>PTSD・うつ病・依存症などに効果
これは、従来の治療ではなかなか治りませんから、
いよいよ現実味を帯びてきた「幻覚剤療法」、幻覚に対応できる専門家の育成が急務に、米国
2023/05/10(水) 21:32:41.
いよいよ現実味を帯びてきた「幻覚剤療法」、幻覚に対応できる専門家の育成が急務に、米国
■PTSD・うつ病・依存症などに効果、米国オレゴン州では承認間近、米FDAも2023年中に評価か
長年うつ病に苦しんでいるレネ・セントクレアさんは数年前、幻覚作用を持つ薬物ケタミンを用いた治療の最中、自分の脳が体から切り離されて浮かび上がり、部屋の向こうに移動してゆく光景を見て恐怖に襲われた。
「ゾッとするほど恐ろしかったです。もう脳は戻ってこないのではないかと思いました」。米カリフォルニア州サンディエゴに住む弁護士で、51歳のセントクレアさんはそのときの状況を振り返る。彼女の治療に付き添っていた看護師の要請により、精神科医がすぐに駆けつけて、優しく言葉をかけながらセントクレアさんの手をしっかりと握った。医師の存在によって落ち着きを取り戻した彼女は、薬が体から抜けて幻覚が消えるまでの40分間を心穏やかに過ごすことができた。
強力な幻覚剤を投与するための、十分な訓練を受けた専門家の育成が今や急務となっている。米オレゴン州でシロシビン(マジックマッシュルームの有効成分)を使ったメンタルヘルスの治療がまもなく承認されるのに加え、米国食品医薬品局(FDA)は2023年後半、同局として初めて幻覚剤、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA、別名エクスタシー)について、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療薬としての評価を行うと予想されている。
幻覚剤がいずれ主流医療に組み込まれる日が来るかもしれないという予想のもと、米カリフォルニア統合学研究所(大学)は7年前、米国内で初めて幻覚剤支援療法の研修プログラムを提供するようになったのだと、同大学の幻覚剤療法・研究センターの責任者ジャニス・フェルプス氏は言う。
近年では、多くの機関がこれに続いている。サイコセラピスト(心理療法士)、看護師、医師、聖職者など、主にメンタルヘルスや宗教にかかわる職業に就く人々が、幻覚剤分子の化学的性質、安全上の懸念、先住民による使用の歴史、そして何より、6時間以上効果が持続するこうした薬物によってもたらされる独特の精神状態について学んでいる。ただし、現在のところ幻覚剤は違法であるため、どのプログラムでも研修生自身がその効果を体験することはできない。
こうした講座への需要は急増している一方で、全国的な基準は存在せず、各教育機関が独自のカリキュラムを作成しているため、おそらくは十分な力量のないまま研修を終える人もいるだろうとの懸念もある。
わかりはじめた幻覚剤の確かな効果
なぜ今、MDMAがPTSDの有望な治療法として注目されているのだろうか。この強力な薬物は、恥や怒りといった、治癒の妨げになり得る感情を誘発することなく、脳がトラウマ的な記憶に向き合うことを可能にすると考えられている。
米非営利団体「幻覚剤学際研究学会(MAPS)」による最新の大規模臨床試験の予備的な結果では、MDMAを2~3回服用することにより、PTSDの症状が軽くなる、または取り除かれることが確認されている。最も注目すべきは、その効果が6~12カ月間持続したことだ。
また、2021年に学術誌「Nature Medicine」に掲載されたMAPSによる初の第3相臨床試験の論文においても、肯定的な結果が得られている。80~180ミリグラムのMDMAの投与を3回、準備セッションを3回、投薬後セッションを9回行ったところ、試験参加者の3分の2においてPTSDの症状が見られなくなったのだ。
現在、世界中の研究機関によって、うつ病、不安障害、依存症、また終末期疾患の診断による恐怖など、さまざまな精神的な問題に対する幻覚剤の有望さが明らかにされつつある。
こうした結果に触発されて、米ワシントン大学医学部の医師アンソニー・バック氏は2020年、カリフォルニア統合学研究所の研修を受けることを決めた。60歳のバック氏は、1980年代という反薬物が盛んに叫ばれていた時代に育ったため、若いころは幻覚剤を治療に使おうとは考えなかった。しかし、科学的な研究結果を見て、「ここには非常に重要なものがある」と確信したのだという。
緩和ケア医であるバック氏にとって、第一の目的はがん患者の痛みの軽減だ。しかしこれまでのところ、人生が終わりに近づくという「恐怖に対処する良い方法を、われわれは見つけることができずにいるのです」と氏は言う。
実際にはどのように投与するのか
研修プログラムはさまざまな機関によって提供されている。期間は半年から1年、費用は数千ドル程度のものが多い。大半のプログラムにおいて強調されるのは、薬剤を投与する前にセッションを複数回行い、患者が幻覚剤による治療経験から何を得ることを望んでいるのか、また実際にはどんな効果が予想されるのかを話し合う大切さだ。
研修生はまた、幻覚剤を投与するセッションを監督する方法も学ぶ。
「幻覚剤の体験は非常に内面的なものです」とフェルプス氏は言う。そのため、セラピストは、安心感を回復するために必要な場合を除き、自ら介入しないよう教えられる。
幻覚剤支援療法を行うことは、従来のメンタルヘルスの治療法に慣れている専門家にとって、それまでとは大きく異なる体験だと、米ジョンズ・ホプキンス大学の精神科医で、同大学や米エール大学、米ニューヨーク大学の精神科の学生を対象とした試験的カリキュラムに取り組んでいるビット・ヤーデン氏は言う。「従来の手順は、医師が抗うつ剤を処方したら、患者は処方箋を受け取り、医師が1カ月後に経過を尋ねるといったものです」
一方、幻覚剤の場合は、直接の投薬とその後のトークセラピーが必須となる。幻覚剤を使うセッションの長さは1回何時間にも及び、その間はセラピストが付き添わなければならない。
研修生はまた、「統合」と呼ばれるプロセスに対する支援の方法も教わる。このプロセスを通して、患者は幻覚剤の体験から得られた洞察や感情を日常生活に取り入れてゆく。ここでもまた、従来の方法に慣れているセラピストは新たな領域に踏み込むことになる。「シロシビンの臨床実験においては、神秘的な体験をしたという報告が参加者から上がっています。そうした体験について話をすることも、従来の心理療法的な枠組みに当てはまりません」とヤーデン氏は言う。
(以下略、続きはソースでご確認ください)
ナショナル ジオグラフィック日本版 5/10(水) 17:05