ついに見つかってしまったか。
新聞記者というその男を迎え、私は覚悟を決める。
「勇者様。インタビュー、よろしいですか?」
男は私の返事など聞く気もないようで、既に機材のセットに掛かっている。
「構わないが――やれやれ」
覚悟。
そう、この隠れ家からの引っ越しの覚悟だ。
家が知れると、身の安全にかかわる。
「では勇者様、いくつか質問させていただきます」
「はいはい」
私は煙管をふかし、適当に答える。
と、男は動揺したように尋ねてくる。
「そ、それは――この臭い、まさか」
「ああ、ドラッグだよ。そうでもなきゃ、やってられないんでね」
危険性はそれほどでもない。
ただ、多くの国でご禁制となっているだけというものだ。
男は、冷静を装いながらひとつめの質問を投げかける。
ひとつめの質問。
「何故、こんな辺境の地に?」
「危険防止のためさ」
「危険? このような山奥の方が余程危険では?」
「そんなことはないね。この辺りの魔物はおとなしい」
「そうですか・・・しかし、不便では?」
「慣れたものだよ」
ふたつめの質問。
「先程の質問と重なりますが、各地を転々とされているのは?」
「たまに金が欲しくなったら魔物の居る地へ出稼ぎに行っている」
「で、出稼ぎ・・・?」
「君は、勇者は世界を救うものだと思ってないかい?」
「はい、それは思っています」
「そこがもうズレてんだよ。勇者は世界を救わない」
みっつめの質問。
「では――収入はどうされているのですか?」
「だから、出稼ぎさ」
「それはこういうことですか。
『各国を魔物の脅威から救うのは、商売だ』
と」
「その通り。適当な国を救って、報奨金を得ている」
最後の質問。
「ズバリ――魔王を倒してしまおう、とは思わないのですか?」
「思わないね。理由はふたつ。
魔王を倒しても各地の魔物は大人しくならない。つまり意味がない。
そしてこちらがメインだが、魔王を倒したら――
次に命を狙われるのは私だ」
「は? 勇者様が命を狙われる?」
「最初に何故こんなところに住んでいるのか、と訊いただろう?
私はね、強くなりすぎた。
今は魔物が、そして魔王が恐怖の対象だが、それらを倒したら
次に駆逐されるのは私だということさ」
「そんな! 勇者様を尊敬こそしても、駆逐など」
「いいやするね。お前ら民衆は、必ず私を恐れ、いずれ私を殺す」
だから私は基本的に世俗から距離を置くんだ。
そう言うと、男は押し黙ってしまった。
何か考えているようだ。
「このことを報道しても?」
「好きにすればいい」
私は適当に答える。
面倒なことになるかもしれない。
しかし――ここでこの男を殺すのもしのびない。
「いや」
男は首を振った。
「今日のことは全て聞かなかったことにします。勇者様は見つからなかった」
「そうかい、それは――助かるね」
と言いながら、頭では次の引越し先を検討している。
民衆など、まして新聞記者など、信じられるわけがない。
だが――案外、この男こそが世界を守ったのかもしれないと後で考えた。