Episode6 チヌの落とし込み釣り
この釣りは1980年頃徳島で覚えた釣りである。その頃私は神戸市内に転居して間もなく、義弟は徳島で勤務していた。釣りをかねて遊びに行ったとき堤防にチヌ釣に行こうということになった。するとまずエサの確保に吉野川の河口にカニを捕りに行こうという。ま、エサの一部かくらいに思っていたらこれが全く違っていたのである。釣り場について私は普通に撒き餌をして釣りだしたと記憶しているが義弟はそのカニを付けて堤防の壁面を擦るようにスーッと落とし込んでゆく。すると次から次へとどんどん釣り上げていくのである。こちらはオーソドックスな釣り方で坊主。これはあまりにもおかし過ぎるとその釣りを見学していた。この釣り方は何だろうと聞くと、ごく最近東京から来た人がやっていた釣り方だという。大きなショックを受けた。こんな方法をやらない手はないと思った。道糸に小さな目印(その頃は細いビニールのパイプを装着)を付けるのは少し面倒だがこれをやらないという手はないと考えた。
神戸に帰り適当な堤防はないかと考えたのとエサの入手、仕掛けの手作りなど手配した時、たまたま六年生くらいの甥御が家に遊びに来ていた。「どうや今から釣りに行くか」と聞いたら行くという。バタバタと準備して神戸七防行の渡船に初めて乗った。七防にはすでに多くの方が釣りをされていた。どうやらチヌ釣が主のようである。
甥御と私は釣り人の間に入ってその落とし込み仕掛けを入れていった。するとすぐに甥御の竿が大きく曲がり大騒ぎとなった。大変なことに七防は長い玉網か落とし玉網が必要なのだ。止む無く近くの釣り人に玉網をお借りしてチヌを取り込んだ。するとまたすぐに今度は私の竿にアタリがありまた玉網を借りることに。そこは船着きに近く釣り人も多かったため結構注目を浴びだした。周囲の誰もが一匹も釣っていない間に甥御と私は連続して9匹の良型チヌを釣り上げてしまった。はじめは好意的に玉網を貸してくれていた人もそっぽをむきまた別の方にお願いするというようなことになり少し気まずくなってきた。しかし、その中にはやはりこれはおかしいと思ったのであろうどんな釣り方かと聞きにくる人があった。
その後、私はこの釣り方を職場の友達などに紹介し、またせっせと七防に通うようになった。毎回釣れるというわけではなく釣れないこともあったが、七防の端から端まで何キロも落とし込んで釣り歩いたこともある。たった一人で釣りをしていた時、雷に襲われて死ぬかと思ったこともある。その間何人もその釣り方を教えてほしいといわれてうれしくてよく教えたこともある。私はその後やはり磯釣りの方に戻ったが、今は七防の落とし込み釣りクラブもあり、それがテレビなどで放映されているのを見ていると頑張っているなあと懐かしく、そして釣具店を覗くとタックルも大きく進展していることを感じる。