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いくら解剖しても何もわからず、困難を極めた「脳の機能特定」…この状況を打開したのはまさかの鉄棒が頭部を貫通した「悲惨な事故」だった!?

2025年02月10日 20時03分52秒 | 医学と生物学の研究のこと




いくら解剖しても何もわからず、困難を極めた「脳の機能特定」…この状況を打開したのはまさかの鉄棒が頭部を貫通した「悲惨な事故」だった!?
2/9(日) 7:01配信




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現代ビジネス
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「いつの日かAIは自我を持ち、人類を排除するのではないか―」2024年のノーベル物理学賞を受賞した天才・ヒントンの警告を、物理学者・田口善弘は真っ向から否定する。


【写真】知能とはなにか…意外と知らない人工知能と機械学習の「致命的な違い」


理由は単純だ。人工知能(AI)と人間の知能は本質的に異なるからである。しかし、そもそも「知能」とは何なのだろうか。その謎を解くには、「知能」という概念を再定義し、人間とAIの知能の「違い」を探求しなくてはならない。生成AIをめぐる混沌とした現状を物理学者が鮮やかに読み解く田口氏の著書『知能とはなにか』より、一部抜粋・再編集してお届けする。


『知能が脳にあることは共通認識なのに、その正体は“謎”だらけ…学会の専門誌でも「明確な定義はない」とされている「知能」の不思議』より続く。


脳はどのように働いているのか
脳が心を担っていることはこのようにかなり早くから知られていたものの、他の臓器と違い、脳がどのように働いているかを調べることは困難を極めた。


消化器や循環器なら解剖するなどして、生理学的な研究や臓器を構成する細胞の分子生物学的研究を積み重ねることで、構造と機能の関係がかなり詳しくわかってきたが、脳をいくら解剖してもどのように「心」を作り出しているかはわからなかったからだ。


そもそも「心」の実体すらわからず、脳は見た目には、のっぺりとした塊にしか見えず、よく見れば構造はあるとはいうものの、脳を見ただけではどこが何をやっているか杳(よう)として知れない。


この状況を打開したきっかけの一つは不幸な事故だった、と言われている。かなり有名な逸話だが紹介しよう。


米国のフィネアス・ゲージという建築技師が、作業中の事故で鉄棒が頭部を貫通するという瀕死の重傷で、前頭前野に広く損傷を受けた(図表1-3)。ゲージは仕事熱心で責任感も強く、会社や同僚からも高く評価されていたが、事故後、発作的で乱暴な振る舞いが増えて、家族や知人から「もはやゲージではない」と言われるほどの人格変容が起きた。


前頭葉を損傷したことで性格が激変したことは、情動を制御する中枢がこの部位にあることを強く示唆する。ゲージの事故が嚆矢(こうし)となり、脳の機能研究が一気に進んだとされている。実験動物の脳に損傷を加えたり、被験者の脳に電気刺激を加えたりすることで脳のどの部位がどんな機能を担っているのか、実験的に決められるようになったのだ。


脳の機能特定に立ちはだかる根本的な問題とは
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しかし、この機能特定のアプローチには根本的な問題があるのは明らかだ。実際に観測しているのは知能そのものではなく、知能が作用した結果に過ぎない。ゲージの例で言えば、実際に情動の不安定さが観測されたのではなく、厳密には情動が不安定になった場合に観測されるであろう行動が観測されたに過ぎない。にもかかわらず、この観測から「前頭葉が情動に関わっている」と結論付けてしまった。


もちろん情動そのものを観測することはできないのだから、このやり方はおかしくないように見える。しかし、結果的にこのような方法は「知能」を知能そのものではなく「知能が働いた場合の行動の変化」で定義せざるを得ない、という問題を看過したことになった。以下に見るように、これが生成AIで知能まがいの機能が実現した現在において大きな混乱の原因になっている。


このような研究はオプトジェネティクス(光遺伝学)という技術を使ってより精密化している。詳細な説明は省くが、オプトジェネティクスは「光照射のオンオフによって、機能を知りたい細胞の活動をミリ秒単位で精緻に操作する技術」である(https://www.med.keio.ac.jp/features/2024/1/8-156303/index.html)。


この技術を使って脳細胞を細胞単位で制御し、サルの手を動かすというようなことまでできている。だがそれでもまだ「脳のどの部位が何をしているのか?」という「場所と機能の関係づけ」が精緻化されただけであり、ここまできてもまだ、実際に脳がどのように働いているのか解明にはほど遠いのが現状である。


このように書くと脳の研究が全然進展していないみたいで、脳の研究を生業とされている皆さんの逆鱗に触れそうだが、もちろんそんなことはない。先に紹介したのは脳細胞に直接関与する侵襲型の研究だが、実際には非侵襲的な脳研究が膨大にある。


脳の活動度を計測する
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非侵襲的な脳研究とは脳の外部から脳細胞の状態を計測する方法で、健康診断でもおなじみのX線撮影とか超音波断層診断装置のようなものを思い浮かべるとわかりやすい。もっとも、X線や超音波は主に臓器の構造を調べるための観測手段だが、先に述べたとおり、脳はのっぺりとした構造性に乏しい器官なので、これらの観測手段はあまり役に立たない。脳を非侵襲に研究しようと思ったら構造ではなく活動度を計測できる手段でなければならない。


脳の活動度を非侵襲的に計測する手段は実のところかなりたくさんある。有名なところだと脳波(EEG)、MRIやNIRSがある。


脳波は、脳から出てくる電磁気的な活動で、これは脳神経細胞であるニューロンが電気化学的な素子であり、ニューロンの活性化が電気的な活動を伴うことから発生するものだ。脳波と脳の機能の関係については膨大な研究がある。例えば、脳波はその周波数により波(14~30)、波(8~13)、波(4~7)、波(0.5~3)に分類され、「覚醒時は波が活性化されるが睡眠時は低下する」など、脳波と脳の状態(機能)との関係はよく知られている。


MRIは、核磁気共鳴という難しい技術で脳の活動度を測るもので、表面でしか観測できない脳波と違って、脳の内部を断層診断的に観測できる。fMRIが主に観測しているのは「水の動き=血流」で、血流が激しいところは脳が活動しているという仮定のもとに、脳に様々な外部刺激を与えたときや人間がいろいろな作業をしているときに、脳のどの部位が活性化しているかを調べる。


NIRSは、脳から出る近赤外線を観測する技術で、脳波と同じように脳の表面でしか観測できないが、時間分解能に優れるが、局所性には劣るEEG(電気的な活動を測るのでEEGでは計測部位から遠い場所の脳の活動も一緒に測ってしまう)に対して、空間分解能に優れる(センサーを張り付けた部位の特異的な観測が可能)計測手段である。







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