安倍晋三・元首相の国葬について国民からの反対意見が高まっても、自民党内からは疑問の声が上がらない。そんななか、最重鎮のひとり、山崎拓・元自民党副総裁が、政権に警鐘を鳴らす。
8/29/2022
【図解】シミュレーションされた安倍元首相の国葬費用「約33億円」の内訳。他、安倍洋子さんや昭恵さんらとワイングラスの棚の前に並ぶ安倍氏ら、桜を見る会なども
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今回の国葬決定をめぐっては、岸田文雄・総理の判断が先走りしすぎたという印象を持っています。かつて佐藤栄作・総理が吉田茂・元総理の国葬を決めた時は、全国民からの支持が得られるようなさまざまな努力、根回しがなされました。
国家の政治構造は三権分立であり、国権の最高機関は国会です。やはり、国葬については国会に諮るべきだったと思います。衆参の両議長を通じて議運(議院運営委員会)にかけ、野党の反対意見にも耳を傾けたうえで決定すればよかったと思う。
しかし、今回は残念ながらそうした段階を踏まず、総理がパッと決めてしまった。記者会見で発表し、事後的に閣議決定をしたわけです。
なぜそんなに急がなければならなかったのか。盟友の安倍さんが亡くなったことへの想い、自らが葬儀委員長を務めるという意志が強かったのでしょう。亡くなった直後は国民から悼む声が多く、国葬についても理解を得られると思ったのかもしれません。
しかし、現実には統一教会問題への批判、新型コロナの感染拡大もあり、国葬への反対意見は日増しに増えています。
戦後の総理経験者では唯一の例である吉田さんには特別な、国葬に値する功績がありました。それは独立の回復です。昭和27年の4月28日、私が高等学校に入った年ですよ。小学校3年から中学校3年までは占領下にあった。独立を回復したという、日本人にとってそれ以上の功績はありません。
吉田さんの愛弟子であり国葬を取り仕切った佐藤栄作さんは、独立後も20年間、残されていた沖縄返還を成し遂げましたが、その佐藤さんですら国葬ではなく国民葬でした。
それ以来、我が師である中曽根(康弘)さんは内閣・自民党合同葬ですし、国葬の例はありません。果たして安倍さんに国葬に値する政治的功績があるのか。まずは国葬についての基準を議論すべきでした。
だが、いったん決めてしまった以上は、もうどうにもならない。国際社会に向けて案内状も出してしまっており、万障繰り合わせて、世界中からVIPが来るのですから。
やれば大きな批判を受けますが、やらなければより大きな政治問題になり、引責辞任しかない。岸田さんは後戻りのしようがありません。その判断はあまりに拙速でした。
統一教会を見くびっていた
岸田さんは非常に温厚な人柄で、ソツがなくて、失言もしない。そして国政を丁寧に進め、記者会見も頻繁にやることで、安定感を得てきました。ところが、国葬の決定は拙速さが問題となり、岸田さんのイメージを明らかに損なっています。
それから、内閣改造も拙速でした。理由はわからないが前倒しで改造をした後、統一教会の問題が次々と出てくる。国民からすれば、なぜしっかり調べてからにしないのかと、疑問に思うのは当然です。
統一教会については、私自身、彼らの力について見くびっていた部分がある。しかし、先の参院選で、自民党公認候補が“賛同会員”として統一教会票を得て当選した。これにはびっくりしました。統一教会が応援したとされる他の議員も、かなりいい戦いをした。小選挙区で数%の得票差が勝敗を決するなか、統一教会に頼りたくなる議員はいるでしょう。
しかし、ここまでくれば教会の活動を規制するところまで踏み込まないと、問題は収束しません。もはや自民党の各議員が関係を見直すという段階ではない。
河野太郎さんが霊感商法に関する検討会の設置を表明しましたが、なんらかの規制をしなければ、また名称を変更して同じことが繰り返されるだけです。活動の規制に関しては公明党や自民党内からも大きな反発が上がるでしょうが、そこは河野さんの真価が問われる。
ただし、そこで成果を挙げたとしても、岸田政権としてはしばらくは厳しい政権運営を強いられるでしょう。
【プロフィール】 山崎拓(やまさき・たく)/1936年生まれ。1972年初当選。自民党幹事長、党副総裁、防衛庁長官や建設大臣などを歴任。
※週刊ポスト2022年9月9日号