中国語学習者のブログ

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『紅楼夢』第三回(その1)

2025年01月10日 | 紅楼夢
 さて、第二回の最後で、賈雨村に声をかけて来たのは誰でしょうか。そして賈雨村にこのあとどのような運命が待っているのか。また母を失った林如海の娘、薫玉はこの後どうなるのでしょうか。第三回の始まりです。

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内兄(妻の兄)に託し、如海は(雨村を)西賓(幕僚)へ薦め
外孫(林薫玉)を迎える賈母(史太君)は孤女を惜しむ

 さて、雨村が急いで振り返って見ると、他でもなく、曾ての同僚で、一緒に弾劾を受けて罷免された張如圭であった。彼はこの土地の人で、免職後は家にいて、今都で罷免された官吏の復職の批准がされたとの知らせを聞き、あちこち情報を尋ね、つてを求めていて、ふと雨村を見かけたので、急いでお祝いを言ったのである。ふたりは挨拶を交わし、張如圭はこの知らせを雨村に告げ、せかせかと二言三言話をすると、それぞれ別れて帰って行った。冷子興は張如圭の言うのを聞いて、急いで雨村に、林如海にお願いし、都の賈政に力になってくれと頼んでもらうよう献策した。

 雨村はその考えを受け入れ、冷子興と別れた。お屋敷に戻ると、急いで邸報(宮廷の公報)を調べて確かめ、翌日如海に会って相談をした。如海は言った。「これは全く天のめぐり合わせです。妻が死に、都の妻の母が、孫娘がよるべにする者がいないことを心配し、以前船を差し向け迎えに来たのですが、わたしの娘がまだ健康を回復していなかったので、行かなかったのですが、今回は娘を都にやろうと思います。娘を教えさとしていただいた恩にまだ報いておりませんでしたので、この機会に、是非なんとかその気持ちを果たしたく思い、わたしは既に予め考えを巡らし、あなたの推薦状を書きました。内兄(妻の兄の賈郝、賈政)に頼んであなた様をちゃんとお助けすることができれば、それでようやくわたしの誠意をいささかでも尽くすことができるというもの。たとえ何がしか費用が必要でも、わたしが妻の家への手紙の中に書いておきましたので、あなた様が心配なさる必要はございません。」雨村は一方では頭を下げ、絶えず感謝の意を表しながら、一方でまた尋ねた。「お兄様は現在どんな役職に就いておられるのでしょうか。わたしは礼儀作法がいいかげんなもので、お目にかかる勇気がないのです。」如海は笑って言った。「親戚ということで言えば、貴兄も同じ一族なのですから、栄公の子孫であるわけです。上の兄は現在一等将軍の職を継ぎ、名を郝、字は恩侯です。下の兄は、名を政、字は存周、現在は工部員外郎に任じられています。その人と為りは謙虚で丁寧、善良で寛容です。大いに祖父の遺風を残し、特権を笠に利益をほしいままにするのでは断じて無く、それゆえわたしも手紙を書いてお力添えを託そうと思っているのです。そうでなければ、あなた様の高尚な節操を汚してしまうことになり、わたしも軽蔑されてしまいます。」雨村はそう聞いて、心の中でようやく昨日の子興のことばを信じ、そして林如海に感謝した。如海はまた言った。「来月の二日を選んで、娘を都に入れますので、あなた様も同行して行っていただくのは、双方ご都合よろしいでしょうか。」雨村はただただ命令に従ったが、心中はすこぶる満足であった。如海はそれで贈り物を用意し、また送別の宴を開き、雨村は一々それらを受け入れた。


 かの女学生は元々母親から離れて行くに忍びなかったが、いかんせん母方の祖母が必ずあちらに行くように言われるし、しかも如海がこう言った。「汝の父は齢五十、もう後添いを娶るつもりはなく、しかも汝は病気がちで、年もたいへん小さく、上に母親の躾け無く、下に姉妹の扶助も無い。今妻方の祖母やめい姉妹を頼ってあちらに行ってくれれば、ちょうどうまくわたしの家庭内の心配事を減じてくれるのに、どうして行かないのか。」黛玉はそう聞くと、ようやく涙をこぼしていとまごいをし、乳母と栄府から来た何人かの老女に付いて、船に乗り出発した。雨村は別の船に、ふたりの子供の召使を連れ、黛玉に付き従い出発した。


他日、都に到着すると、雨村は先ず衣冠を整え、子供の召使を連れ、「宗侄」(同族の甥)の名刺を持って、栄府の屋敷に身を投じた。この時、賈政は既に妹のご主人からの手紙を読んでいたので、急いで招じ入れてお互いに顔を合わせたところ、雨村は見るからに偉丈夫で、ことばも俗っぽくなく、しかもこの賈政が最も好きなのは読書人で、彼は賢者を尊敬し、自ら謙(へりくだ)って才能のある人と交わり、水に落ちた者を救い、危機に瀕した人を扶助し、大いに祖先の遺風を具えていた。ましてや妹の亭主が手紙を寄こしてきたので、このため雨村を優待すること、猶更いつもと異なり特別であった。そこで極力手助けし、朝廷に奏上する時に、復職実現を謀ると、二か月も経たないうちに、金陵応天府に採用されたので、雨村は賈政の前を辞し、日を選んで赴任して行ったが、そのことはここでは言うまでもない。

 さて、黛玉はその日より下船し岸に上がると、栄府が駕籠を寄こし、併せて荷物を運ぶ車輛がかしずいていた。この黛玉は曾て母親から、彼女の母方の実家の祖母は他の家の人々とは異なると聞かされていたが、彼女が最近出会った何人かの年配の女性の召使は、普段の生活での衣食の費用や生活手段が、既に普通の家とは異なっていた。ましてや今はその家に行くのだから、一歩一歩気をつけ、常に注意し、余計なことは言わず、余計なところへ行かないようにし、人に嘲笑されぬようにしていた。駕籠に乗ってから、城内に入り、紗を貼った窓からちょっと覗き見ると、その市街の繁華なこと、人家の非常に多いことといったら、別の場所とは比べようも無かった。また半日進むと、突然街の北側に二匹の大きな石の獅子が蹲(うずくま)り、三列の扉の上に獣の頭の形の門環(ドアノッカー)の付いた大門が見え、門前には十人ばかりの華麗な冠や衣服を身に着けた人々が順に座っていた。正門は開かず、東西両側の角門からのみ人の出入りができた。正門の上には扁額が一枚架かり、扁額の上には「勅造寧国府」の五つの大きな文字が書かれていた。


栄国府正門。林黛玉一行は西角門から中に入る

 黛玉は思った。「ここがお母さまの実家のお屋敷なんだ。」また西へしばらく行くと、先ほどとそっくりの三枚の扉の大門で、ここが「栄国府」であった。しかし正門を入らず、西の角門からのみ入ることができた。駕籠を担いでほんの少し進んで、曲がろうとする時、駕籠は進むのを止め、後方の女の召使たちも皆駕籠を降りた。ここで別途四人の眉目秀麗な17、8才の若い男の召使がやって来て駕籠を担ぎ、女の召使たちは歩いて付き従い、垂花門(正門を入った後の二の門)の前まで行って駕籠を下した。若い男の召使たちは揃ってうやうやしく退出し、女の召使たちが前に進み出て駕籠のすだれを持ち上げ、黛玉を助けて駕籠から降ろした。

 黛玉は女の召使の手で支えられ 垂花門を入った。両側は両手を広げたような回廊が廻り、真ん中は通り抜けができるようになっている部屋で、ここには紫檀の台に大理石の屏風が置かれた。屏風を回ると、小さな三間の広間で、広間の後ろが母屋の広い中庭であった。正面は五間の母屋で、棟木や梁木には皆彫刻と彩色を施し、両側の山型の壁の下は門とつながった廊下で各々両側の棟と連なり、廊下には色とりどりのオウムや画眉鳥などの小鳥の鳥籠が吊るしてあった。階(きざはし)の上には赤や緑の衣服を纏った女中たちが座っていた。彼らが来るのを一目見ると、笑顔で出迎え、言った。「先ほどご隠居様がまた気にかけておられました。ちょうど良いところにお着きで。」そして三四人が先を争いすだれを上げると、一方でこう言うのが聞こえた。「林お嬢様がお着きになりました。」


 黛玉が部屋に入るや、ふたりの女が鬢の毛が銀のようになった老女を支えて出迎えに来た。黛玉はこの方が母方の祖母だと分かり、ちょうど跪いて拝礼しようとしていると、それより早く祖母に抱かれ、彼女の胸の中に抱きしめられた。「かわいい子。」そう叫ぶと、大声で泣き出した。すぐさまお傍に立っていた人で、涙を流さぬ者はいなかった。黛玉も泣き続けた。人々はゆっくり慰め、かの黛玉はようやく祖母にご挨拶をした。賈のお婆様はひとりひとり指さして黛玉に言った。「これはあなたのお母さまのお兄様の奥様。これは二番目のお兄様の奥様。これはあなたの先だって亡くなった珠お兄様のお嫁さんの珠お姉さま。」黛玉は一々ご挨拶した。賈のお婆様がまた言った。「どうか皆さん。今日は遠方よりお客様が来られたので、勉強に行かなくてもよいですよ。」一同の女性たちは「はい」と答え、ふたりが出て行った。


 しばらくして、ふと三人の乳母と五六人の女中が三人の娘を連れて入って来るのが見えた。ひとり目は肌がふっくらとし、中肉中背で、頬は新鮮なライチのよう。鼻はつやつやしてきめ細かく、ガチョウの脂が固まったよう。温和でおとなしく、人に親しみを感じさせる。ふたり目はなで肩で腰がほっそりし、やせて背が高く、アヒルの卵のような形の顔で、きれいな眼に細長い眉、眼は鋭く輝き、色やつやが人を照らし、見ていると世俗を忘れさせる。三人目はまだ身体も小さく、幼な過ぎた。簪(かんざし)と耳飾り、スカートと裏地の付いた上着は、三人とも同じ服装をしていた。黛玉は急いで出迎えてお辞儀をし、互いに挨拶した。席に戻ると、女中が茶を持って来た。しかし黛玉の母親の話になると、どのように病気になり、どのように医者にかかり薬を服用したか、どのように葬儀を行ったかという話になり、賈のお婆様がまた感傷的になるのを免れなかった。そのためこう言った。「我が家の娘たちが悼んでいるのはひとりあなたのお母さまだけで、わたしたちを残して先に亡くなり、もうお会いすることもできず、どうして悲しくないはずがありません。」そう言うと、黛玉の手を取りまた泣き出した。周りの人々は急いで互いに慰め、そこでようやく、いくらか悲しみも収まった。

 周りの人々は黛玉の年齢は小さいが、その動作ふるまいや話すことばが俗っぽくなく、身体や容貌が痩せて弱々しく、服の重みにも耐えられないかのようであるが、立ち振る舞いがおおような態度で、彼女は気や血が虚弱な症状があると知ったので、それで尋ねた。「いつもどんな薬を飲んでいるの。どうして病気がよくならないの。」黛玉は言った。「わたしは元々このようでしたから、ご飯が食べれるようになってから、今までずっと薬を飲んでいます。何人もの名医に診てもらいましたが、結局効果がありませんでした。あの年はわたしがやっと三歳になった時で、確か、ひとりの白癬(しらくも)頭の坊さんがやって来て、治そうと思ったらわたしを出家させろと言いましたが、父母はもちろんそれに従いませんでした。坊さんはまたこう言いました。「この子を棄てられないなら、おそらくこの子の病気は一生良くならないだろう。もし良くしようと思うなら、今後決して泣き声を聞かさないだけでなく、両親以外、およそ親戚でも、一切会わないようにすれば、それでようやく一生平穏無事に暮らせるだろう。」この坊さんは狂気じみた様子でこうした荒唐無稽の話をしましたが、誰も取り合いませんでした。今はまだ人参養栄丸を飲んでいます。」賈のお婆様は言った。「これはちょうどよい。うちでもちょうど丸薬を調合しているから、彼らに少し多く原料を配合するようにさせましょう。」

 ことばがまだ終わらぬうち、ふと後院から笑い声が聞こえ、こう言った。「遅くなってしまいました。遠方からのお客様をお出迎えできなくて。」黛玉は少し考えて言った。「ここにいる人たちはひとりひとり皆声をひそめて話されるのに、今度来られたのは誰だろうか。このように不遠慮に振る舞うなんて。」心の中でそう思っていると、一群の女中や小間使いがひとりの麗人を連れて後ろの部屋から入って来た。この人の装いは少女たちと異なり、彩りがまばゆく、華麗で美しく、まるで天上の神妃仙女のようで、頭上には金糸で真珠を繋ぎ八宝(瑪瑙や碧玉など)を象嵌した飾りの髷(まげ)を、太陽に向かう五羽の鳳が真珠を銜えた簪で留め、銅でできたとぐろを巻いた螭(みずち。角の無い龍)の瓔珞(ようらく)を首に掛け、身体には細い金糸で縫った百羽の蝶が花に舞う赤い錦の身体にぴったりのあわせの服を身に着け、その上から五色の色糸で図案を縫った扁青(へんじょう)色のひとえの上着で裏地にシロリスの毛皮を貼ったものを羽織り、下は翡翠色で花びらが散る図案の洋式の薄絹でやや皺を帯びたスカートを履いていた。切れ長で目じりのつり上がった眼をし、眉毛は柳の葉のようにしなやかで細長く、眉尻は斜めに切れ上がり、背丈はすらりと美しく、体つきはあでやかでなまめかしかった。容貌はなまめかしく人を惹きつけ、真っ赤な唇は鮮やかで、まだ口を開かぬうちに笑い声が先に聞こえてきた。

 黛玉はあわてて身体を起こして挨拶をしようとすると、賈のお婆様は笑って言った。「あなたはまだこの子のことを知らなかったね。この子は我が家では有名なあばずれで、南京のいわゆる「辣子」、あなたはこの子を「鳳辣子」と呼べばいいのよ。」黛玉はちょうど彼女のことをどう呼べばいいか分からなかったので、姉妹たちが急いで黛玉に教えて言った。「この方は璉お兄さまの奥様ですよ。」黛玉はこれまで面識は無かったが、彼女の母親がこう言うのを聞いたことがあった。一番上の叔父、賈郝の子の賈璉が娶ったのは、叔母の王氏の兄弟の娘で、幼い時から男の子と偽って教育を受けさせ、学名(子供が学校に入学する時につけた正式の名前)を王熙鳳というと。黛玉はあわてて作り笑いを浮かべて挨拶し、「お姉さま」と呼んだ。

 この熙鳳は黛玉の手を取って、上から下まで細かく一度観察すると、黛玉をまた賈のお婆様の傍に座らせ、笑みを浮かべて言った。「世の中には本当にこんなきれいな子がいるのね。わたし、今日はじめてそれが分かってよ。ましてやこの全身から醸しだされる気風は、賈のお婆様の娘の生んだ娘とは違って、まさしく実の孫のように思えるので、道理でご隠居様が日々口の中でも心の中でもご心配されるはずだわ。ただお可哀そうなのは、このお嬢ちゃんがこんなに辛い運命を負わされていることで、どうして叔母様は意地悪く先立たれてしまわれたんだろう。」そう言いながらハンカチで涙を拭いていると、賈のお婆様が笑みを浮かべて言った。「わたしはもう大丈夫よ。あんたはまたわたしを泣かせるつもりなの。あんたの妹がはるばる遠くから来て、身体も丈夫じゃ無いんだから、もうこのことは言いっこなしよ。」熙鳳はそれを聞いて、急いで悲し気な様子から嬉しそうな雰囲気に変えて言った。「本当にね。わたしはこの子を一目見るや、一途にこの子の身の上が思われて、嬉しいやら悲しいやらで、ご隠居様のことを忘れてましたわ。全部わたしが悪いわ、ごめんなさい。」それからまた急いで黛玉の手を引き、尋ねた。「お嬢ちゃん、おいくつ。お勉強はなすったことがおあり。今どんなお薬をお飲みなの。ここではお家のことは考えないで。何か食べたいもの、遊びたいことがあったら、わたしに言いさえすればいいのよ。召使や乳母たちに問題があったら、わたしに言えばいいからね。」黛玉は一々はい、はいと頷いた。一方で熙鳳は使用人たちに尋ねた。「林のお嬢ちゃんの荷物は運び入れたのかい。召使は何人お連れになってるの。おまえたち、急いで二部屋掃除して、皆さん方に休んでもらいなさい。」

 話をしていると、もうお茶とお茶請けが並べられたので、熙鳳は自ら取り分けて勧めた。また弟のお母さまが彼女に尋ねた。「毎月のお手当は渡し終わったかい。」熙鳳は答えた。「渡し終わりました。先ほど人を連れて奥へ行って緞子を捜してきました。あちこち捜したんですが、昨日奥様が言われたものは見つかりませんでした。おそらく奥様の記憶違いだと思うのですが。」王夫人は言った。「あっても無くても、どちらでもいいわ。」それでまた言った。「適当な布を二反取って来てこのお嬢ちゃんに服をこさえてあげないといけないわ。今晩また考えて誰か取りにいかせて。」熙鳳は言った。「それだったら、わたしもう先に手配しています。お嬢ちゃんが昨日今日着かれると聞いていたので、もう準備しておきました。奥様がお部屋に戻られたら、見てみてください。それで良ければお渡しするので。」王夫人は微笑み、頷くともう何も言わなかった。

 今回はここまでとします。この後、林黛玉はふたりの叔父、つまり賈郝と賈政にご挨拶にうかがい、更に賈宝玉に出会いますが、それについては次回をお楽しみに。