沈没以来、初めて海上に姿を見せた「KAZUⅠ」の船体…これまでの潜水士や水中カメラによる調査で、船底に3か所の“穴”が開いていることなどがわかっています。
本格的な原因究明を前に、あらためて、元船長、当日の出航を手伝った元甲板員らの証言で、出航判断、船体のメンテナンスなどの実態を振り返ります。 そこには、いくつもの、見逃されていた危険な“シグナル”がありました。
5・27・2022
【元船長】 2016年から5年間、沈没した「KAZUⅠ」の船長で、船長の間は無事故だったが、桂田社長の体制になった後の去年3月、契約を打ち切られる。
【元甲板員】 事故当日、港で「KAZUⅠ」の出航を手伝う。前日も旧知の豊田徳幸船長と接触、会話。救助要請時、運航会社「知床遊覧船」の事務所に。
【事故当日「KAZUⅢ」の臨時船長】 依頼を受け、事故当日、同時刻に1時間半の短時間(「KAZUⅠ」は3時間)のコースに「KAZUⅢ」を出航させる。
【船長の求人を断った遊漁船の男性】 今もオホーツク海の遊漁船の船長で、ちょうど1年前、陸揚げされていた「KAZUⅠ」の船体を目の当たりにするなどし、求人を断る。
◆出航判断
事故当日の出航判断について、元船長、元甲板員、臨時船長の3人とも「豊田船長の判断だったのでは」と話します。
しかし、これは、豊田船長が主体的に強行したのではなく、運航管理者である桂田社長は船と海については“素人”で、他社が出航のときに「なんで、出さないんだ」と叱責したことはあっても、基本的にふだんの判断は船長に“丸投げ”。 あの日も「出航ありき」で、元甲板員と臨時船長は、社長と船長が話し合う様子などは「全く見ていない」と証言しています。
ほぼ同時刻に出航した「KAZUⅠとⅢ」(4月23日午前10時ごろ)
【元船長】 「やっぱりか、です。やっぱり、やったかと。長い間、勤めていたけど、去年3月で契約を解除された。人が総入れ替えになって、今は教える人間がいない」 「豊田さんは半年、甲板員をやって、すぐ船長をやった。(自分は)教えられるほど、教えていない」 「(その日の出航を決めるのは)船長の権限。いい波か、悪い波か、判断できないうちは、船長をやるべきじゃない」 「社長は、船のことも、海のことも知らない」
【元甲板員】 「(当日の)朝、何時だったかな…8時だか9時だか決めて、8時だったかな。事務所に行ったんだけど(豊田さん)まだ、来てないって」 「逃げたんじゃないのか?って言ったんだよ、オレ。もう、嫌で(旅館の仕事など)たくさん任されてさ。多分、あの人の中では、頭パンパンだったと思うんだ。パニくってたことは間違いない」 「私はお客さん案内しながら、豊田さんに声かけてるの、これから時化るからなって」 「同業者も23日、ダメだぞって(声をかけてる)。
でも、本人もたくさんいろいろやることあって、もう、頭に入ってなかったかもしれない」 「社長は、海は、まるっきりの素人で、全くわかんないからね。豊田さんが決めなきゃならないのね。海のことはね。それは、はっきり言って(社長には)無理なんだ」
桂田社長は記者会見で、天候が悪化したら途中で引き返す“条件付き運航”だったと説明しましたが、港にいた元甲板員も臨時船長も、そんな話は全く耳にしていないといいます。
【元甲板員】 「今までの古いメンバーでやってても、出たと思う」 「でも(天候が)悪くなるのわかってるから、どこか途中で、私の感じでは、ルシャってところ、真ん中くらいで帰ってくるのが妥当だね」 「帰りは大変だよ、途中から」 「それは、豊田さんのキャリアが浅いからできないのね。なんぼ操作が上手くても」 「船に乗ってても、この海ではないところで乗ってたから」 「ホント、速いときは、3分で海の状態、変わるときあるから」
【臨時船長】 「当日、午後2時出航の便もあったんですよ。その便は、時間帯的に完全に波が出る時間なので(豊田船長に)『無理だよね』という話を朝したところ、反応が薄かったので『ああ、天気予報ちゃんと確認していないのかな』という印象を受けました」 「去年も1シーズンだけですけど、操縦してましたから。自信があったんでしょうかね」 「(社長との出航判断などのやりとりは?)ないですね」 「(社長は)船の運航に関しては人任せというか、知識はないですから。人任せ」
◆船体のメンテナンスや安全管理 今のところ事故原因との関連はわかりませんが、関係者によりますと、水中カメラや潜水士による調査で、船体左側の船底に3か所の“穴”が開いていることが確認されているということです。
【求人を断った遊漁船の船長】 「先端あたりですね。古い船ということもありますが、船底を見るとボコボコしているし、FRPで補修した跡や、ペンキを塗り直しているけど、わかるような傷がありましたね」 「(補修を)素人がやっているぶんについては、いつ壊れてもおかしくないかなと」 遊漁船の船長は、本気で転職を考え、給与や休日についても桂田社長と話し合っていました。しかし、これは無理だと判断する決定的な実態がわかりました。
【求人を断った遊漁船の船長】 「バッテリーがダメになって新しくしたから、オートビルジーという海水をくみ上げるスイッチを切っていたという話を聞いた」 「KAZUⅠ」は数年前、エンジンがかからなくなり、発電装置やバッテリーを更新しました。そのバッテリーの消耗を防ぐため、本来は24時間スイッチを入れておく必要がある、船の底に溜まった海水を外に排出する自動ポンプ=オートビルジーの電源を切っていたということです。
【求人を断った遊漁船の船長】 「バッテリーは減ると、寿命が短くなってしまう。新品に替えたから、なるべく傷めたくなかったのかなと」 「(オートビルジーを切っていたので)相当、船の下に“アカ”あったんじゃないかと」 ※“アカ”=船底に入り、溜まった水のこと 「この“アカ”のせいで、要は水にエンジンが海水に浸かり、エンジンが停止した。すぐ沈んだんじゃないかと」
「(豊田船長は)オートビルジーがあること自体、よくわかってないぐらいの人だったんじゃないかな。海水が船底に溜まるような船は、普通は考えられないので、水が入ることすら知ってなかったのかもしれないですね」
【元船長】 「去年6月に事故を起こしていて、船を揚げて修理している状態を見たけど、船にある亜鉛版をおととしのまま変えていなかった。これは毎年変えるもの」 ※亜鉛板は、船体の腐食を防ぐために貼り付けるもので、船体の代わりに亜鉛板が腐食してくれる役割 「僕がいたときは、事務所に長く勤めていた人がいたから、手直しもできていたし、手に負えなければ、業者がやっていたけど、今見ている感じだと何もしていない」
【臨時船長】 「去年、2回事故あって、船底を傷つけていまして、2回目の事故の時に当局から『修理しないと運航許可を出さない』という話を聞いてまして、それで去年船を修理しているはずなんですよね」 「去年の1人目の事故を起こした船長が自ら修理を始めて、当局から『ちゃんとプロの業者に頼まないとダメだ』と言われたような気がします」「そのあと業者が来たのかは知らないです」
【元甲板員】 「エンジンの調子が悪かったとは聞いていない。船底の傷、ひび割れは毎年あって、中に入った水を抜いていた」 「毎年、修理していたが、今年は間に合わず(事故当日)修理せずに出航していた」 「豊田船長には『今季は間に合わないから、来季、船を陸に揚げたら修理しろ』と言った」 「毎年、水は溜まっていても、動いていた」
船底の傷、ひび割れを修理しないままの初出航…
さらに、桂田社長が記者会見で「事故の前日、豊田船長が『KAZUⅠ』で同じコースに出航、安全確認していた」と説明していたのに対し、元従業員は「豊田船長は他社の船で確認に出ていて、前日『KAZUⅠ』はコースに出ていない」と証言。
他社に先駆けての単独の初出航が、いわば“ぶっつけ本番”だったなんて…元従業員は「安全管理の意識なんてなかった」と厳しく指摘しています。
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