浦和競馬場(写真)は、戦後に制定された競馬法に基づき、地方自治体主催としては日本で初めて競馬を開催した歴史ある競馬場であることは、ほとんど知られていない。
この競馬場が完成、戦後の混乱期の1946年11月制定された地方競馬法(旧競馬法)の下、県馬匹(ばひつ)組合連合会主催の第1回浦和競馬が開催されたのは48年4月19日のことである。「新装の馬場に近隣からのファンが正午までに7万」と20日付の埼玉新聞は伝えている。
48年7月13日、地方競馬法に代わって競馬法が制定された。競馬は都道府県と戦災指定自治体だけが主催できるとし、競馬は全て「公営」となった。浦和競馬は、競馬場施設を含め、県が馬匹組合連合会の負債3千万円を引き継ぎ、県内初の公営競馬として現在の浦和競馬場が誕生した。。
県主催の第1回浦和競馬は、48年9月23日だった。それから70年が経った。県営競馬発足から50年代まで浦和競馬はすさまじい人気で、開催日は連日満員、売上額は最高額を更新した。
今は住宅密集地の真っ只中で、光害、虫害の原因になると、ナイター設備もなく、05年から「薄暮競争」が行われているほどだが、当時は馬場内はもちろん、コースの外周も田んぼ。競馬の最中も田んぼの中で農作業が行われていた。
所在自治体にも開催権が認められるようになり、今では県とさいたま市の県浦和競馬組合(管理者・知事 埼玉県とさいたま市で構成される一部事務組合)が運営しており、1977年7月15日に設立された。17年に設立40周年を迎えた。
馬を走らせないで他の競馬場の馬券を売って販売手数料を得る場外馬券売り場「ウインズ浦和」で初めて馬券が発売されたのは2012年だった。大レースなら数万人の入場が見込めるのだからこたえられない。
16年度には馬券の総売り上げが389億7500万円となり、史上最高額を記録した。県と市への分配金も3億5千万円となった。
地方競馬の低迷期もあった。2001年には過去最多の累積25億円の赤字を抱えていた。03年足利、04年高崎、05年宇都宮の北関東3競馬場が閉鎖、07年までに全国で10か所が閉鎖された。
09年度決算から黒字に転じ、11年度には埼玉県とさいたま市に1億5千万円の配当を実施、13年度は2億8千万円、14年度は3億円の配当を実施、道路整備や施設の改修、教育の充実などに充てられている。
組合は、設立40周年を記念して、馬券の売り上げなどの収益金の中から1130万円を、県国際交流協会が17年度新たに設置した「埼玉グローバル人材活躍基金」の「『埼玉発世界行き』冠奨学金」用に17年12月に寄付、「浦和競馬チャレンジ奨学金」を創設することを決めた。
この基金は、企業や篤志家からの寄付を原資に運営されていて、海外への留学やインターンシップを目指す若者を対象にした給付型奨学金で、寄付者が希望する名前をつけられる。
17年度は、3企業・個人により計6コースが創設され、計12人が給付を受けた。
対象は18人程度で、1年以上の長期留学に1人120万円(2人)、短期の海外体験や語学留学に1人50万円(16人)への給付を想定している。18年3~5月に希望者を募集、8月から奨学金を交付する。組合では、「今後も可能であれば継続していきたい」と言っている。
県では海外留学をする若者を応援するため、11年度に冠奨学金の前身の「埼玉県グローバル人材育成基金」を設置し、6年間で約1,600人の留学を応援した。
公営競技団体が奨学金を創設するケースは全国的に珍しいという。浦和競馬は戦後、戦災復興と災害復興ののための財源だった。空襲があった熊谷、カスリーン台風の北川辺周辺、夫を亡くした遺族らを優先して競馬場が雇った。奨学金が整備されていない50年代から60年代初めには、苦学生を優先して雇った。
「浦和競馬のおかげで一人前になれた人はたくさんいる」と「浦和競馬のおかげで弁護士になれた」という荒川岩雄県議は語っている。埼玉新聞の浦和競馬場の続き物の中で、「浦和競馬場の職場には情があった」という県議の言葉には思わず涙がこぼれた。伝統は受け継がれているのである。
浦和競馬場では19年11月4日に、競馬界最高峰のG1級競争を1日3レース行う地方競馬の祭典「JBC」(ジャパン・ブリーディングファームズ・カップ)が初めて開かれることが決まっている。ダート(砂)競争の魅力向上や地方競馬の発展などを目指して01年に創設されたもので、南関東に4つある地方競馬のうち3場(大井、川崎、船橋)では開催済み。
地方競馬の実力馬に加え、JRA(日本中央競馬会)のスターホースが参戦、距離、性別ごとに王者を決める。県浦和競馬組合は、来場者3万人、売り上げ60億円を目指す。
これに先立ち9月2日
一般、指定席計738席を持つ地上4、地下1階建ての「新2号スタンド」が運用を開始した。どの席からもレースを観戦でき、災害対策として太陽光発電設備や雨水を利用するトイレ設備など「中央競馬並みの設備」を誇る。