デジタル導入の「教育先進国」で成績低下や心身の不調が顕在化…フィンランド、紙の教科書復活「歓迎」(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
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デジタル導入の「教育先進国」で成績低下や心身の不調が顕在化…フィンランド、紙の教科書復活「歓迎」
3/18(火) 5:01配信
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読売新聞オンライン
[再考 デジタル教育 検証 中間報告]<上>
デジタルを積極導入した海外の「教育先進国」で、子どもの学力低下や心身の不調が顕在化し、見直しの動きが相次ぐ。
反対に日本は、学校教育の根幹にある教科書を、紙からデジタルに置き換えようと突き進む。文部科学省が主導する推進議論の危うさを指摘する。
【写真】紙の教科書が復活した教室で学ぶ生徒たち
人口556万人の北欧フィンランドは、教育を柱とした人材育成に国家の命運を懸けてきた。大学を含む学校の授業料は無料で、小学校以上の教員は修士号を持つ。教育現場へのデジタル導入は早く、1990年代から進められてきた。
2000年に始まった国際学習到達度調査(PISA)で、フィンランドの子どもの読解力は世界一だった。03年に数学的応用力、06年からは科学的応用力もPISAで本格的に測られるようになり、初回は2位と1位。好成績の理由を探る各国の「フィンランド詣で」が続いた。
だが22年には、3分野の順位が14位、20位、9位に落ちた。「教育は、急速なデジタル化に対応できるものではなかった」。アンデルス・アドレルクロイツ教育相(54)は述懐する。
首都ヘルシンキ近郊の小都市リーヒマキは、同国内でも教育のデジタル化に先進的に取り組んだ自治体。約10年前から中学生の1人に1台ノートパソコンが配られ、デジタル化した教科書や教材が多用されてきた。
だが2月下旬、市内のハルユンリンネ中学校を訪ねると、教室の風景は変わっていた。「みんな、文法のページを開いてください」。2年生の英語の授業で、生徒たちが手を伸ばしたのは、パソコンではなく紙の教科書。解説を読んで理解した後、鉛筆やペンで問題プリントに答えを書き込む。リーヒマキでは昨秋、中学校の英語を含む外国語と数学の授業で使う教科書が、デジタルから紙に戻されていた。
「パソコンで見る教科書は、どこを読めばいいかわからない時があった。紙の方が理解しやすい」。エンミ・イソタロさん(14)は歓迎する。
(写真:読売新聞)
以前のリーヒマキでは、パソコンを使った授業が週に20時間を超えることもあった。「子どもの集中力が低下し、短気になるといったことが、その頃、フィンランド全体で問題化した。デジタルに偏った教育への懸念が高まった」。市のヤリ・ラウスバーラ教育部長(61)は振り返る。
市は23年末、中学生と保護者、教職員計約2000人へのアンケートを実施した。すると、保護者の7割が紙の教科書を望み、教員の8割が外国語などの授業で紙を使いたいと答えた。今秋から中学の物理や化学でも紙を復活させる予定だ。
ハルユンリンネ中のハンナ・ピュルバナイネン校長(52)は「紙の教科書は教室に落ち着きをもたらす」と話す。
教育現場でのデジタル利用に慎重となる国は近年、目立っている。22年PISAで3分野とも1位のシンガポールは、小学生にはデジタル端末を配らないことを23年に決めた。心身が未発達の子どもに悪影響が及ぶことを懸念したためだ。
韓国では今月から、政府がAI(人工知能)を搭載したデジタル教科書の配布を始めたが、韓国メディアによれば導入するのは32%(2月中旬時点)にとどまる。教育省が今年初めに実施した調査では保護者の7割が「デジタル依存に陥る」ことを懸念し、5割が「教師と生徒のコミュニケーションを促進するものではない」と否定的だった。導入に反対する教員労組は声明文で「未来の教育に必要なのは、AI技術より問題解決能力だ」と訴えた。
韓国の教育に詳しいKDDI総合研究所コアリサーチャーのキム・ダジョン氏は「懸念や課題が残る中で、政策決定を優先して導入を進めたことに無理があった」と指摘する。
日本では2月、中央教育審議会の作業部会が、昨秋からの議論の「中間まとめ」を策定し、デジタルを紙と同じ「正式な教科書」とすることなどを提起した。
デジタル教科書の使用拡大を前提とした議論の中で、海外の動向を十分検討した様子はうかがえない。(フィンランド・リーヒマキ、教育部 伊藤甲治郎)