Episode3 遠征2
もう一つは同じ沖ノ島の三ノ瀬のトンギリという恐ろしい磯での釣りである。当日は荒れ日和で仲間は三ノ瀬本島に上がり釣りをしたが船頭は私にはトンギリに上がれという。文字通り三角のテントのような小さな磯で凄い風と波である。斜めに心細く立っているチャラン棒だけが頼りである。そのチャラン棒を持つと大きくぐらっと回るのである。しかしその棒を離したら荒波の中、しがみついたがグラグラしてとてもじゃないが釣りの準備などできない。
オーイと船を呼んだが船は遠ざかる。これはもうほとんど生きるか死ぬかのような状況に置かれている自分を感じた。
長い時間をかけて磯の裏側にへばりつき、兎に角肝を据えることとした。その磯の裏側に一か所だけ撒き餌バッカンを置くことができる場所があった。飛沫を受けながら長い長い時間をかけてやっと仕掛けを作った。タモの準備なんてとてもできない状態である。
撒き餌はコントロールもできず勝手に足元にこぼれていく。もうどうでもいいとその足元にウキを落とそうとしたら勝手にウキがとんでもなく遠くに吹っ飛んでいく。これはダメだ回収しようとしたその時なんだか手ごたえがある。やけくそでリールを巻いたらグレが食いついていた。やっと引き寄せても身動きはできない。仕方なくナイフで絞めてバッカンの中に入れる。やっと2回目の投入したがやはりまた到底撒き餌の効いてなさそうなとんでもないところにウキがすっ飛んで行った。ところがそこでもまた同じようにグレが喰いついてくるのである。そんなことが約10回くらい続いた。そしてやっと待ちに待った渡船が見回りに来た。竿はどうしたか忘れたが殆ど身一つで船に文字通り転がり込んだ。デッキの上を転がってやっと座ったら船頭が操舵室から顔をだし「ちと釣ったか」といった。とにかく道具は磯においていったん宿に帰るといった。宿で約2時間寝込んだ。現金なもので2時間後、よしもう一度挑戦してやるという気になった。そしてトンギリに着いてみるとまるで様子が変わっていた。潮が引き波と風が収まり沈んでいた磯が出ていてまるで風景が変わっていた。そして全く釣れなくなっていた。しかしあの恐ろしい経験は今も忘れられない。その日、クラブの仲間は全く釣れていなかった。