遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

千里の道も

2013-07-01 21:49:32 | BIONEWS
移植の効果「視力0.1程度」=過剰な期待懸念、将来は向上―iPS臨床(時事通信) - goo ニュース
視力0.1でも、患者さんにとってはよいことだろうし、iPS細胞が再生医療に使えるのかどうかの試金石になるんだから、回復した際の細胞の性能がどうのこうのといわんでもいいと思うんだよ。癌化するかとかいう安全性の方がもっと重要だろう。もちろん、どういう細胞でどこの組織で使うのかとかでずいぶん違うだろうけど、千里の道も一歩からなのです。

世界初の実用化へ臨床指針=卵子ミトコンドリア交換で難病防止―英国(時事通信) - goo ニュース
これはちょっと驚きました。母親のミトコンドリアに異常があると分かった場合、卵子の細胞核を取り出し、あらかじめ細胞核を抜いた別の健康な女性の卵子に移植した後、体外受精させるって・・・ミトコンドリア交換じゃなくて、核移植じゃないですか。英国は試験管ベビーを最初に生み出し、クローン技術で羊のドリーを造った国です。あいつら、やりかねない・・・。もちろん、ミトコンドリアの病気は深刻な病気で根治はできず対症療法しかないんだけども・・・この医療行為が有効な例ってどんだけあるんでしょうか。わたしゃ、医者じゃないんで知りません。
記事中「この技術で生まれた子は、父母から細胞核のDNA、健康な女性からミトコンドリアのDNAを受け継ぐため、「親」が3人いることになり」とありますが、それは遺伝学的におかしな理屈です。ミトコンドリアはepisomalな遺伝因子です。episomeに対してまで、「由来が親からだから」とかなんとか言うんなら、親からもらったウィルスまで大事にしなきゃいけなくなります。

[ 大辞泉 ]によると、
エピゾーム【episome】
染色体に組み込まれて増殖する状態と、細胞内で染色体と離れて独立に増殖する状態の両方をとる遺伝単位(遺伝的因子)。プラスミドの一種であり、溶原性ファージ、大腸菌の薬剤耐性因子やF因子などがその例。

大辞泉の説明は"episome"という言葉が、細菌学で使われている場合の意味でありますが、真核細胞ではメンデルの法則に従わない遺伝因子を指します。ミトコンドリアは自分のDNAを持っているのに、メンデルの法則は立派に無視して伝わります。ま、細胞質にいるんだから当然です。その正体が変性タンパク質だと分かる前のプリオンもepisomal factorとして考えられていた時期があります。酵母のψ (psi)とか、長年の謎でした。

「リボソーム」を人工合成=大腸菌で初成功、応用期待―米大学(時事通信) - goo ニュース
これは再生医学とは関係なさそうですが、遠い遠い道のりへ繋がる第一歩となる快挙だと思います。核酸は合成できます。タンパク質もほとんど自在に改変できるようになってきました。今度は細胞内で機能する巨大複合体を再構成したわけです。大腸菌のリボソームですが、我々のリボソームは少しサイズが大きいくてタンパク質の数も少し多いだけです。少しの違いです。たぶん、彼らはやろうと思えばできるでしょう。この合成リボソームはちゃんと翻訳作業をこなしてタンパク質を作ったそうです。それで十分。

本日のお酒:KIRIN CLASSIC LAGER + 立山 特別本醸造
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする