「さあ、文化祭当日です」
僕は委員のメンバーに向けてそう宣言する。
文化祭実行委員の面々は、どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。
その場が楽しければいい。
ノリで行動する。
善悪の判断が曖昧。
これが本当に学内から集められた代表者なのかと不思議に思う。
だから僕は、無駄かもしれないと考えつつも、祈るようにこう言うしかない。
「つつがなく、文化祭を行っていけますよう、みなさんご尽力下さい」
何がご尽力だ。どうせこいつらは三歩歩けば物事を忘れる。
あとに残るのは問題ばかりだ。
そして、その問題の責任は全て委員長たる僕のもとにやってくるに違いない。
準備の時点でそうだった。
本番となれば尚更だろう。
この学校には問題が多すぎる。
闇が――多すぎる。
文化祭という特殊なシチュエーションで、それが噴出しないわけがない。
学生たちのお祭り騒ぎに、学外の人間まで入り混じってくるのだ。
これはもう、絶対に何かが起こる。
もしくは、何かが、バレる。
闇が、明らかになる。
そんな、従来からの問題点を、文化祭実行委員に背負わされてはたまらない。
そういうのは学校職員の責任であるべきだ。
しかし、そうはいくまい。
文化祭中に何か問題が起これば、それは全て実行委員へと振りかかる。
トカゲのしっぽは切られるために存在していると言っていい。
だったら。
何としても、問題を起こさせてはいけない。
否。
問題を露見させてはいけないのだ。
そう考えた時、文化祭本番で委員がなすべきことは見えてくる。
月並みだが、見回りの強化と問題処理の対応強化だ。
問題の処理については、ブレーンが行う必要が出てくる。
つまり委員長である僕はこの本部から動けないということだ。
そうなれば、残る見回りの強化――だが。
「丘先輩」
僕は、委員の中から一人の三年生を指名する。
「はい」
丘裕也。
特に問題行動を起こさないと見られる真面目な生徒。
しかも卒業・進学を控えた三年生だ。
僕の思うところは十分に汲んでくれるだろう。
「先輩には、今日の見回りの指揮を執って頂きたいと思います」
「承知しました」
見回り部隊は彼に任せる――責任を押し付ける。
「加藤をサブリーダーとして指名したいのですが、構いませんか?」
丘先輩はそんな進言をしてきた。
「もちろん、構いません」
そちらで仲良くやってくれる分には、一向に問題ない。
丘先輩と加藤先輩は親しい間柄と見受けられる。
コミュニケーションも図りやすいだろうし、こっちからお願いしたいくらいだ。
そんな二人を先頭に、約10名が見回り部隊として動いてもらう。
そして約5名が本部における問題処理だ。
両部隊間で、必要に応じて適宜1~2名をスワップしながら文化祭本番に当たる。
そんな最終打ち合わせをして、事前会議は解散した。
この後全校集会が行われ、それが終わればついに文化祭本番となる。
ああ、厭だ。
楽しいことなどひとつもない。
何が祭だ。文化祭だ。
この学校において、そんな平和なイベントが平和なまま終わるわけがないじゃないか。
つまり実行委員は、この僕は、学校のためのスケープゴートに過ぎないのだ。
何かがあれば全てこいつが責任を取りますよ、というポジション。
それでいて、完全な仕事をしてもそれで当然という評価。
内申書に好影響があったりするわけでもない。
やってられるか。
それでもやらねば。
一度任命されてしまった以上、もはや逃げ道はない。
最後まで事を荒立てずにやり切る。
それだけだ。
ひとつ、大きく息を吐く。
せめて文化祭の間は、何も起きませんように。
無駄に近い祈りを捧げ、僕は委員会本部を後にした。
僕は委員のメンバーに向けてそう宣言する。
文化祭実行委員の面々は、どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。
その場が楽しければいい。
ノリで行動する。
善悪の判断が曖昧。
これが本当に学内から集められた代表者なのかと不思議に思う。
だから僕は、無駄かもしれないと考えつつも、祈るようにこう言うしかない。
「つつがなく、文化祭を行っていけますよう、みなさんご尽力下さい」
何がご尽力だ。どうせこいつらは三歩歩けば物事を忘れる。
あとに残るのは問題ばかりだ。
そして、その問題の責任は全て委員長たる僕のもとにやってくるに違いない。
準備の時点でそうだった。
本番となれば尚更だろう。
この学校には問題が多すぎる。
闇が――多すぎる。
文化祭という特殊なシチュエーションで、それが噴出しないわけがない。
学生たちのお祭り騒ぎに、学外の人間まで入り混じってくるのだ。
これはもう、絶対に何かが起こる。
もしくは、何かが、バレる。
闇が、明らかになる。
そんな、従来からの問題点を、文化祭実行委員に背負わされてはたまらない。
そういうのは学校職員の責任であるべきだ。
しかし、そうはいくまい。
文化祭中に何か問題が起これば、それは全て実行委員へと振りかかる。
トカゲのしっぽは切られるために存在していると言っていい。
だったら。
何としても、問題を起こさせてはいけない。
否。
問題を露見させてはいけないのだ。
そう考えた時、文化祭本番で委員がなすべきことは見えてくる。
月並みだが、見回りの強化と問題処理の対応強化だ。
問題の処理については、ブレーンが行う必要が出てくる。
つまり委員長である僕はこの本部から動けないということだ。
そうなれば、残る見回りの強化――だが。
「丘先輩」
僕は、委員の中から一人の三年生を指名する。
「はい」
丘裕也。
特に問題行動を起こさないと見られる真面目な生徒。
しかも卒業・進学を控えた三年生だ。
僕の思うところは十分に汲んでくれるだろう。
「先輩には、今日の見回りの指揮を執って頂きたいと思います」
「承知しました」
見回り部隊は彼に任せる――責任を押し付ける。
「加藤をサブリーダーとして指名したいのですが、構いませんか?」
丘先輩はそんな進言をしてきた。
「もちろん、構いません」
そちらで仲良くやってくれる分には、一向に問題ない。
丘先輩と加藤先輩は親しい間柄と見受けられる。
コミュニケーションも図りやすいだろうし、こっちからお願いしたいくらいだ。
そんな二人を先頭に、約10名が見回り部隊として動いてもらう。
そして約5名が本部における問題処理だ。
両部隊間で、必要に応じて適宜1~2名をスワップしながら文化祭本番に当たる。
そんな最終打ち合わせをして、事前会議は解散した。
この後全校集会が行われ、それが終わればついに文化祭本番となる。
ああ、厭だ。
楽しいことなどひとつもない。
何が祭だ。文化祭だ。
この学校において、そんな平和なイベントが平和なまま終わるわけがないじゃないか。
つまり実行委員は、この僕は、学校のためのスケープゴートに過ぎないのだ。
何かがあれば全てこいつが責任を取りますよ、というポジション。
それでいて、完全な仕事をしてもそれで当然という評価。
内申書に好影響があったりするわけでもない。
やってられるか。
それでもやらねば。
一度任命されてしまった以上、もはや逃げ道はない。
最後まで事を荒立てずにやり切る。
それだけだ。
ひとつ、大きく息を吐く。
せめて文化祭の間は、何も起きませんように。
無駄に近い祈りを捧げ、僕は委員会本部を後にした。