
「トランプ=生成AI」? 「根拠なんかなくても主張してOK!」な感性が押し開く‟無責任”な言葉のディストピア(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

「トランプ=生成AI」? 「根拠なんかなくても主張してOK!」な感性が押し開く‟無責任”な言葉のディストピア
2/26(水) 7:01配信
>こうした彼の主張には往々にして根拠はなく、それに対しては当然、「ならば証拠を出せ」という批判が噴出するが、彼が自分の主張を正当化する十分な根拠を出すことはない――ないのだから出せるわけがない(1)
2
コメント2件
現代ビジネス
photo by gettyimages
「フェイクニュース」「選挙が盗まれた」から「多様性政策のせい」「独裁者」まで、根拠なき主張を繰り返すトランプ大統領。何かに似てると思ったら……生成AI(ChatGPT)だった!? 『誤解を招いたとしたら申し訳ない』の著者・藤川直也氏が大胆な仮説とともに想像する、‟無責任”な言葉のディストピア!
【写真】「フェイク」だとか「多様性政策のせい」だとか…
「選挙が盗まれた!」
ドナルド・トランプは、事実を報じているかどうかに構わず、自分に都合の悪い報道に「フェイクニュース」のレッテルを貼り、報道機関を罵倒し続けてきた。
あるいは彼は、2020年の合衆国大統領選挙で自身の敗退の危機を察知するや、「選挙が盗まれた!」と繰り返し叫び、選挙に不正があったと主張し続けた。
こうした彼の主張には往々にして根拠はなく、それに対しては当然、「ならば証拠を出せ」という批判が噴出するが、彼が自分の主張を正当化する十分な根拠を出すことはない――ないのだから出せるわけがない(1)。
異論に対するこうした態度は、もちろん主張によって生じる責任・コミットメントの遊びの範囲外だ。道端に捨てられた選挙用紙の束の写真は、法廷で争われるまでに至った大統領の主張を十分に支持する証拠ではない。そんなものを出したところで、それは主張に伴う責任を果たしたことにならない。
では、彼は根拠のない主張を撤回するかといえば、そんなことは決してなく、むしろいまだに同じ主張を繰り返し続けている。
(1) 以下の記事によれば、トランプ自身証拠がないことを承知の上でそう主張していた。https://www.forbes.com/sites/alisondurkee/2023/03/17/trump-campaign-reportedly-commissioned-study-showing-no-widespread-election-fraud-butcontinued-to-push-claims-anyway/?sh=195257081a07
2/26(水) 7:01配信
>こうした彼の主張には往々にして根拠はなく、それに対しては当然、「ならば証拠を出せ」という批判が噴出するが、彼が自分の主張を正当化する十分な根拠を出すことはない――ないのだから出せるわけがない(1)
2
コメント2件
現代ビジネス
photo by gettyimages
「フェイクニュース」「選挙が盗まれた」から「多様性政策のせい」「独裁者」まで、根拠なき主張を繰り返すトランプ大統領。何かに似てると思ったら……生成AI(ChatGPT)だった!? 『誤解を招いたとしたら申し訳ない』の著者・藤川直也氏が大胆な仮説とともに想像する、‟無責任”な言葉のディストピア!
【写真】「フェイク」だとか「多様性政策のせい」だとか…
「選挙が盗まれた!」
ドナルド・トランプは、事実を報じているかどうかに構わず、自分に都合の悪い報道に「フェイクニュース」のレッテルを貼り、報道機関を罵倒し続けてきた。
あるいは彼は、2020年の合衆国大統領選挙で自身の敗退の危機を察知するや、「選挙が盗まれた!」と繰り返し叫び、選挙に不正があったと主張し続けた。
こうした彼の主張には往々にして根拠はなく、それに対しては当然、「ならば証拠を出せ」という批判が噴出するが、彼が自分の主張を正当化する十分な根拠を出すことはない――ないのだから出せるわけがない(1)。
異論に対するこうした態度は、もちろん主張によって生じる責任・コミットメントの遊びの範囲外だ。道端に捨てられた選挙用紙の束の写真は、法廷で争われるまでに至った大統領の主張を十分に支持する証拠ではない。そんなものを出したところで、それは主張に伴う責任を果たしたことにならない。
では、彼は根拠のない主張を撤回するかといえば、そんなことは決してなく、むしろいまだに同じ主張を繰り返し続けている。
(1) 以下の記事によれば、トランプ自身証拠がないことを承知の上でそう主張していた。https://www.forbes.com/sites/alisondurkee/2023/03/17/trump-campaign-reportedly-commissioned-study-showing-no-widespread-election-fraud-butcontinued-to-push-claims-anyway/?sh=195257081a07
証拠なんかなくても主張してOK
このようにトランプは、主張に伴う責任を大胆にも踏み倒し続けてきた。
それだけではない。恐るべきことに、少なくない人が彼のそうした態度を認めつつある。CNNの調査によれば、選挙の不正があったと考える共和党支持者のうち、不正の確実な根拠があるわけではないと考える人の割合が増えている(2)。
ここに、主張という発語内の力の変化を見てとることができるかもしれない。主張するならちゃんと根拠を出せるようでなければならない、というのが主張の基本的なあり方だった。それが、ときには証拠なんかなくても主張してもよい、というように変化しつつあるのではないか。根拠のない主張が繰り返されることに伴って、主張に伴う責任のあり方が歪められつつある、というわけだ。
そしてたちの悪いことに、トランプの無根拠な主張は人々にそれに基づいた行動を取らせてしまう─―たとえばその主張は、それに基づいて選挙が盗まれたと考える有権者の投票行動を左右する。
できあがるのはまるで巧妙な贋札のような言葉だ。人は贋札を真札のように使ってしまうが、贋札には価値を保証する政府の裏付けがない。トランプの主張に従って行動したとしても、そこには本来あって然るべき根拠がない。
(2) https://s3.documentcloud.org/documents/23706881/cnn-poll-most-republicans-care-more-about-picking-a-2024-gopnominee-who-agrees-with-them-on-issues-than-one-who-can-beat-biden.pdf
責任なんてない
ときには根拠なんかなくても主張してよい─―このように主張に伴う言行一致の責任は変化してしまうのか。この問題と、生成AIの普及とは無関係ではないかもしれない。
生成AIの問題の一つにハルシネーションの問題がある。生成AIは、もっともらしい誤情報の生成を避けられないという問題だ。
しかし、生成AIの問題は、誤情報を避けられないという事実問題だけではない。それには、誤情報を避ける責任を負っていないという規範的な問題がある。
生成AIは、反論されたら内容を正当化する責任を負うという、無根拠な主張を抑制する規範にそもそも縛られていない(3)。ChatGPT が文字列を生み出すたびに、正当化の責任にコミットしているとは考え難い。OpenAI がそうした責任を肩代わりしているわけでもない。つまり生成AIの主張は無責任なのだ。
もちろん、ChatGPT が文字列を生み出したところでそれはそもそも主張ではない、というのはもっともな意見だ。しかし、ChatGPT による文字列の生成を主張と見分けるのはそれほど簡単なことではない。
今井むつみは、ChatGPT の答えを元に、間違った主張を堂々とする素人が増えていると報告する(4)。つまり、現に人々は、ChatGPT の言葉を受けて、主張が相手に許可する振る舞いをしてしまっているのだ。
主張と区別のつかないなにかが蔓延し、人々はそれを主張のように受け取る。しかしそれは裏付けとなる根拠を出すという責任に縛られてはいない。こうした状況が、主張と挙証責任との結びつきを歪めうるのではないか、というのがここでの懸念である。
(3) このことは生成AIにおいて、こうした規範以外の仕方で無根拠な主張が抑制されている、ということと両立する。たとえば、学習元のデータの大部分が無根拠な出鱈目ではない、ということはそうした仕組みの一部になるだろう。
(4)https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00554/052500002/?P=4
(『誤解を招いたとしたら申し訳ない』第14章より)
* * *
『誤解を招いたとしたら申し訳ない』の著者・藤川直也さんのインタビュー「言語哲学者が見た「壊れゆく言葉の世界」」は、以下からお読みいただけます!
【前篇】「責任逃れ・謝罪もどき・○○構文がコミュニケーションにもたらす脅威とは?」
【後篇】「“デタラメ”「トランプ構文」は言葉の挙証責任を踏み倒す」
このようにトランプは、主張に伴う責任を大胆にも踏み倒し続けてきた。
それだけではない。恐るべきことに、少なくない人が彼のそうした態度を認めつつある。CNNの調査によれば、選挙の不正があったと考える共和党支持者のうち、不正の確実な根拠があるわけではないと考える人の割合が増えている(2)。
ここに、主張という発語内の力の変化を見てとることができるかもしれない。主張するならちゃんと根拠を出せるようでなければならない、というのが主張の基本的なあり方だった。それが、ときには証拠なんかなくても主張してもよい、というように変化しつつあるのではないか。根拠のない主張が繰り返されることに伴って、主張に伴う責任のあり方が歪められつつある、というわけだ。
そしてたちの悪いことに、トランプの無根拠な主張は人々にそれに基づいた行動を取らせてしまう─―たとえばその主張は、それに基づいて選挙が盗まれたと考える有権者の投票行動を左右する。
できあがるのはまるで巧妙な贋札のような言葉だ。人は贋札を真札のように使ってしまうが、贋札には価値を保証する政府の裏付けがない。トランプの主張に従って行動したとしても、そこには本来あって然るべき根拠がない。
(2) https://s3.documentcloud.org/documents/23706881/cnn-poll-most-republicans-care-more-about-picking-a-2024-gopnominee-who-agrees-with-them-on-issues-than-one-who-can-beat-biden.pdf
責任なんてない
ときには根拠なんかなくても主張してよい─―このように主張に伴う言行一致の責任は変化してしまうのか。この問題と、生成AIの普及とは無関係ではないかもしれない。
生成AIの問題の一つにハルシネーションの問題がある。生成AIは、もっともらしい誤情報の生成を避けられないという問題だ。
しかし、生成AIの問題は、誤情報を避けられないという事実問題だけではない。それには、誤情報を避ける責任を負っていないという規範的な問題がある。
生成AIは、反論されたら内容を正当化する責任を負うという、無根拠な主張を抑制する規範にそもそも縛られていない(3)。ChatGPT が文字列を生み出すたびに、正当化の責任にコミットしているとは考え難い。OpenAI がそうした責任を肩代わりしているわけでもない。つまり生成AIの主張は無責任なのだ。
もちろん、ChatGPT が文字列を生み出したところでそれはそもそも主張ではない、というのはもっともな意見だ。しかし、ChatGPT による文字列の生成を主張と見分けるのはそれほど簡単なことではない。
今井むつみは、ChatGPT の答えを元に、間違った主張を堂々とする素人が増えていると報告する(4)。つまり、現に人々は、ChatGPT の言葉を受けて、主張が相手に許可する振る舞いをしてしまっているのだ。
主張と区別のつかないなにかが蔓延し、人々はそれを主張のように受け取る。しかしそれは裏付けとなる根拠を出すという責任に縛られてはいない。こうした状況が、主張と挙証責任との結びつきを歪めうるのではないか、というのがここでの懸念である。
(3) このことは生成AIにおいて、こうした規範以外の仕方で無根拠な主張が抑制されている、ということと両立する。たとえば、学習元のデータの大部分が無根拠な出鱈目ではない、ということはそうした仕組みの一部になるだろう。
(4)https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00554/052500002/?P=4
(『誤解を招いたとしたら申し訳ない』第14章より)
* * *
『誤解を招いたとしたら申し訳ない』の著者・藤川直也さんのインタビュー「言語哲学者が見た「壊れゆく言葉の世界」」は、以下からお読みいただけます!
【前篇】「責任逃れ・謝罪もどき・○○構文がコミュニケーションにもたらす脅威とは?」
【後篇】「“デタラメ”「トランプ構文」は言葉の挙証責任を踏み倒す」