日本語おもしろ発見

日々の生活から

「怒る」と「叱る」の違い

2007-07-30 11:38:56 | 日本語豆知識

 日本語の授業をしていると、学生から類義語の違いについて質問がよく出ます。この説明というのが、なかなか難しいのです。学生が何を知りたいのか、瞬間に判断しなければならないからです。

 例えば、この前、「怒る」と「叱る」の違いは何かと聞かれました。私が、まず、答えのは、

   〇 私は、今、とても怒っています。(腹が立つの意味)

   ? 私は、今、とても叱っています。

 「腹が立つ」の意味では「叱る」は遣いません(*)。でも、これは、学生はわかっていて、知りたい情報ではなかったようです。では、何が知りたかったのでしょう。おそらく、同じような場面で遣うときのニュアンスの差だと思われます。「怒る」「叱る」は共に、目上の者が目下の者に注意するときに使います。例えば、

   @1 母親は、汚い手で物をさわった子どもを怒った。

   @2 母親は、汚い手で物をさわった子どもを叱った。

 この二つの文は何が違うのでしょう。(*)と関係しているのだと思いますが、@1は、感情的に自分の腹立たしい気持ちが優先しているような感じがします。それに対して、@2は、理性的に、子どもにわからせることを目的としているようです。

 『朝日新聞』(2007.7.22付)の「おやじの背中」で大黒摩季さんは次のように書いていました。

  ・・・・父との思い出で、強烈に覚えているのは、小学校低学年のころの出来事です。学校で「生命と親子」というテーマでエを描くよう課題が出て、私はアリの絵を描きました。一生懸命に食べ物を運ぶアリと、その横で人間に踏みつぶされて死んだ血まみれのアリ。担任の先生に出すと、「まじめに描いていない」と怒られました

 担任の先生は、アドバイスをすることもなく、ただ、感情的に大黒さんの絵を否定したのでしょう。ちなみに、大黒さんの父親は、娘の絵をたくさん褒めた後、「絵をもう少しだけ明るくしたら」とアドバイスしたそうです。

 人は誰でも「怒る」のではなく「叱りたい」のだと思いますが、なかなか難しいですね。私も、日本語教師になって、間もないころ、同じ職場の先輩に随分、「怒られた」ものです。

参考文献:『日本語学習使い分け辞典』(1994)講談社

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