goo何気無い日々が心地よい安寧

何気無い日々が続く様に。生きていく事の大変さがカナン。ある種空気の様な存在になりたいもの。

⚠️ 春分の日だけ走る幻のバス 6路線がついにお役御免 202203

2022-03-27 22:51:00 | 🚇 旅選定の参考

春分の日だけ走る幻のバス 6路線がついにお役御免 バス会社「ここまで注目を集めるとは…」
  まいどなニュース より 220327


 年に1回「春分の日」にだけ運行する京都バス(京都市右京区)の路線のうち、京都市右京区太秦や左京区大原などを走る6路線が、19日のダイヤ改正で廃止された。将来の需要増に備えてほそぼそと維持していたが、「今後も増える見込みがない」として役目を終えた。ファンからは「幻のバス路線」と呼ばれていたが、今年の運行日を前に本当に幻になった。
  (廃止が告知された「一の井町」停留所。20日に撤去された
 昨年の春分の日に「一の井町」停留所に停車した年1回しか運行しない路線バス(2021年3月20日、京都市右京区))

 春分の日に片道1本のみ走る路線は計11あった。いずれも沿線人口が少なかったり近くを別の路線が並走していたりと、需要はほとんどない。しかし一度廃止すると国の認可や住民との調整が再び必要になるため、再開へのハードルは高い。慢性的な運転手不足も重なり、「需要が増えた時にすぐ対応できるように」と維持していた。

 2012年に4路線を年1回に変更して以降、同様の路線は年々増えていた。物珍しさから運行日には全国からバスファンが訪れ、1台では乗り切れず臨時便が運行されることもあった。

 しかし「年1回は本来の姿ではない」(同社)上に、バス停の道路占有料もかかる。6路線は「今後も増便する見込みがない」と判断し、廃止に踏み切った。

 対象となったのは、右京区太秦一ノ井町を経由する63系統や左京区大原の府道草生上野線を通る出庫便、同区岩倉から烏丸通を経由して京都駅へ行く45系統など。年1回しかバスが止まらない9停留所も廃止された。一方、大原と鞍馬を結ぶ95系統や嵐山-高雄パークウエイを走る90系統など5路線は、引き続き毎年春分の日に片道1本だけ走る。

 インターネット上ではファンから「ついに運行終了か」「一昨年に乗ってて良かった」などと惜しむ声が上がった。同社は「(年1回にした当初は)ここまで注目を集めるとは思っていなかった。ファンは寂しいかもしれないが、将来のことを考えて廃止した」としている。

(まいどなニュース/京都新聞)
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📗 「人はなぜ戦争をするのか」アインシュタインとフロイトが話し合った「壮大な問題」 2人の天才が「戦争」について思うこと 202203

2022-03-27 22:20:00 | 📗 この本

「人はなぜ戦争をするのか」アインシュタインとフロイトが話し合った「壮大な問題」 2人の天才が「戦争」について思うこと
 現代ビジネス (講談社学術文庫) より 220327


⚫︎アインシュタインがフロイトに手紙を書く
——1932年7月、ナチスが勢力を拡げつつあるドイツで、アインシュタインは手紙を書いた。すでに一般相対性理論を発表し、ノーベル物理学賞を受賞していた彼は、国際連盟の国際知的協力機関からある提案をされたのだ。
「誰でも好きな方を選び、いまの文明でもっとも大切と思える問いについて意見を交換」してほしい。

 そして、「世界最高の天才」と呼ばれたアインシュタイン(当時53歳)が選んだ相手は、同じくユダヤ人で、精神分析の大家フロイト(当時76歳)だった。アインシュタインの手紙の冒頭には、こう書かれている。

「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」

これが私の選んだテーマです。

 技術が大きく進歩し、戦争は私たち文明人の運命を決する問題となりました。このことは、いまでは知らない人がいません。問題を解決するために真剣な努力も傾けられています。ですが、いまだ解決策が見つかっていません。何とも驚くべきことです。

 アインシュタインはなぜ、このようなテーマを選んだのか。もちろん、アインシュタインはこの問題の解決が簡単ではないことを知っている。それまでにも、彼は第一次世界大戦以降、公的に平和運動にかかわっていた。
 だから、彼が戦争をテーマにしたのは、決して思いつきではない。ナチスが台頭する時代に、「ナショナリズムに縁がない」ユダヤ人であった彼にとって、戦争は重要な問題だった。以前から平和について考え、自ら行動してきたからこそ、彼はこの手紙を書いたのだ。

 ナチスの台頭。1932年ベルリン。大統領選に臨んだヒトラーの演説を聞く群衆。彼は、当選は逃したものの、最終的に首相の座を得た photo by gettyimages

 私の見るところ、専門家として戦争の問題に関わっている人すら自分たちの力で問題を解決できず、助けを求めているようです。彼らは心から望んでいるのです。学問に深く精通した人、人間の生活に通じている人から意見を聴きたい、と。

 私自身は物理学者ですので、人間の感情や人間の想いの深みを覗くことには長けておりません。したがってこの手紙においても、問題をはっきりとした形で提出し、解決のための下準備を整えることしかできません。それ以上のことはあなたにお任せしようと思います。人間の衝動に関する深い知識で、問題に新たな光をあてていただきたいと考えております。

この手紙を、フロイトはどう受け取ったのだろうか?

⚫︎手紙を受け取ったフロイト
 アインシュタインのこの手紙に、フロイトは「本当に驚きました」として、このテーマは自分にもアインシュタインにも手に余る問題なのではないかと率直に答えている。

 私は当初、こんなふうに思っていました。今日の知のフロンティアにあるような問題を、あなたは選ぶのではないか。そして私たちは物理学者と心理学者という別々の立場から問題にアプローチしていけばよいのではないか。それでも、最後には共通の土台にたどり着けるのではないか。

 ですから、あなたが取り上げたテーマを聞いたとき、驚きを禁じ得ませんでした。

 しかし、フロイトは思い直す。「(アインシュタインは)自然科学者や物理学者として問題を提起したのではない。人間を深く愛する一人の人間として、国際連盟の呼びかけに応え、この問題を投げかけたのだ、と」。フロイトは、自分の知るかぎり、推測できるかぎり、これに応えようとする。

⚫︎アインシュタインの質問の前提
 では、アインシュタインはどのように考えてこうした質問をしたのか。アインシュタインの手紙の内容を確認しよう。現在からすれば無茶ぶりともとれるようなものだが、当時の心理学の大家に、アインシュタインがどれほど大きな期待をしていたのかが伝わってくる。

 なるほど、心理学に通じていない人でも、人間の心の中にこそ、戦争の問題の解決を阻むさまざまな障害があることは感じ取っています。が、その障害がどのように絡み合い、どのような方向に動いていくのかを捉えることはできません。あなたなら、この障害を取り除く方法を示唆できるのではないでしょうか。政治では手が届かない方法、人の心への教育という方法でアプローチすることもできるのではないでしょうか。

 戦争を避けるためには、「政治では手が届かない方法」が必要だと、アインシュタインは考えていたようだ。このようなアインシュタインの考え方は、当時も広く共有されていたと思われる。

 当時も広く共有されていた考え方とは、以下のようなものだ。

 ナショナリズムに縁がない私のような人間から見れば、戦争の問題を解決する外的な枠組を整えるのは易しいように思えてしまいます。すべての国家が一致協力して、一つの機関を創りあげればよいのです。
 この機関に国家間の問題についての立法と司法の権限を与え、国際的な紛争が生じたときには、この機関に解決を委ねるのです。個々の国に対しては、この機関の定めた法を守るように義務づけるのです。

 もし国と国のあいだに紛争が起きたときには、どんな争いであっても、必ずこの機関に解決を任せ、その決定に全面的にしたがうようにするのです。そして、この決定を実行に移すのに必要な措置を講ずるようにするのです。

 現代に生きるわたしたちも、こうした国際機関がこれまで歴史的に実現できなかったことを知っている。アインシュタインは続けてこう言う。

 ところが、ここですぐに最初の壁に突き当たります。裁判というものは人間が創りあげたものです。とすれば、周囲のものからもろもろの影響や圧力を受けざるを得ません。
 何かの決定を下しても、その決定を実際に押し通す力が備わっていなければ、法以外のものから大きな影響を受けてしまうのです。
 私たちは忘れないようにしなければなりません。法や権利と権力とは分かち難く結びついているのです! 司法機関には権力が必要なのです。

 権力――高く掲げる理想に敬意を払うように強いる力、それを手にいれなければ、司法機関は自らの役割を果たせません。司法機関というものは社会や共同体の名で判決を下しながら、正義を理想的な形で実現しようとしているのです。共同体に権力がなければ、その正義を実現できるはずがないのです。

 けれども現状では、このような国際的な機関を設立するのは困難です。判決に絶対的な権威があり、自らの決定を力尽くで押し通せる国際的な機関、その実現はまだまだおぼつかないものです。

 1933年、スイス・ジュネーブ。国際連盟会議を後にするドイツのP・J・ゲッペルス宣伝大臣。この年、ドイツは国際連盟を脱退する photo by gettyimages
「国際連盟」と「国際連合」は、こうした国際的な機関になることを目指したものだ(ちなみに、これらの理念を策定する際に参考にされたといわれているのが、カントの『永遠の平和のために』だ)。アインシュタインは続けてこう言う。

 数世紀ものあいだ、国際平和を実現するために、数多くの人が真剣な努力を傾けてきました。しかし、その真撃な努力にもかかわらず、いまだに平和が訪れていません。とすれば、こう考えざるを得ません。

 人間の心自体に問題があるのだ。人間の心のなかに、平和への努力に抗う種々の力が働いているのだ。

 アインシュタインが、さまざまなテーマのなかから戦争を選び、世界の平和のためにフロイトに取り組んでほしいと、手紙で問いかけた背景には、こうした期待があった。そして、これに対するフロイトの回答は、「死の欲動」に関するものだった。



〔引用文はすべて『ひとはなぜ戦争をするのか』(浅見省吾訳)による〕
著:A・アインシュタイン、アルバート S・フロイト
訳:浅見 昇吾  解説:養老 孟司、斎藤 環
宇宙と心、2つの闇に理を見出した2人が、戦争と平和、そして人間の本性について真摯に語り合う。養老孟司氏・斎藤環氏による書きおろし解説収録。
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🧬「生命の起源」に関する7つの理論 202203

2022-03-27 22:07:00 | 📚 豆知識・雑学

「生命の起源」に関する7つの理論
  GigaZain より 220327


 人類にとって、地球の最初の生命がどのように現れたのかは永遠のテーマの1つであり、 生命の起源に関する理論は一説によると123個もあるとされています。
 そんな生命の起源に迫る7つの仮説を、科学系ニュースサイトのLive Scienceがまとめました。

7 Theories on the Origin of Life | Live Science
https://www.livescience.com/13363-7-theories-origin-life.html

◆1:生命の起源は稲妻で生まれた
 アメリカの化学者であるスタンリー・ミラーとハロルド・ユーリーは、密閉された実験装置に原始の地球を再現した水・メタン・アンモニア・水素を封入して放電する実験から、落雷により生命のもととなるアミノ酸が合成されたと発表しました。
 「 ユーリー-ミラーの実験」と呼ばれるこの有名な実験は、単純な分子から複雑な分子ができて、それがやがて生命へと発展したという 化学進化説の初期の実験と位置づけられています。
 その後、原始の地球の大気はミラーらの想定より水素が少なかったことが明らかになりましたが、NASAとカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者らは2008年に発表した 論文の中で、「火山の噴火により発生した雲にはメタン・アンモニア・水素が含まれており、雷も発生していた可能性がある」と論じています。 


◆2:最初の生命は泥の中で生まれた
 スコットランド・グラスゴー大学の有機化学者であるアレキサンダー・グレアム・ケアンズ=スミスは1985年に発表した著書「 生命の起源を解く七つの鍵」の中で、「粘土中の結晶はその構造を保ちながら成長し、その過程で他の分子を捕獲して我々の遺伝子と同じようなパターンとして組織化される」と提唱しました。
 DNAの主な役割は、肉体を構成するタンパク質のアミノ酸分子がどのように配置されるかを指示する情報を保存することにあります。
 ケアンズ=スミスの仮説では、粘土に含まれる鉱物の結晶が有機分子を組織化し、これが後に有機分子が自ら組織化するようになったのが生命の起源だとされているとのこと。この野心的な理論は1980年代の生物学者の間で物議を醸しましたが、現代の科学界に広く受け入れられているわけではないそうです。

◆3:生命は海の底から湧き出る熱水から生まれた
 2008年に学術誌・Nature Reviews Microbiologyに掲載された 論文の中で、ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学デュッセルドルフ校の研究者であるウィリアム・マーティン氏らの研究チームは、深海の 熱水噴出孔から吹き出す元素から最初の生命が生まれたという「熱水噴出孔説」を提唱しました。
 地熱により熱せられた水が海の底から噴き出す熱水噴出孔には、地殻を通過する際に取り込まれた炭素や水素などの物質やミネラルが含まれています。熱水噴出孔説は、岩の隙間にこれらの分子が集まり、生命が誕生する上で重要な触媒が提供されたのではないかとする説です。
by https://ultrabem.com

 2019年にロンドン大学の研究者らが発表した 研究では,熱水噴出孔と同じ高温かつアルカリ性の環境下で,原始的な細胞の前身となる プロトセルを作成することに成功しています。

◆4:生命は氷の中で生まれた
 生命の誕生には有機化合物が必要ですが、これらは水中にはごく低濃度でしか存在しておらず、しかも化学的に不安定ですぐに壊れてしまいます。そのため、一部の研究者は「水が凍結してアミノ酸などの分子が濃縮されることで最初の生命の誕生が促されたのではないか」と考えています。

 カリフォルニア大学の海洋化学者であるジェフリー・バダ氏は、エウロパなど氷に覆われた星における分子のふるまいを調べるべく、無機化合物であるシアン化アンモニウムの希釈溶液を低温下で25年間凍結させる 実験を行いました。その結果、DNAを構成するアデニンやグアニンなど、生命にとって重要な物質が生成されるという結果が得られたとのこと。
 これについてバダ氏は、「生命の起源に重要な有機化合物は、低温の環境下でより安定的になります」と話しました。この説では、氷は紫外線など生命にとって危険な宇宙線から有機化合物を守る役目を果たしたとも考えられています。

◆5:生命はDNAより単純なRNAから始まった
 生命の体を構成するタンパク質はDNAの情報に基づいて合成されますが、DNAの合成にもタンパク質が必要です。そのため、DNAもタンパク質もない原始の地球でどのように生命が誕生したのかは難しい問題です。
 そこで提唱されたのが、「DNAのように情報を保存し、タンパク質のような酵素として働き、DNAとタンパク質の両方の合成に関わっている RNAが生命誕生のきっかけではないか」とする RNAワールド仮説です。

◆6:もっと単純な分子から始まった
 RNAワールド仮説では、そもそも最初のRNAはどのように誕生したのかという疑問が残ります。そのため、小さな分子同士が相互作用し、細胞膜のような泡のカプセルに収っていたのが複雑化して生命になったとする仮説も生まれました。
 この考え方は、RNAワールド仮説の「遺伝子優先モデル」に対して、「代謝優先モデル」と呼ばれています。

◆7:最初の生命は宇宙からやってきた
 国際宇宙ステーション(ISS)の船外で微生物が生存できるかどうかを調べる日本の「 たんぽぽ計画」では、3年間にわたって微生物を宇宙空間で紫外線にさらしても生存可能なことが確かめられました。

⚫︎微生物は宇宙空間でも長時間生存可能と判明、「生命は宇宙からやってきた」説の有力な根拠となるか - GIGAZINE
 場合によっては微生物が宇宙空間で数十年間は生存できることを示したこの実験は、地球上の最初の生命は小惑星などに乗って宇宙からやってきたとする パンスペルミア説をより有力にするものだとされています。
 ただし、もしパンスペルミア説が正しい場合、「地球に来る前の生命はどうやって誕生したのか?」という新しい謎が生まれることになります。
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医師が見た「死ぬ直前」に起こること…人はこうして死んでゆく 穏やかな最期のために 202203

2022-03-27 21:51:00 | なるほど  ふぅ〜ん

医師が見た「死ぬ直前」に起こること…人はこうして死んでゆく 穏やかな最期のために
  週刊現代  より 220327


 死は誰にでも平等にやってくるが、一度しか経験できない。そのため、多くの人が納得のいく形で亡くなることができていない。「下手な死」を避け、「上手な最期」を迎えるためには何が必要なのか。

⚫︎チューブだらけの最期
死ぬ時は眠るように、穏やかに逝きたい—。苦しみながら死んでいくのはごめんだと、誰しも考えているはずだ。

 だが、2020年に公開された人口動態統計を見ると、日本人の71・3%が病院で息を引き取っていることがわかる。
 これは多くの人が死の間際まで延命治療を受けながら、苦痛とともに亡くなっていくことを意味している。

 医師で小説家の久坂部羊氏が自らの経験を語る。
「40年ほど前、駆け出しの外科医だった私は総胆管結石を患った70代の女性の手術を担当しました。しかし、彼女は手術後に原因不明のけいれんを起こし、肺炎も併発してしまったのです」
 この人を死なせるわけにはいかない。久坂部氏は患者に人工呼吸器をつけ、ステロイドや強心剤の投与を繰り返した。だが容態は悪化し、全身に出血傾向が出て多臓器不全にまで陥った。
「この段階でも私は治療を諦めきれず、それまでの治療に加え、輸血も開始しました。女性はすでに意識がなく、手足は浮腫のためどんどん膨らんでいきます。下血もひどく、輸血した血がそのまま出てきてしまうような状況でしたが、強心剤と人工呼吸器のせいで心臓は止まりません。
 生きたまま身体が腐っていくような状態が続いたのち、彼女は亡くなりました。患者を救おうと思って行った治療が、患者だけでなく家族にも不安と絶望を与えてしまったのです」(久坂部氏)

 この70代の女性は、決して特殊な例ではない。病院で亡くなる場合は、多くの人が人工呼吸器や透析器につながれ、「無理やり生かされた状態」を経て命を終える。

 最期の瞬間まで延命治療が続けられる現代では、自然の流れに逆らわず、植物が静かに枯れていくような「きれいな死に方」を実現することは困難になっている。

 そもそも人間の死とは「呼吸停止」「心停止」「瞳孔の散大」の3つの条件が揃った時に初めて認められる。
 これらは何の兆候もなく、突然起こるわけではない。
「事故などによる突然死でない限り、老衰死も病死も昏睡状態に陥ることから始まります。こうなると間もなく下顎を突き出し、口をパクパクと開け閉めしてあえぐように息をする下顎呼吸が始まるのです。
 下顎呼吸は呼吸中枢の機能が低下すると発生し、数分から1時間程度で終わり、死に至ります。これが始まった時点でいくら蘇生を試みても、その人が回復することはありえません」(久坂部氏)

 つまり,本来であれば下顎呼吸が始まった時点で抗うのはやめ,穏やかに見守るべきなのだ。
 だが、家族や身近な人に死を目前にした衰弱や昏睡、まして下顎呼吸が始まれば、周囲は取り乱し、少しでも苦しみを軽減させたいと無理な延命治療を選択してしまう。これが死の苦しみを却って増幅させ、苦痛とともに亡くなっていく「下手な死」へとつながる。

 延命治療はそのほとんどが家族の希望によってなされている。とすれば、あなたが「上手な最期」を迎えるためには、「死に方の予習」をし、家族ともその知識を共有しておくことが、もっとも重要なのである。

⚫︎赤ん坊に戻ってゆくだけ
 では、「下手な死」を避け、肉体的にも精神的にも苦痛の少ない「上手な最期」を迎えるにはどうすればいいのだろうか。久坂部氏が語る。

「余計な苦痛を感じずに亡くなるには、死期を迎えた時にはもう何もしないことです。そのためには、病院ではなく家で亡くなることが一番の方法だと思います。

 病院に行けば命が助かるというのは、幻想にすぎません。死の間際の点滴は血液を薄め、内臓に負担をかけるだけですし、酸素マスクもただ呼吸の邪魔をするだけです。穏やかな最期を迎えるには、いかに医療から離れるかが重要になるのです」

 在宅医としてこれまでに3000人もの患者を看取った、めぐみ在宅クリニック院長の小澤竹俊氏が、死が近づくと身体に起こる自然な変化について解説する。

「死が近づいてくると、今までできたことが徐々にできなくなっていきます。私はこれを『生まれたばかりの赤ん坊に戻る』と説明しています。がんや認知症、老衰などによってその速度は変わりますが、おおむね共通した傾向が表れるのです。

 まずは硬いものが食べられなくなり、食事の量が減っていきます。体力の低下に伴って歩ける距離も短くなります」
 やがて外出が難しくなり、家の中でも介助なしには移動が困難になる。お風呂やトイレも人の手助けなしには済ませられなくなるのだ。この頃には固形物は口にできなくなり、ほとんど水分だけで過ごす毎日が始まる。

 体が弱っていくと、目を閉じて眠る時間が増え、この状態が続くといつ昏睡が起きてもおかしくなくなる。

 認知症や老衰の場合、昏睡に陥るまでの時間は、硬いものが食べられなくなり衰弱し始めてから数年ほどかかるが、末期のがんなどの場合は、食事が満足に摂れないようになってから1ヵ月半ほどで昏睡に陥る。

 死期が近づくにつれ、痩せ細っていく様子を見て不安がる家族も多いが、これは誰にも起こる自然な現象なのだ。

 故人が満足に死を迎えられたかどうかは誰にもわからない。
ただ宣告を受け死を受け入れるまでの準備として、どんな段階があるのかは知っておいても損はない。
 その具体的な事例を後編記事の『医師が教える「上手な最期」の迎え方…「死の直前」に後悔しないための方法』でお伝えする。


『週刊現代』2022年3月26日号より

※※※※※※※※※※※  後半)  ※※※※※※※※※※※
師が教える「上手な最期」の迎え方…「死の直前」に後悔しないための方法

⚫︎跡を濁さない「死に方」は選べる
 死は誰にでも平等にやってくるが、一度しか経験できない。故人が自分の死に満足をしたかどうかは誰にも分からないが、死をを迎えるための準備にどういった段階があるのかは知っておいても損はない。

 医師としてのキャリアを持ち、人の死に向き合ってきた作家の久坂部羊さんをはじめとする、「上手な最期の迎え方」についてを、前編記事『医師が見た「死ぬ直前」に起こること…人はこうして死んでゆく』でお伝えした。では具体的にどんな心構えや方法があるのか、引き続き明かす。

⚫︎どうしたら開き直れるか

 40代半ばから在宅医として訪問診療に従事した久坂部氏には、自宅できわめて穏やかな最期を迎えた、忘れられない患者がいる。

「私がかつて在宅医として担当した60代の男性は肺がんを患っていました。彼は入院による抗がん剤治療の効果があまり表れないと見るや、『最期の瞬間は自宅で迎えたい』と家へと戻る決断をしたのです。

抗がん剤の副作用から解放された彼は、自宅で自由気ままな毎日を過ごしました。そうして徐々に弱っていき、1ヵ月半ほどで寝たきりになり、ある夜ついに昏睡状態に陥ります。

こうなっても、当初の約束通り延命治療はしませんでした。彼は点滴も酸素マスクもなく、自然な姿のまま家族に看取られて布団の上で亡くなっていったのです」

この男性の妻は、夫が息絶えていく様子を見ながら「家で最期を迎えると聞いた時はどうなることかと思ったけど、こんなに穏やかに逝けるなんて……」と打ち明けたという。彼は家族も納得する中、何の医療器具もつけない身体のまま亡くなっていった。

「少しずつできることも減っていきますが、それは悲しいことではない。こう覚悟を決めておけば、本人もその家族も、いざ死を前にした時でも恐怖感を和らげられるはずです」(久坂部氏)

「上手な最期」を迎えるためには恐怖から死を否定せず、何が起こっても良いと命の終わりを意識しておくことが大切だ。これが土壇場での覚悟につながる。

 しかし、穏やかな最期を迎えた人が、おしなべて最初から覚悟ができていたわけではない。死を受け入れられるようになるには、気持ちを整理することも必要になる。めぐみ在宅クリニック院長の小澤竹俊氏が語る。

「かつて看取った患者さんの中に、死を間近に控えた40代のお母さんがいました。彼女は『まだ小さい子供たちを残し、なぜ死ななければいけないのか』と理不尽さと苦しさを感じていたのです。

 しかし彼女と話し合う中で、限られた命を嘆くよりも、亡くなるまでの間に多くのことを子供たちに伝えようとするほうが大事だと伝えました。

 その後、実際に彼女は子供たちに自分の大切にしてきたものについて話し、自分がどんな母親だったのかを積極的に伝えようとし始めました。すると、死を嘆いていた彼女の表情が、別人のように明るくなっていったのです」

 死までの間に目的意識を持つことが心境の変化をもたらし、彼女に落ち着きを与えたのである。

 これは看取る側も同じだ。最期まで耳は聞こえているという説もあるが、患者が昏睡状態になってから感謝の声をかけたとしても、実際はもう聞こえていない可能性が高いという。そうであれば、まだ意識があるうちに伝えられるだけの感謝を伝えたほうがいい。

⚫︎目をそらさず考える

 一方で、本人が在宅での看取りを希望していたにもかかわらず、看取りに失敗してしまった例もある。久坂部氏が語る。

「70代半ばの前立腺がんの患者でした。彼はがんが骨へと転移してしまったため、治療をあきらめて家へと戻りました。奥様にも延命治療をしない方針を話しており、合意のうえです。
 しかし、彼が寝たきりになって誤嚥性肺炎を起こし、いよいよ臨終が近くなった時、その様子を見かねた息子さんに『救急車を呼んでください』と頼まれたのです」

 実は、この男性は妻とは死期を迎えた時の対応について話し合っていたが、離れて暮らしていた息子には延命治療を行わない方針を打ち明けていなかった。

 肺炎が重症化すると、酸素を取り入れる組織である肺胞が機能しなくなるため、いくら一生懸命息を吸ったとしても苦しみは改善しない。

 常に首を絞められているような苦痛の中、大量の痰が絡まり、それを無理やり吸引されながら、場合によっては喉を切開されてボロボロになりながら亡くなっていくこともある。

 救急車で病院へと運ばれた男性は、2週間の延命治療を経て、病室の中で息を引き取ったが、その最期は安らかとは言いがたいものだった。
 こうならないための周囲との意思の疎通について「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)の考えが参考になる。

「ACPは『最期に向けての事前準備』と訳されます。心肺停止になった時に蘇生処置を受けるのか、食事が口から摂れなくなった時に胃ろうをつけるのかなど、元気なうちにどう死にたいか希望を明確にしておくのです」(久坂部氏)

 これを家族や看取りに参加する人と共有し、合意を得ておけば、認知症などで意思の確認ができなくなったとしても、病院に運ばれる可能性を下げることができる。
「日本人は戦時中の反動で、現在は命を大切にしすぎていると言えます。これが最期まで医療にすがってしまうことの原因となっています。

 ある医師は『高齢者の役目は死ぬところを周りの人に見せることだ』と話していました。自分の最期を家族に見せ、上手に死ぬためにはどうすればいいのか、お手本を示すべきだというのです。これは私も同じ意見です。死から目をそらさず、こういった成熟した考えを持つことのできる人が上手に死んでいくのです」(久坂部氏)

 自身や身近な人の死を目前にした時の心構えについて久坂部氏が解説した『人はどう死ぬのか』(講談社現代新書)が発売中だ。死のための「予習」について、より詳細に知りたい方は、この新書もぜひ手に取っていただきたい。

 死は誰もが一度しか経験できない。しかし、事前に心構えと準備をしておけば「上手な最期」を実現できる。死の間際に後悔しないため、覚えておきたい。


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⚠️ ウクライナ侵攻の裏で進む世界食料争奪戦 激安を賛美する日本の危うさ 202203

2022-03-27 21:18:00 | なるほど  ふぅ〜ん

ウクライナ侵攻の裏で進む世界食料争奪戦 激安を賛美する日本の危うさ
 Newポストセブン より 220327


 (2009年2月、「サハリン2」のLNG基地視察する、オランダのマリア・ファンデルフーフェン経済相、メドベージェフ・ロシア大統領、アンドルー英王子、麻生太郎首相(すべて当時、EPA=時事)
 ロシアがウクライナ侵攻を始めて1か月が経った。この紛争に対して、どう向き合い、どのような態度をとるのか世界中が決断をせまられ、日本もロシアへの経済制裁に参加、ただし中国はのらりくらりとどの陣営にも与しないままだ。ロシアへの経済制裁をめぐり、貿易の世界では何が起きているのか、中国はこれから何を狙っているとみられるのか、俳人で著作家の日野百草氏が現役商社マンに聞いた。
 * * *
「この戦争、最終的に勝つのは中国かもしれませんよ」

 ロシアがウクライナを侵略してしばらく、専門商社に勤めるA氏(40代)と連絡をとる。この時点で開戦から半月が経過、短期間で首都キエフを制圧するというロシア、プーチン大統領の目論見は外れた。それはともかくとして、なぜ中華人民共和国(以下、中国)が勝つのか。

「欧米も日本も、世界の多くがロシアに対して制裁を実施しましたが、商売的には損を覚悟の正義です。ロシアの資源を中心に欧米はロシア経済に依存していた。それをごっそり中国が手に入れる、実際、中国系商社はEU諸国が手を引いた分野で活発に取り引きしています」

 日本が中国に貿易戦争で負け続け、いわゆる「買い負け」を繰り返して久しいが、中国は世界中の資源を、食料を買い漁っている。主要穀物の大半は、まず中国との交渉になっている。理由は簡単で金だ。高く買ってくれる国に売る、高く買うほうが「買い勝つ」、ごくシンプルな貿易戦争の構図である。

「人権を気にしない国だから強いですね」

 自分たちの国が発信源のコロナ禍でも気にせず自粛ムードの世界の中で買い漁った。アルゼンチンなどあまりに主食の牛肉を中国に売ってしまうために輸出の規制を強化した。それでもアルゼンチンの酪農家、企業からすれば安い国内業者や一般国民に売るより高く買ってくれる中国に売る。残念ながら日本でも農業に限らずその傾向が生まれ始めている。2021年には日本の農林水産物および食品の年間輸出額は1兆円を超えた。その中でも中華人民共和国(香港含む)への輸出は4割を超える。

「戦争が起きても気にしない。私たちとの取引でも金の話に終始します。情とか関係性なんて気にしない、徹底しています」

 それが中国という国と企業のメンタリティとすれば、ある意味グローバリズム経済にはうってつけである。だからこそ、わずかの間に世界経済の主役に躍り出た。

「ロシアもウクライナも、日本企業としては取引先として拡大している最中でした。国情はどちらも不安定で西側の商慣習にも不慣れな国ですが、国策込みで天然ガス開発は成果が出ていたはずです」

⚫︎ウクライナとロシアを両天秤にかける中国
 ロシアからは2009年からLNG(液化天然ガス)出荷が始まった「サハリン2」という開発プロジェクトを進めていた。三菱商事や三井物産など日本を代表する商社も絡んでいる。実際、日本の10%近くがロシア産のLNGとなるまで成長した。

「ロシアの侵略行為は許せませんが、当事者はもちろん、日本人も痛みを伴う制裁は避けなければいけません。中国のようにしたたかに進めるべきです」

 この「サハリン2」に参加していた英国に本拠地を置く多国籍企業シェルは撤退を発表した。これに限らず制裁に参加する企業は続出、別の開発プロジェクト「サハリン1」の米エクソンモービルも撤退に向けて操業停止、BPもロシアの石油事業からの撤退を表明した。
 ロシアも損害だがこれら大手エネルギー企業も数兆円規模の損失を被るとされている。しかし日本は一時的な停止という状態。日本商工会議所の会頭は、日本が撤退しても中国がロシアから貰うだけ、と警戒感を示している。

「そうでしょうね、中国はしたたかです。日本まで撤退すれば、あれだけのガス田をまるごと手に入れられる可能性があります」

 撤退すれば日本のLNGの10%が消える。国内価格も2割から3割上がるともいわれる。LNGは火力発電の主力燃料、東京電力によれば火力発電の7割はLNGとのこと。日本国内でも千葉県を中心に生産できるが国内需要のわずか2%程度、98%は輸入に頼っている。中国は制裁に参加することもなく、日本が育てた資源を漁夫の利で得ようとしている。

「それが中国です。私は戦争に反対ですしロシアは侵略者で許せません。でも企業利益はもちろん、国益、国民の生活を考えれば、このロシアの途方も無い資源を中国が独占する可能性はもっと問題視すべきです。サハリン1も含めて中国の覇権はさらに強固になります。ウクライナが勝って日本が負けるのは本末転倒です」

 あくまで商社マンとしての考えだが、現実的に考えればそうだろう。資源がないために苦しんできた日本、金がなければ誰も救けてくれないかもしれないし、先の大戦で大いに味わった禍根でもある。まして地震などの自然災害も頻繁で、火力発電所の一部停止を理由に3月22日に東京電力として初の「電力逼迫(ひっぱく)警報」を発令した。資源を他人頼みの日本のエネルギー政策など砂上の楼閣である。実際の戦争と同様に、経済もまた戦争である。筆者も友人のいるウクライナの勝利を願うが、日本が経済的に負けては話にならない。

「資源のある国や食料自給率の高い国はいいんですよ、しばらくは自国でなんとかできる。ロシアだって旧ソ連時代レベルの経済に戻ったって天然資源も食料もあります。国民も貧乏に慣れてるでしょうし。でも日本はあんな制裁を受けたら一瞬で崩壊するでしょうね」

 日本のエネルギーに対する対外依存は戦前とほぼ変わらない。むしろあの当時以上にエネルギー資源を常に確保しなければ日本そのものが終わるほどに、国民生活も含め対外依存は大きくなっている。食料などまさにそれで。

「そうですね。私は食料が専門ですが、たとえば中国はとくに牛肉と小麦が欲しい。以前牛肉の話はしたと思いますが、どんだけ小麦が欲しいんだってくらい、これまでも買い漁ってましたからね」

 肉に関してはこれまでも『憂国の商社マンが明かす「日本、買い負け」の現実 肉も魚も油も豆も中国に流れる』および『商社マンが明かす世界食料争奪戦の現場 日本がこのままでは「第二の敗戦」も』で言及してきたが、中国はその圧倒的な経済力と金に糸目をつけない「買い勝ち」で世界の食料を買い漁ってきた。
 国力の低下と円安、過度の品質へのこだわりはもちろん、改善書やら報告書やらに過剰な要求をする「めんどくさい客」としての商慣習により「買い負け」の日本。それとは対照的に中国は必要ならば十分な金を出し、細かいことには気にしない商慣習(国民性?)でアメリカと中国によるコンテナ輸送のドル箱路線を確立した。
 同じく拙筆『なぜポテトはSのままなのか 日本の港がコンテナ船にスルーされる現実も』でも言及した通り、ついには日本に寄ると損、とばかりに一部の船会社では日本に寄り渋り、抜港するようになった。

「もちろんウクライナからもロシアからも、中国は小麦を調達してきました。これからも両天秤でうまくやるのでしょう」

 中国はロシアのウクライナ侵略からすぐ、ロシア産小麦の輸入拡大を発表した。ロシアに対しては検疫による制限をかけていたが一気に方針転換した。そしてウクライナには1000万元の物資を送るとした。

「中国は世界トップクラスの援助国なんです。なんだかんだ、金を一番くれる人がいいでしょう。それを中国はわかっている。まして中国は金と一緒に物資も出すんです。貧乏な国はお金も喜びますが現物をもっと喜ぶ」

⚫︎中国はロシア経済も飲み込もうとしている
 中国は金も物も出す。もちろん紐つきだが、出さない国よりありがたいのは苦しい国にとっては当然だ。海底火山の噴火に見舞われたトンガにも金だけでなく1000万ドル以上の重機を送った。そんな中国が気に入らないなら日本がそれ以上に出せばいいだけの話だ。

「中国はロシアとウクライナの二面外交を展開してきました。両国が戦争してもそれって、ほんとしたたかだと思います」

 制裁による経済危機とルーブルの排除による混乱を来したロシアも、侵略されて物資不足のウクライナにも恩を売る形になる。中国は当事者ではないのでどちらかに肩入れする必要もない。アメリカが中国を一方的に非難しきれないのはこの辺も原因か。

「中国はロシア経済も飲み込もうとしています。勝とうが負けようがロシアの経済的な敗北は決定しているようなものですから、のらりくらりと両天秤で待てばいい。すべて経済力のなせる技です」

 ましてや中国は小麦の自給率は98.5%(2020年)、その上で貪欲に買い占めている。統計が中国のいいように仕向けられているとしても、10%程度しかない日本よりは確実に自給力はある。それでも買い占める。

「自給率と言うと人間が食べる分で考えがちですが、家畜の飼料としても重要です。『ふすま』って聞き慣れない人も多いかと思いますが家畜の配合飼料に使われます。小麦粉を作るときに取り除く部分で小麦の20%ほどがこの『ふすま』になります。保存があまり効かないので絶えず輸入、生産する必要があります。もちろん小麦粉そのものも10%くらいは飼料に使われます」

 小麦粉を作るときに除かれる外皮が『ふすま』だが畜産には欠かせない飼料である。日本は飼料穀物のほとんどを輸入に頼っている。

「みなさんが口にする小麦製品のほとんどは輸入です」

 小麦はもちろん大麦、トウモロコシ、高梁(こうりゃん)などのほとんどが海外から輸入されている。日本の飼料自給率は25%(!)、食料自給率の67%(生産額ベース・2020年度)どころかカロリーベースの37%(同)すら大幅に下回る。肝心の餌がそれなので「牛肉が不足しても国産の牛をもっと育てて食えばいいじゃないか」とはいかないのである。

「国産小麦もあるにはありますが、地場のうどんとか高級料理とか、限られた場面でしか使われませんね」

 小麦と聞くと小麦粉そのものはもちろんパン、うどん、パスタを想像するだろうが、加工食品としては餃子(皮)やカレーのルー、菓子などあらゆる食品に小麦が使われている。冷凍食品も、コンビニ弁当も、カップ麺も、私たちが現代社会で便利に食している多くの商品に小麦が使われている。自給率は10%に満たないというのに。

「もちろん日本はロシアやウクライナから小麦はほとんど輸入していません。ロシアもウクライナも小麦輸出大国ですがEUの一部やアラブ、北アフリカ向けですからね。でもシカゴ(穀物市場)の相場は個別で関係なくとも影響を受けます。もちろん日本もです」

 米国のシカゴ商品取引所は取引量と金額が世界で最も規模が大きいため、そこでの小麦やトウモロコシなど農産物の価格は「シカゴ相場」と呼ばれ、世界の穀物価格の指標として扱われている。そのシカゴではこの3月、14年ぶりに最高値が更新された。もちろん戦争、世界の小麦輸出量全体の16%を占めるロシアと、10%のウクライナという小麦の世界的産地の影響だ。

 日本にとってロシアやウクライナの小麦は関係ないが、世界全体の供給量の減少は回り回って日本の買い付け価格の高騰も招く。日本が買っていたアメリカ、カナダ、オーストラリア(この3カ国で日本の小麦輸入の9割以上を占める)の顧客に、これまで以上にEUや中東、アフリカが割って入ることとなる。

「3月に入って農水省は(小麦の引き渡し価格を)17%引き上げました。いまは引き上げ前の価格で市場に回ってますが、在庫が無くなる夏くらいには小売に反映されるでしょうね」

 小麦は米とともに主食であり国民生活の生命線のため国家貿易下にある。そのため日本政府が一元輸入して企業に販売しているが、戦争が始まる前から小麦の高騰と円安による厳しい綱渡りが続いていた。そこにロシアのウクライナ侵略。戦争が長引けば小麦はもちろん他の穀物も高騰するだろう。戦争の拡大はシーレーン(海上交通路)にも影響を及ぼす。

「戦局次第では買い負けどころの話ではありません」

 決して大げさではなく、日本国民を日々食べさせるのに石油や穀物を航空機だけで運ぶわけにはいかない。巨大船舶でひっきりなしに運ぶしかないのだ。もちろん日本のシーレーンは太平洋が中心だが、ロシアやウクライナ海域、その海域のシーレーンの影響をモロに受ける関係諸国(とくにEU)の船舶輸送が打撃を被れば、ただでさえ上がり続ける船賃がさらに上がる。船の保険料も上がる。
 世界各国の損保会社はもちろん、日本の大手損保3社も海上保険料の値上げを決めた。それらはすべて日本の買い負けと、さらなる国内の価格高騰、日本人の生活に影響を及ぼす。今年はあらゆる輸入に頼る商品が高騰することだろう。

「その点、中国が一番美味しいんです」
 それはそうだが、アメリカはどうか。
「アメリカは中国には本気になれないと思います。中国はうまくロシア、ウクライナ両方と付き合い続けています。アメリカともそうです。ロシアには強気のアメリカも中国には苦言だけ。実際、今日このときも米中航路は順調ですからね。現場知ってる人はわかるでしょうが、米中の仲が(決定的に)悪くなるとか、手を切るとか絶対ないですから。腹立ちますけどね」

 これはまったくそのとおりで、米中はトムとジェリーではないが「仲良く喧嘩」しているだけである。もちろんアメリカも自国を犠牲にしてまでロシア問題に首を突っ込む気はない。おそらく中国は彼の言う通り、この戦争を機に一帯一路、シルクロード経済ベルトの覇者となるかもしれない。

 中国はこの戦争が始まる前の2月4日、中露首脳会談で年間480億立方メートルもの天然ガスの供給契約を結んだ。また契約には小麦の輸入量拡大も盛り込まれていた。ロシアには世界の4割を産出するパラジウムなど貴重な資源も多い。中国はその強大な経済力でロシアと協力どころか従属させようとしている。
 ロシアが勝っても負けても、プーチンがどうなろうと、すでに紙くず寸前のルーブルとジャンク級の格付けとなったロシアは中国経済に頼らざるを得ない。中国、いまのところしてやったりだろう。

「日本もその辺はうまくやるべきでしょう。したたかにロシア、ウクライナとも関係を維持するべきです。まだ金出せば調達できる小麦はともかく、さきほどのサハリン2なんて絶対に撤退なんかしちゃだめですよ」

 あくまで商社マンとしての立場の話だが、ビジネスとすれば正解だろう。日本はコロナ禍でも世界的に厳しい自粛を国民に強いてきた。国民の生命が大切なことは当然だが、経済的には厳しくなり、「命より経済」の大国からはさらに遅れを取りつつある。
 政府も本音は経済優先なのだが、生真面目な国民性に苦慮しているように思う。ウクライナ支持はもちろん、許されざる侵略者ロシアを非難するのも当然だが、エネルギー資源もなく食料の大半も輸入に頼らざるを得ない国である日本は資源大国のようにはいかない。ロシアと通じて私腹を肥やす日本の利権屋には気をつけなければならないが、中国にみすみす横取りされるのもまた国益を損なう。

「中国が気に入らないのは私もそうですが、あれだけの大国がしたたかに振る舞っているのに日本が超大国のように威勢よく振る舞うのはどうかと思いますよ。商売で実感する身としては、どこもウクライナを本気で支援しようなんて思ってない、天秤にかけてます」

 筆者が思うに、アメリカもEUもお互いの出方を伺っているように見える。あわよくば中国のように、あそこまで露骨でなくとも経済的損失は避けたい思惑がある。ロシアへの経済協力予算21億円をちゃっかり2022年度予算案に盛り込んだ日本政府もまたそうだろう。

「ロシアに制裁しながら援助予算はキープでガス田開発ものらりくらり、ウクライナは本当に可哀相ですがこれでいいと思います。あとは円安だけなんとかしてくれれば及第点なんですけどね。このままだとさらに買い負けが進みます。ウクライナが可哀相なのはわかってますが、日本も食わなきゃいけませんから。みなさん本音はそうでしょう」

 まさに世界食料争奪戦、戦争の裏で戦争をしている。国際経済は究極のリアリズムだ。そして日本は小国ウクライナが大国ロシアと戦争しているのと同様に、いやそれ以上の超大国、中国とその戦争を経済でしている。激安賛美、客の神格化、円安政策が中国につけこまれている。経済戦争の敗北は後から気づくもの、負ける過程では気づきづらいだけに恐ろしい。

「その自覚、みなさん薄いと思います。彼らは本気ですよ」


⚫︎【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。
 出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
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