和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

僕たちの文化祭(1)

2015-12-21 17:12:40 | 小説――「僕たちの文化祭」
もうすぐ文化祭。

・・・とは言っても。
「ねえ敷島くん」
乾さんがそう僕に声をかける。
「なに?」
「文化祭、本当に何もしなくていいのかな?」
「・・・いいんじゃねえの?」
僕はいつも通り、我ながら愛想のないトーンで答えた。

部長である僕がそう言うのなら、と乾さんは納得したようだった。
――そもそも、将棋部は文化祭で何かするものなのか。
顧問の先生からは、一応何かやれと言われていた。
なので形だけ、毎年恒例、将棋の歴史の読み物を展示することにした。
将棋の起源はどこなのかとか、将棋部員でさえどうでもいい内容だ。

そんなわけで。
文化祭も近いのに、僕らはのんびり将棋を指している。
ちなみに、乾さんはガチで強い。
僕はまあ、駒の動かし方しか知らない人よりは強いくらい。

「ところで乾さん」
「んー? 待ったはナシね」
「そうじゃなくて」
僕は、ちょっとだけ気になっている疑問をぶつけることにした。

「文化祭で自殺するって、マジ?」

「あー、マジマジ。旧校舎の屋上からI can fly」
「いや、飛べねーとは思うけど」
僕は苦笑しながらそう言った。

乾さんは、忙しい人だ。
彼氏がおかしな人だったり。
両親が今年に入って急に離婚したり。
変に成績がいいからちょっと無理めの大学を受験させられたり。

「何だかもう、疲れちゃって」
と、乾さんは笑った。

きっと、この人は笑いながら飛び降りるのだろう。
何の躊躇も未練も恐怖もなく。
何だかんだ、乾さん自身が一番変な人なのだ。

「そんなわけで、あとはよろしくね、部長」
「・・・乾さんがいなくなると、将棋部は僕一人になるんだけど」
部員、2名。
部長と副部長の将棋部だ。
副部長がいなくなると、部長が一人だけの部活になる。
何だそれ。部活って言えるのか?
「そこはほら、新入部員を何とか捕まえてさー」
無理だ。
無理だったからこその現状だ。
春、新入生狙いのオリエンテーションを経ても変わらず。
掲示板に部員募集のチラシを貼っても変わらず。
そのまま秋になった。
そしてそのまま、僕ら3年生は卒業するのだろう。

何の事はない。
乾さんが飛んでも、将棋部の寿命は大差ないのだ。
だったらもう、何も考えず彼女を見送るしかない。
その後は、あれだ。
一人、新聞の詰将棋でも解きながら卒業を待つさ。

パチン、パチンと、無言の部室に駒の音が響く。
僕は多分、この音が好きで将棋をやっているのだ。

「寂しくなる?」
乾さんは問いかけた。
「まさか」
僕は即座に否定する。
「そうよね、君って、そういう奴よね」
・・・何だか、心外なことを言われた気がする。
まあいいか。

さあ、文化祭が始まる――。
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開始。

2015-12-21 17:10:24 | いつもの日記。
色々ありましたが、「僕たちの文化祭」完成しました。
本日から1話ずつアップしていきたいと思います。

毎日1話くらいのペースを考えてるけど、早いかな?
2、3日に1話くらいの方がいい?

ま、取り敢えず何となく1日1話くらいで。

書き上げるのに半年かかりました。
その間、
「考えすぎて何が面白いのか分からなくなってくる」
という作家あるあるにも見舞われず、無事書き切ることができましたよ。
やっぱり文化祭パワーは凄い。

というわけで、1話公開です。
よろしくお願いします。
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