少し前、英語の勉強のために『The Japan Times』を読んでいたら、こんな記事があった。
『March 3, 2019 The Japan Times』
https://www.japantimes.co.jp/news/2019/03/02/national/japans-next-era-name-might-draw-japanese-classics-sources/#.XITgmMn7Tct
新元号は4月1日に発表されるということであるから、政府内部ではもう決定しているのだろう。そしてその元号の典拠は、史上初めて、中国の古典からではなく日本のそれから採られることを、“the sources”が各メディアに流している感じの記事だった。 首相が長年にわたる伝統を覆してまで中国を嫌う心理は、私には判りかねるが、“inferiority complex”の裏返しのような気がしないでもない。更に、ネット上では、自身の名前である「安」や「晋」を元号に入れるという予測もあった。まあ、普通の人なら恥ずかしくてやらないだろうけれど、あの人ならそうするかもしれない、という感触はある。
これはつまり、今迄に前例のない大きな変更をふたつもするのだから、それ相応の目に見えない反作用が起きることは覚悟の上なのであろう。
その上で、私が最初に思い浮かべた元号は「安水(ansui)」であった。「安」は規定路線として、新陛下は「水」のご研究をライフ・ワークとされているので、「安らかな水」、という意味なら日本の古典の一節にもあるだろうし、「安」は「水」にかかる形容詞であるから、ぎりぎりの許容範囲であろう。しかしこれには大きな落とし穴があった。「安水」をネットで検索すると「アンモニア水」の意味があるとあった。これでは駄目である。
次に、「水」を大きく解釈して「海」とすると「安海(ankai)」となるが、これも相撲取りの四股名のようで駄目である。では角度を変えて、太平洋等の「洋」ならどうなるかというと、「安洋(anyō)」である。これは、そのまんま「安●洋子」であるが、語感はいいので第一の候補としよう。
ここまで来ると、「安」ではなく、「岸」でもいいような気がしてきた。「岸」は案外詩的な言葉であり、啄木の有名な歌、
やはらかに柳あをめる
北上の岸辺目に見ゆ
泣けとごとくに
にも入っているし、何より歌会始のお題になったこともある美しい言葉である。
http://www.kunaicho.go.jp/culture/utakai/pdf/utakai-h24.pdf (宮内庁)
「岸 (kishi, gan)」を入れた元号で最初に思いついたのは、「岸米(ganbē)」である。岸米元年、岸米二年、岸米三年……と、なかなか重厚な響きがあっていい感じである。もうひとつ「岸」+「水」の類語でいろいろ試したが、一番良かったのは「青岸(sēgan)」であった。一応これも検索してみると、西国三十三所第一番札所の「青岸渡寺(せいがんとじ)」が出てきた。
https://www.nachikan.jp/kumano/seiganto-ji/
https://www.saikoku33.gr.jp/place/1
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%92%E5%B2%B8%E6%B8%A1%E5%AF%BA
由緒のあるお寺のようなので、いつかは訪れてみたいと思った。しかし問題は、ローマ字表記の頭文字が「昭和」と同じく「S」となってしまう事だ。だがこれは「Sho」と「Se」で書き分ければいいので、「青岸」を第二候補とする。
こうなってみると、「名前」や「日本の古典」から離れて、従来の漢籍から採るとどうなるかと思い、私の少ない蔵書を繰っていたら、『論語』にこの言葉があった。
子曰、知者楽水、仁者楽山。
知者動、仁者静。
知者楽、仁者寿。
子曰く、知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。
知者は動き、仁者は静かなり。
知者は楽しみ、仁者は寿(いのち)ながし。
新陛下は「水」をご研究され、「山」を楽しまれているようなので、典拠としてはぴったりなのではないだろうか。『論語』全体のキー・ワードでもある「仁」が先に来るかつての元号には、「仁寿」「仁和」「仁平」「仁安」「仁治」の五例がある。そして「仁」の読み方は全て「にん」である。新しい元号はこれを「じん」と読み、第三案を「仁知(jin-chi)」とする。
①「安洋(anyō)」
②「青岸(sēgan)」
③「仁知(jin-chi)」
この三案を以って、私は「有識者懇談会」に提出したい ^Ⅲ^)!