遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

Too Late To Reset(またちょっと修正)

2013-07-30 22:39:22 | BIONEWS
細胞核への輸送受容体も重要=iPSに応用期待―大阪大と日大(時事通信) - goo ニュース
阪大など、ほ乳類のES細胞が未分化性を維持する機構の一端を解明(マイナビニュース) - goo ニュース
importinαは核移行配列を特異的に認識し、結合・輸送する機能を持ちます。細胞質から核へタンパク質をインポートするので、importinと名付けられました。他にも『カリオフェリン』とか、いろいろと名前があるんですが、一番普及して生き残ってる名前がこれ。覚えやすいからねぇ・・・。
ほ乳動物細胞はimportinを何種類か・・・5つだっけ? 6つだっけ??・・・持ってます。その中で主役はα1。でも、面白いのはα2です。この研究では、importinα2が未分化なES細胞に高く発現し、細胞の未分化性を維持する転写因子(Oct3/4など)を効率よく核へと運ぶことを示しました。importinα2が分化を促進するOct6の輸送を阻害することを突き止めました。薬剤処理により細胞膜を透過性にして核だけにした培養細胞に、それぞれの輸送因子とOct6を加えて輸送の様子を観察。importinα1はOct6を核に輸送するが、importinα2は輸送しない。importinα1とimportinα2を同時に加えると、Oct6は核に入らなくなりました。ただ輸送に働くと思われていたimportinα達が、実は細胞の分化状態によって何を核へ輸送するのか選んでるというわけです。そういう面白さがα2にあります。
この研究チームを率いていた米田先生は、この3月に阪大を定年退官されました。それはツイッターで知りました。3月の末ギリギリに最終講義をやったとつぶやいてくれた方がいたのです。どうも最後まで自分の定年退官のために特別なことはやりたくないといってたのに、ギリギリで最終講義をやることになったようです。きっと、周囲の人達が説得したのでしょう。僕はうかつでした。気づくのが遅すぎました。わかってたら年度末の仕事なんか放り出して駆けつけたのに・・・。Q大で核内Gタンパク質Ranを研究していた時に、お世話になったのです。というか、圧倒的な力の差を見せつけられボコボコにされ・・・どれだけお礼をいっても足りないくらいなのです。
金沢にくすぶってる僕に共同研究のネタをくださったこともありました。このimportinα2です。細胞ストレスに応じて、その局在性を変えるのです。それもRanとは対照的な動きを。僕は酵母で試しました。細胞周期を制御する遺伝子変異でimportinαの局在性がヒトα2のように反転しました。この信号経路はどうなってるんだろう。老化した細胞でも重要な役割を果たしているはずだ・・・やりたいことがどんどん湧いてきましたが、ちょうど上司が定年退官するタイミングで、僕は新しいプロジェクトを始められる状況にありませんでした。
別の研究室に移って、古いプロジェクトで溜まったデータで論文を2報出し、そこでのプロジェクトを始めました。酵母ではありません。ヒト培養細胞を使いました。DNA複製やDNA損傷に応じて制御の中核で働くと思われる遺伝子を使って、それと相互作用する新規の遺伝子を採りました。採れたものの研究候補のひとつに・・・ありました・・・importinα2が。

米田先生が退官のためのイベントを避けていたのは、これで終わったつもりじゃないんじゃないかなと思ってます。きっとまだまだやるつもりなのだと・・・現在、医薬基盤研究所の理事長なんだそうです。

本日のお酒:SAPPORO 麦とホップ + 奄美黒糖焼酎 あじゃ
コメント (2)
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