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男性用経口避妊薬、マウス実験で99%の効果 米研究

2025年03月06日 03時03分29秒 | 医学と生物学の研究のこと
YCT529」を4週間経口投与したマウスは精子数が劇的に減少し、交配試験で99%の妊娠予防効果を示した。マウスの体重、食欲、全体的な活動に明らかな悪影響は認められなかった。投与中止から4~6週間後にマウスの生殖能力は戻った。
 
 
2022/03/24(木) 16:42:52.36
 
 
AFP=時事】マウス実験で99%の効果があり、目立った副作用のない非ホルモン性の男性用経口避妊薬(ピル)を開発したと、米ミネソタ大学(University of Minnesota)の研究チームが23日、発表した。年内にヒト臨床試験に入る見通しだ。

【動画】コンドームから性的同意まで…ベトナムで広がる性教育

 この研究成果は、米国化学会(American Chemical Society)春季年会で発表される。避妊における男性側の選択肢と責任の拡大に向けた重要な一歩となる。

 女性用ピルが初めて認可されたのは1960年代。今回発表を行う大学院生のアブドラ・アル・ノーマン(Abdullah Al Noman)氏によると、複数の研究で、男性に避妊の責任分担への関心があることは分かっていた。

 しかし、これまでは効果的な選択肢がコンドームか精管切除しかなく、後者は高額なうえ成功するとは限らなかった。

 女性用ピルは、女性ホルモンの分泌をコントロールすることで月経周期を調節する。男性用ピルの開発でも長年、男性ホルモンのテストステロンに的を絞って研究が進められてきたが、体重増加やうつ病、心臓病リスクを高めるLDL(悪玉)コレステロール値の上昇といった副作用が問題となっていた。

 非ホルモン性ピルの開発にあたり、ノーマン氏は「レチノイン酸受容体アルファ(RARα)」というたんぱく質に着目。所属研究室のグンダ・ゲオルク(Gunda Georg)教授と共に、コンピューター・モデルを用いてRARαの作用をピンポイントで阻害する化合物「YCT529」を開発した。

 RARαは体内でビタミンA代謝産物のレチノイン酸に作用し、細胞の成長、精子の形成、胚の発生に重要な役割を果たす。RARαを作り出す遺伝子のないマウスは不妊になることが実験で分かっている。

「YCT529」を4週間経口投与したマウスは精子数が劇的に減少し、交配試験で99%の妊娠予防効果を示した。マウスの体重、食欲、全体的な活動に明らかな悪影響は認められなかった。投与中止から4~6週間後にマウスの生殖能力は戻った。

 研究チームは米国立衛生研究所(NIH)と男性用避妊薬イニシアチブ(MCI)から資金提供を受けている。ゲオルク教授によれば、スタートアップ企業のユアチョイス・セラピューティクス(YourChoice Therapeutics)と協力して今年後半にヒト臨床試験を開始する予定で、5年以内の市場投入を目指している。【翻訳編集】 AFPBB News
 
 
 
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なぜ肉眼で見た感動的な光景は写真になるとショボくなるの?

2025年03月05日 10時03分50秒 | 医学と生物学の研究のこと
 
 
2023/03/02(木) 21:25:05
 
 
なぜ肉眼で見た感動的な光景は写真になるとショボくなるの?

 夜空に浮かぶ大きな満月をスマホで撮影すると、思ったよりちっぽけにしか写らず、ガッカリした経験はないでしょうか?

 当然、肉眼で見る方が感動的なのは確かです。しかしそういう問題とは別に明らかに写真の方が月や山などは肉眼より小さく見えます。

 これは私たちの目や脳がカメラやコンピューターとは異なる方法で風景を処理していることに原因です。

 そこで今回、英カーディフ・メトロポリタン大学(CMU)の研究チームは、人間が脳内で行う遠近法をテレビゲームの一般的なカメラワークの一つであるFPS(一人称視点のシューティングゲーム)に導入した場合、プレイヤーの距離感覚にどんな影響が出るかを実験しました。
 
 
 
研究の詳細は、2023年2月24日付で心理学研究のプレプリントリポジトリ『PsyArXiv Preprints』に掲載されました。
 
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目次
  • 実際の見え方をゲームに反映することで没入度がアップ?
実際の見え方をゲームに反映することで没入度がアップ?
コンピューターグラフィックスでは、平面上に3次元空間を表現する際、主に「線遠近法(透視図法)」という手法に頼ります。
線遠近法は、あらゆる遠近法の中で最も科学的に体系化された空間表現法の一つです。
例えば、下の画像のように、遠方の水平線(HL)に向けて真っすぐ延びる一本道の両側の輪郭線(AとA’)を、水平線上の一点(消失点VP)に向けて収束させるように描く手法が線遠近法です。
これはイタリアのルネサンス期に技法が確立されました。
透視図法(線遠近法)透視図法(線遠近法) / Credit: MAU 造形ファイル
「しかし、人間の視覚は実際にはそのように機能していない」と研究主任のロバート・ペペレル(Robert Pepperell)氏は指摘します。
ペペレル氏によると、私たちの両目は湾曲した網膜に光を投射しており、その視野はカメラやコンピューターの画面よりはるかに広いという。
また焦点の中心にある物体(たとえば写真に撮ろうとする満月など)は、脳が周辺視野にある物体よりも強く注意を向けているため、写真で見るよりも大きく感じられるのです。
左:画家の目から見た自然な遠近感、右:カメラで見たデジタル上の遠近感左:画家の目から見た自然な遠近感、右:カメラで見たデジタル上の遠近感 / Credit: Robert Pepperell et al., PsyArXiv Preprints(2023)
 
そこでペペレル氏ら研究チームは、人間の目や脳が風景を知覚する方法「自然遠近法(natural perspective」)」を模倣した数学モデルを用いて、デジタル上の画像を肉眼に近い印象に補正するソフトウェアを開発。
 
FPSゲーム『Hammer 2』に出てくるターゲットボール(銃で狙う的)を通常の線遠近法と、ソフトウェアで補正した自然遠近法で表示してみました。
 
 
下の画像では、視野の広さにより影響の違いを調べるため、視野(FOV:Field of View、画面に映る視界の水平角度)を100度、120度、140度の3種類でレンダリングしています。
青枠:人間の肉眼の感覚に近い自然な遠近法、黄枠:従来の線遠近法
 
青枠:人間の肉眼の感覚に近い自然な遠近法、黄枠:従来の線遠近法 / Credit: Robert Pepperell et al., PsyArXiv Preprints(2023)
 
この画像を見ただけでも、見え方の違いはよく分かるでしょう。
 
視野を広く取るほど、従来の線遠近法では見たい対象は小さくなってしまいますが、肉眼に近い自然遠近法ではあまり大きさの違いなどを感じません。
 
こうした視野を広く設定した際のターゲットの見づらさについては、FPSゲームのプレイヤーほど実感が持てると思います。
 
また満月などを撮影しようとした際も、肉眼と写真内ではまったくサイズが異なって見えるという印象の問題も、このソフトウェアは再現できているのがわかります。
 
 
では、このように画面内の映像を肉眼に近い遠近法で表現したときと従来の線遠近法で表現したときに、人間の距離感にはどのような影響が出るのでしょうか?
 
 
研究チームは195人の参加者に協力してもらい、異なる場面と様々な幅の視野を持つ計72枚の画像で、ターゲットボールがどれくらいの距離にあるかを評価してもらいました。
 
ちなみに、画像中のボールの距離は以下の6つのどれかに該当し、参加者はそこから正解を選び出します。
 
ターゲットボールの距離は6つの中のどれかに該当ターゲットボールの距離は6つの中のどれかに該当 / Credit: Robert Pepperell et al., PsyArXiv Preprints(2023)
 
その結果、参加者はどちらの表現でも画面内のボールの距離を「実際より遠い」と過大評価する傾向はありましたが、自然遠近法の方が線遠近法より距離を正しく推測できることが示されました。
 
また、その効果は視野(FOV)が広くなるほど大きくなっていました。
加えて、自然遠近法の画像のみを用いた訓練をしてみると、参加者は全体としてより正確な距離推定ができるようになったのです。
 
 
ペペレル氏はこの結果について「自然な遠近法の有効性は、実際の知覚条件下での物体の見え方に近いことに起因している」と指摘します。
 
氏は続けて、「このようにデジタル空間での遠近感を調整することで、ビデオゲームやCGI映画をより本物に近い没入感のあるものにできるでしょう」と述べました。
 
自然な遠近感の導入でゲームがよりリアルになる自然な遠近感の導入でゲームがよりリアルになる / Credit: canva
 
チームは現在、スタートアップ企業・Fovotecと協力して、デジタル画像を自然な遠近感に変換できるソフトウェアの商品化を進めているとのこと。
 
この取り組みが上手く行けば、ゲームで見える景色やカメラで撮影した写真などが、肉眼で見るのと同じ様に表現できるようになるでしょう。
 
FPSで遠くの敵の見づらさにイライラしていた人には快適なプレイが提供されるようになるかもしれません。
 
そして、感動した景色が写真ではしょぼくなってしまってがっかりしていた人たちは、目で感じた通りの感動的な光景を写真に残せる時代が来るかもしれません。


(以下略、続きはソースでご確認ください)

ナゾロジー 2023.03.01 
 
 
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死の間際の「走馬灯」、実在の可能性 脳波が示唆=カナダ研究

2025年02月18日 23時03分00秒 | 医学と生物学の研究のこと
死の間際の「走馬灯」、実在の可能性 脳波が示唆=カナダ研究

ホリー・ホンデリッチ、BBCニュース(ワシントン) 人は死ぬとき、実際に人生の走馬灯を見る――。



科学的な「アクシデント」によって得られたデータが、そんなことを示している。 カナダのある研究チームは2016年、87歳のてんかん患者の男性の脳波測定を試みた。ところが測定中、患者が心臓発作に見舞われ死亡。

2/24/2022

予期せず、人が死ぬときの脳の状態が記録された。 その記録には、死の前後の30秒間に、男性の脳波に夢を見ている時や、記憶を呼び起こしている時と同じパターンの動きが確認されたという。

 この研究チームは、こうした脳の動きが、人が最期の瞬間に「走馬灯」を見ることを示唆していると、22日に発表された論文で説明している。


 ■悪い記憶よりは 

共著者であるアジマル・ゼマール博士は、ヴァンクーヴァーを拠点にする研究チームが、偶然にも世界で初めて、人が死ぬ瞬間の脳の状態を記録したと語った。

 「全くの偶然だった。こうした実験をしようとか、信号を測定しようとは計画していなかった」 では、私たちは死ぬ間際に愛する人々との幸せな記憶を垣間見られるのだろうか? 

 ゼマール博士は、それは分からないと答えた。 「哲学的領域に踏み込むなら、脳がフラッシュバックを見せるなら悪い記憶より良い記憶だと推測するだろう。しかし何を覚えているかは人それぞれだ」

 ■結論は出せない 

ルイスヴィル大学の神経外科医を務めるゼマール博士は、この患者の心臓が脳に血液を送らなくなるまでの30秒間、脳波は集中したり、夢を見たり、記憶を呼び起こしたりするといった高度な認識作業を行っている時と同じパターンだったと述べた。 

さらにこの脳波は、一般的に死亡が確認される心停止から30秒間続いたという。 

「ここで人生の経験を思い起こしている可能性がある。死ぬ直前の数秒間に脳が再生している」 論文ではまた、命がなくなるのは心臓が止まった時なのか、脳が機能しなくなった時なのかという疑問も投げかけている。

 ゼマール博士と研究チームは、このひとつの研究だけで広範囲の結論は出せないと慎重な姿勢を取っている。患者はてんかん症で、脳に出血と腫れがあったため、状況は複雑だった。 

「1つの症例だけを報告することを、こころよく思っていない」とゼマール博士は語った。2016年にこの脳波を記録して以降、分析を強化するために似たようなケースを探したが、成功しなかったという。

 ■ネズミの実験でも 

しかし、2013年に健康なネズミを使って行われた実験が、ヒントを与えてくれるかもしれない。 アメリカで行われたこの実験では、ゼマール博士のてんかん症患者と同じく、ネズミの心臓が止まってから30秒間、強い脳波が観測された。 この類似性は「驚くべきものだ」とゼマール博士は述べた。


 研究チームは、人間についてのたった1つの症例が、命が終わる瞬間をめぐるほかの研究の扉を開いてくれるかもしれないと期待している。 ゼマール博士は、「死の間際の経験には、何か神秘的で精神的な要素があるが、こうした発見こそ、科学者が追い求めているものだ」と述べた。 

(英語記事 Life may actually flash before our eyes on death)
(c) BBC News


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老化を防ぐ『治療』の開発が進んでいる>実用化されれば、老いのない社会が実現するかもしれない

2025年02月17日 00時01分20秒 | 医学と生物学の研究のこと

老化とがんは関係しているのか」東大教授の最新研究で分かってきた"老いの正体"

>■老化細胞にはがんを防ぐ機能もある 

12/30/2021

老化を防ぐ治療薬の開発が進んでいる。東京大学医科学研究所の中西真教授は「老化の原因となる『老化細胞』のメカニズムを解明し、老化細胞を除去するための薬の開発に成功した。この薬が一般に向けて実用化されれば、老いのない社会が実現するかもしれない」という――。(第1回/全2回) 

【この記事の画像を見る】  ※本稿は、中西真『老化は治療できる! 』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。 


■老化の原因を特定することに成功  私たち、東京大学医科学研究所などの研究チームは2021年1月15日、アメリカの科学誌『サイエンス』に次のような論文を発表しました。 


---------- 
〈老齢のマウスに、GLS-1という酵素の働きを阻害する薬剤を投与したところ、老化細胞の多くが除去され、老年病や老化が改善した〉 
----------  

私たちは、「老い」の原因となる「老化細胞」が生存するメカニズムを読み解き、そこから「老化細胞」を選択的に除去するための薬を導き出しました。今、私たちは、この薬の実用化に向けた研究を進めています。この薬が広く一般に向けて実用化されれば、「老化」を防いだり改善して、老いずに歳を重ねるということができる社会が到来するかもしれません。 


 本稿では、「老化細胞」とは何か、私たちが発見した老化細胞の生存に必要なGLS-1とは何か、そしてなぜGLS-1阻害薬を投与すると老化細胞を殺すことができるのか、そして、そもそも「老化」するとは何なのか、ということを一つひとつ説明していきたいと思います。

 ■身体に残った「老化細胞」がさまざまな疾患を引き起こす  まず、人間の肉体というのも、最初は受精卵ひとつから始まるのは、みなさんご存じのとおりです。それがどんどん細胞分裂していって成長し、内臓なり筋肉なり骨なりをつくっていきます。  

人間の体は60兆個もの細胞によってつくられています。細胞のなかには、不老不死に近い幹細胞というものもあります。たとえば、血液系であれば、赤血球や白血球、血小板やリンパ球などの血液系細胞の大元になる「幹細胞」というものがあります。この幹細胞の数はそれほど多くありません。  

多くの細胞は、そこから分化して分裂していったもので、この細胞は不老不死ではありません。人間であれば、50~60回ほど分裂したら、もうそれ以上は分裂できなくなります。こうして、完全に活動を停止してしまった細胞が「老化細胞」になってしまうのです。つまり、全身にある60兆個の細胞のうち、一部の幹細胞を除いた多くは、いずれ老化細胞になっていくということです。  

これらの老化細胞は、本来であれば免疫細胞であるマクロファージ(白血球の一種)などが食べて除去してくれるのですが、生き延びた老化細胞が残ってしまい、体内のあちこちに蓄積されていきます。それらの老化細胞が炎症物質を誘発して、臓器や皮膚などにさまざまな炎症を起こしていきます。それが内臓疾患やシワなど、いわゆる加齢が原因のさまざまな疾患や症状として現れてくるのです。


<中略>

■老化細胞にはがんを防ぐ機能もある 

<中略>

老化だけでなくがんリスクも高めると聞くと、心中穏やかではいられないという方も多いと思います。とはいえ、人間の体というのは非常に複雑なプログラムで成り立っており、老化細胞には完全にマイナスの面しかないかというと、そうとも言い切れないのです。 

 というのも、老化細胞は、異常な増殖を繰り返すがん細胞を、その周囲の細胞とともに老化させて、増殖を抑え込むという役割も果たしているからです。繰り返しになりますが、老化細胞はもう細胞分裂しません。増殖しない細胞です。がん細胞を老化させることによって、その異常増殖を防ぐ、つまりがんを防ぐことが老化細胞のプログラムのひとつであると考えられるのです。

<中略>

■老化細胞を適切に除去できれば、老化の進行は止められる

<中略>

細胞の遺伝子の異常が生じてがん化したとしても、細胞をも老化させることで自身の異常増殖を防ぐ。考えてみれば、よくできた人間の防御プロセスだといえるでしょう。あとは、老化細胞を適切に除去し、新しく健康な細胞が増えていけば、老化の進行は止められるというわけです。

 ---------- 
中西 真(なかにし・まこと
 東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授 名古屋市立大学医学部医学科卒業、名古屋市立大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。自治医科大学医学部助手、米国ベイラー医科大学留学、名古屋市立大学大学院医学研究科基礎医科学講座細胞生物学分野教授を経て、2016年4月より現職。 
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【コロナ後遺症】謎を解く鍵?スパイクタンパク質が引き金の「毛細血管を詰まらせる微小血栓」分析研究中で治療法はまだ先

2025年02月16日 01時03分26秒 | 医学と生物学の研究のこと
【コロナ後遺症】謎を解く鍵?スパイクタンパク質が引き金の「毛細血管を詰まらせる微小血栓」分析研究中で治療法はまだ先

コロナ後遺症の謎を解く鍵? 「毛細血管を詰まらせる微小血栓」 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp) 


コロナ後遺症の謎を解く鍵? 「毛細血管を詰まらせる微小血栓」
ウイルスのスパイクタンパク質が引き金に、通常より壊れにくい血栓

2023.01.31


走査型電子顕微鏡(SEM)による血栓の拡大画像。繊維状のタンパク質によってできた網に、血小板(青紫)という小さな細胞片と赤血球が引っかかってできている。毛細血管にできるものは微小血栓と呼ばれる。(MICROGRAPH BY ANNE WESTON/EM STP, THE FRANCIS CRICK INSTITUTE, SCIENCE PHOTO LIBRARY)


 新型コロナウイルス感染症から回復した後も、多くの人が悩まされるコロナ後遺症(罹患後症状)。その仕組みを解明する研究が2年以上にわたって行われてきたなかで提唱された仮説の一つに「微小血栓」がある。微小血栓ができて毛細血管がふさがれると、血液や酸素の流れに影響が生じ、様々な症状につながるという説だ。

 新型コロナ後遺症と微小血栓が関連している可能性を最初に指摘したのは、南アフリカ、ステレンボッシュ大学の生理学者イセレシア・プレトリウス氏のチームだった。その後、氏らが2021年8月に学術誌「Bioscience Reports」に発表した研究で、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質が微小血栓の形成を誘発することと、こうした微小血栓は、人体に備わった血栓を溶かす仕組みでは壊れにくいことが示された。

 この研究に基づき、新型コロナ後遺症に苦しむ人の微小血栓を調べる試みが米国で行われている。自らも後遺症の患者である研究者たちが行う共同研究「Patient-Led Research Collaborative」の設立に携わったリサ・マコーケル氏も、2021年の研究について知ったときは興奮を覚えた。

 マコーケル氏は、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が始まって間もない2020年3月に感染し、軽い症状が出た。しかし、その後数カ月にわたり、激しい息切れ、極度の疲労、ブレインフォグ(頭の中に霧がかかったようにぼんやりした状態)に悩まされた。同年8月には症状が改善し始めたが、フィットネスのクラスに参加した翌日、心拍数が急上昇して呼吸が苦しくなり、救急治療室に駆け込んだ。「かなり基礎体力が落ちました。コロナ以前はハーフマラソンを完走できたので、劇的な低下です」

 当時28歳だったマコーケル氏はやがて、自分の症状が一時的ではないことを認識するようになる。2021年末には、「体位性頻脈症候群(POTS)」と診断された。立ち上がるときに呼吸の乱れや動悸、めまいが起きる病気で、複数の新型コロナ後遺症患者での症例が記録されている。POTSには治療法がなく、水分や塩分の摂取量を増やして対処する患者もいる。診断から1年が経過した今も、マコーケル氏の症状は運動後の倦怠感と、それによる症状の悪化に悩まされている。

 もどかしかったのは、一般的な血液検査などを受けても、正常という結果しか出なかったことだ。そこで2022年11月、米国カリフォルニア州からニューヨーク州に飛び、新型コロナ後遺症からの回復について研究している米マウントサイナイ・ヘルスシステムのデビッド・プトリーノ氏を訪ね、血液サンプルを採取して微小血栓を探してもらった。プトリーノ氏は「まだ初期段階で、数十人しか検査できていません」と言うが、微小血栓はマコーケル氏を含む全員から見つかっている。




健康な血液中の微小血栓(左)と、新型コロナ後遺症患者の微小血栓(右)の蛍光顕微鏡画像。新型コロナ後遺症患者にみられる血栓は、血栓が自然に除去される「線維素(フィブリン)溶解」の働きを受けにくく、簡単には壊れない。(MICROGRAPH BY CHANTELLE VENTER AND RESIA PRETORIUS)


 マコーケル氏は、顕微鏡画像で微小血栓を表す蛍光グリーンの塊を見たとき、初めて病気の証拠が得られたと感じ、安堵の涙を流したという。「PCR検査を受けられなかったことに始まり、ここ数年はずっと、悪いところはないと言われ続けてきたのです」

 ただし、微小血栓仮説は妥当と思われるとしながらも、新型コロナ後遺症の謎を解くピースの1つにすぎないと考える専門家もいる。だが、そういった専門家も、微小血栓が後遺症の症状に与える影響や、血栓を取り除くことで症状を改善できるかどうかについて、今後の研究で明らかになることを期待している。

以下はリンクで







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