そして文化祭が始まった。
「加藤はB棟を頼む。俺はA棟を担当しよう」
丘がそう言った。
B棟は、理科室や視聴覚室といった特殊教室のための棟。
文化祭では部活連中が主に使う場所だ。
クラスが展示や模擬店を行うのはクラス棟、A棟の方。
圧倒的に、人口密度はA棟の方が高い。
だからB棟担当というのは非常に楽ができると言っていい。
自ら大変なA棟を選ぶというのは、何とも丘らしい。
あいつはこういうところで真面目だ。
ともあれ、俺としては楽なB棟を任されて文句などない。
了解、と言って俺たちはそれぞれの持ち場へ散った。
さて、見回りということだが・・・。
正直何をすればいいか具体的には分からない。
多分、常識はずれなことを見つけたら適宜指摘して本部へ連絡すればいいだろう。
何となく、そう認識している。
文化祭はもう始まっている。
取り敢えず、B棟の最上階から順に見ていけばいいだろう。
B棟4階――
奥から順に、文芸部・情報処理部・美術部・華道部。
まず、一番奥の文芸部から確認していくことにする。
4階までの階段を上り、一番奥へと歩く。
文芸部。
文芸部といえば、あいつ――真鍋真司が部長だ。
正直に言って、真鍋はあまり得意じゃない。
同じクラスだが、話したこともそれほどないし、そもそも話しかけにくい。
何というか、オーラが。
ひとりにしてくれと言わんばかりの態度が。
俺を、というかクラス全体を、遠ざけようとしているように思える。
まあ、本人はそんなこと考えてないかも知れないのだが。
何にせよ気が重いな、と思いながら、俺は文芸部のドアを開ける。
「文化祭実行委員です、見回りに来ましたー」
客はいない。
そもそもこのフロア自体まだ客がきていないようだった。
これだと、トラブルが起きようもないか。
と、そこで教室の奥から聞き慣れない声が聞こえた。
「加藤・・・やっぱり来たな」
真鍋だ。
真鍋が忌々しそうな眼で、こちらを見ている。
他の部員はいない。
皆出払っているのか、そもそも文芸部に他の部員がいないのか。
やっぱり来たな。
真鍋はそう言った。
コイツは部長だ。
文化祭前の部長会議でお互いを確認している。
だから、俺が見回りに来るのも予想していた、ということだろうが・・・。
眼が。
何かに取り憑かれたような――。
尋常じゃない眼をしていた。
薄暗い部屋で、キラリと何かが光る。
「僕は敗者じゃない。負け犬じゃない。勝つ・・・勝つんだ」
よく意味の分からない事を呟きながら、こちらへと歩いてきた。
その手で鈍く光るのは、サバイバルナイフ。
「真鍋、どうしたんだ? ナイフなんか持って」
「加藤。僕はもう、負けない。お前たちになんか、負けるものか」
話が通じていない。
異常事態・・・だろうか?
思わず職務を連想する。見回り。異常があれば報告する。
しかし、これはどういう異常だ?
想定していたものと、大幅に異なっている。
「加藤ォォォ!」
勢いよく、真鍋がこちらへ突進してきた。
未だ何が起こっているのか分からない俺は、その場で立ち尽くす。
ドン、と真鍋の肩がぶつかる。
と同時に、腹部に鋭い痛み――。
刺された・・・?
意味が、分からない。
何が起きているんだろう。
何故、俺が真鍋に刺されているんだろう。
「ま、なべ・・・?」
「僕は負けない。強くなるんだ。勝つ、勝つ、勝つ・・・!」
そのまま、真鍋は刃をねじり込む。
より一層の激痛。
これは、ヤバい・・・のか・・・?
頭が回らない。
「はは、ははは、はははは!」
痛みに耐えかねてくずおれる俺を見て、真鍋が嗤う。
「勝った、僕は勝ったんだ!」
ははは、ひひひ、あーっはっはっは!
意味が、分からない。
どうして嗤う。
どうして痛む。
どうして。どうして。どうして。
異様な出血の中、何も分からないまま、俺の意識は遠ざかっていった。
「加藤はB棟を頼む。俺はA棟を担当しよう」
丘がそう言った。
B棟は、理科室や視聴覚室といった特殊教室のための棟。
文化祭では部活連中が主に使う場所だ。
クラスが展示や模擬店を行うのはクラス棟、A棟の方。
圧倒的に、人口密度はA棟の方が高い。
だからB棟担当というのは非常に楽ができると言っていい。
自ら大変なA棟を選ぶというのは、何とも丘らしい。
あいつはこういうところで真面目だ。
ともあれ、俺としては楽なB棟を任されて文句などない。
了解、と言って俺たちはそれぞれの持ち場へ散った。
さて、見回りということだが・・・。
正直何をすればいいか具体的には分からない。
多分、常識はずれなことを見つけたら適宜指摘して本部へ連絡すればいいだろう。
何となく、そう認識している。
文化祭はもう始まっている。
取り敢えず、B棟の最上階から順に見ていけばいいだろう。
B棟4階――
奥から順に、文芸部・情報処理部・美術部・華道部。
まず、一番奥の文芸部から確認していくことにする。
4階までの階段を上り、一番奥へと歩く。
文芸部。
文芸部といえば、あいつ――真鍋真司が部長だ。
正直に言って、真鍋はあまり得意じゃない。
同じクラスだが、話したこともそれほどないし、そもそも話しかけにくい。
何というか、オーラが。
ひとりにしてくれと言わんばかりの態度が。
俺を、というかクラス全体を、遠ざけようとしているように思える。
まあ、本人はそんなこと考えてないかも知れないのだが。
何にせよ気が重いな、と思いながら、俺は文芸部のドアを開ける。
「文化祭実行委員です、見回りに来ましたー」
客はいない。
そもそもこのフロア自体まだ客がきていないようだった。
これだと、トラブルが起きようもないか。
と、そこで教室の奥から聞き慣れない声が聞こえた。
「加藤・・・やっぱり来たな」
真鍋だ。
真鍋が忌々しそうな眼で、こちらを見ている。
他の部員はいない。
皆出払っているのか、そもそも文芸部に他の部員がいないのか。
やっぱり来たな。
真鍋はそう言った。
コイツは部長だ。
文化祭前の部長会議でお互いを確認している。
だから、俺が見回りに来るのも予想していた、ということだろうが・・・。
眼が。
何かに取り憑かれたような――。
尋常じゃない眼をしていた。
薄暗い部屋で、キラリと何かが光る。
「僕は敗者じゃない。負け犬じゃない。勝つ・・・勝つんだ」
よく意味の分からない事を呟きながら、こちらへと歩いてきた。
その手で鈍く光るのは、サバイバルナイフ。
「真鍋、どうしたんだ? ナイフなんか持って」
「加藤。僕はもう、負けない。お前たちになんか、負けるものか」
話が通じていない。
異常事態・・・だろうか?
思わず職務を連想する。見回り。異常があれば報告する。
しかし、これはどういう異常だ?
想定していたものと、大幅に異なっている。
「加藤ォォォ!」
勢いよく、真鍋がこちらへ突進してきた。
未だ何が起こっているのか分からない俺は、その場で立ち尽くす。
ドン、と真鍋の肩がぶつかる。
と同時に、腹部に鋭い痛み――。
刺された・・・?
意味が、分からない。
何が起きているんだろう。
何故、俺が真鍋に刺されているんだろう。
「ま、なべ・・・?」
「僕は負けない。強くなるんだ。勝つ、勝つ、勝つ・・・!」
そのまま、真鍋は刃をねじり込む。
より一層の激痛。
これは、ヤバい・・・のか・・・?
頭が回らない。
「はは、ははは、はははは!」
痛みに耐えかねてくずおれる俺を見て、真鍋が嗤う。
「勝った、僕は勝ったんだ!」
ははは、ひひひ、あーっはっはっは!
意味が、分からない。
どうして嗤う。
どうして痛む。
どうして。どうして。どうして。
異様な出血の中、何も分からないまま、俺の意識は遠ざかっていった。