古田史学とMe

古代史を古田氏の方法論を援用して解き明かす(かもしれない…)

倭国への仏教伝来について(八)

2015年02月15日 | 古代史
 前稿までの推論は『二中歴』の記事について「干支一巡」の移動を考慮することが必要であることを示すものですが、これに適合すると思われる事例を別の角度から考察してみます。それは「継体紀」に書かれている「継体天皇」の死去した年次についての混乱ぶりです。
「継体紀」には以下のように書かれています。

「(継体)廿五年歳次辛亥(五三一年)崩者。取百濟本記爲文。其文云。大歳辛亥三月。師進至于安羅營乞。是月。高麗弑其王安。又聞。日本天皇及太子皇子倶崩薨。由此而。辛亥之歳當廿五年矣。後勘校者知之也。」

 つまり、「百濟本記」には「日本天皇及太子皇子倶崩薨」という記事があり、こちらのほうを信用して「書紀」もこれにならったというわけです。しかし、近畿王権の国内伝承にはこの時点でそのような「王の一家の主要な人物が一斉に死去した」というものは存在していなかったのです。このため「編纂者」(これは「唐人」「続守言」と考えられます)も困惑していると見られるわけですが、これは「干支一巡」(=「六十年」)のズレが招いたものではないでしょうか。
 当時の「百済」の記録は「干支」によっていたため「六十年」単位で移動する可能性があると思われます。それに関して「百済」には年号使用の形跡が亡いことがあります。「武寧王」の墓誌にも年号ではなく「干支」が使用されています。このように年次記録が「干支」によるとすると「定点」がないこととなり、ある程度年数が経過して、他の資料などが散逸し始めると年次を誤認する可能性が高くなります。
 また「百濟本記」は「現存」しておらず、『書紀』などに引用される形でしか残っていません。このため、信憑性については疑問があり、全面的にはそれに依拠することはできないと考えられます。

 この記事の干支が実際には「六十年」遡上したものとすると「四七一年」となりますが、『二中歴』も「六十年」移動することとして考えていますので、この『百済本紀』-『二中歴』の関係はそのまま維持されることとなります。つまり、移動した「辛亥年」は「四七一年」となり、それは「教倒」改元の年であるわけで、さらに「南朝」の皇帝に対して「武」の上表文が書かれる七年前のこととなります。そして、その上表文の中では「倭国王」と「皇太子」が「ともに」亡くなっている、と書かれているわけですから、「百濟本記」の記事にかなり近似していることとなるでしょう。つまり、ここで示された「日本天皇及太子皇子倶崩薨」という記事は「武」の上表文に書かれた「奄喪父兄」という「倭国王」「済」と「興」の死亡に関する記事と強く関係していると推量します。

 この「武」の上表文の「記事」以外には「百濟本記」の「日本天皇及太子皇子倶崩薨」という記事と合致するものは全く確認されないわけであり、これは「百濟本記」に「誤伝」した可能性が強いものと考えられます。というより、『二中歴』も「六十年」時期が下る方向で「ずれている」わけですから、そのことと「百済本紀」が同様に「ずれている」と推定されることとは深い関係があると思われます。つまり、いずれも「原資料」が共通していて、その「原資料」段階で既に「ずれていた」という可能性です。元の資料は同じであったという可能性があるように思われます。
 
 また、上のように「武」の上表文に書かれた内容と『書紀』(百済本紀)とが同一であるという推定をした場合、「武」の上表文が書かれるまで「時間」(年月)がかかっているようにも思えますが、これは「武」が当時まだ「未成年」であったため、「成人」を待っていたと言うこともまた可能性としてあると思われます。
 「興」以外にも兄がいて「父兄」とは「済」と「興」だけではなく、他の「兄」も含んだ表現であるとすれば、「武」は「末子」であったという可能性があり、まだ幼少であったためにすぐ即位できず、成長を待って「即位」し「上表」する事となったということではないでしょうか。(「百濟本記」でも亡くなった中には「太子皇子」がいたらしいことが書かれてあり、上の推定を裏付けるものです)
 また「父」と「兄」の「服喪期間」があったために「上表」して「称号」を受けるまで時間がかかったという可能性もあります。この時代はまだ「三年以上」の「殯」の期間があったと考えられ、「父」と「兄」とが相次いで亡くなったとすると少なくとも六年分あったこととなり、「上表」までの年数も整合的となるでしょう。(「武」の上表文によれば「南朝」の皇帝の死去に伴う「諒闇」もあったとされますから、さらに年数が増えることとなります。)
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