイ」オーカットは柔らかな低い口調で言い、もう一度言った。その言葉の上に舌をすべらせるように。「うん、気に入った! 君はどう思う、ホーマー?」
 ネセサリーはゆっくりとうなずいた。「じつにいい。ダイの言うとおり、それで向こうの内部に食いこめる。俺が知りたいのは、誰をはめるのかってことだ
 「破滅させる人間のことだな?」とオーカット。
 ネセサリーはもう一度、さらにゆっくりとうなずいた。「俺は誰でもいい、この部屋にいる人間でさえなけりゃ
 「ここの誰かだってかまわないでしょ。あなた本人でさえなかったら」キャロル・サッカティが言った。
 ネセサリーはにやりと冷たく笑った。「図星だよ、かわい子ちゃん、俺でさえなけりゃいい」
 オーカットが低く笑った。「で、われわれは誰を選ぶ?」
 「われわれじゃない。選ぶのは君だ」私は言った。
 「ああにオーカットがまた下唇を指でたたいた。「わかった。有名人でなけりゃならが、あんまり有名で、改革派の面目が丸潰れになるようでもまずい、と。そうだね?」
 「それでもかまわない」わたしは辛抱強く言った。


 オーカットは金色の枠にはまった鏡の前を通りしな、少しのあいだ自分に見とれていた。飛び出した金髪の巻き毛をぽんぽんとやって元に戻す。
 鏡の前を通りかかるたびに自分の姿をこっそり見ることはあっても、たいていの人間はそんな自己愛とうぬぼれに満ちた行動を見咎められるのが怖いようだ。それでさっと素早く見ては、安心するかがっかりするかして、さらに素早く目をそらせる。だがオーカットの場合は、鏡に映るものが気に入っていたし、誰に見られようと気にもとめなかった。


 静かに車を出すと、時速四十キロでフォレストを走らせた。すれちがったパトカーが猛烈な勢いで反対方向へ飛ばしていく。サイレンは切っているが、赤と白のドーム型ランプが怒ったように回転していた。
 ネセサリーがハンドルに手のひらを叩きつけた。「こんなはずがない、何だってこうなる?
 「ソダーペルも思っただろうな。そのひまがあったとしたら」
 ネセサリーがちらと私を見て、かぶりを振った。少し苛立ったしぐさだった。「そんな話をしてるんじゃない。スポットライトをつけた警官のことだ。くそっ、自分の目から五センチでも上を見上げるやつなんて、俺は知らない」
 「いま知っただろう」、「何だって一度目はある」と言ってもよかったが、何も言わずにおいた。ただ座って、まだ見えないものを探していた。
 しばらくすると、ネセサリーが言った。「あれはまぐれ当たりだった。あいつは運がよかっただけだ」反論することもできたが、やはりせずにおいた。ただ座ったままずっと外を見ていた。
 「しかしソダーペルのやつ、おかしなもんだ」ネセサリーが続けた。「ベトナムを二回も切り抜けたのに、しまいにあんな裏路で撃たれるなんてな。なんだか考えさせられないか、なあ?
 「ああ。そういうもんだ」そのとき、探していたものが見つかった。「あそこにある」と私が言い、ネセサリーが明かりのついた公衆電話の横に車を停めた。


    『 愚者の街(上・下)/ロス・トーマス/松本剛史訳/新潮文庫 』



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