水潜寺は、秩父札所34番の結願の寺である同時に、日本百観音の結願の寺でもある。(写真)
秩父34箇所観音霊場は、秩父市、横瀬、皆野、小鹿野町の狭い範囲に点在している。
これに対し坂東33箇所は、東京都、埼玉、群馬、栃木、茨城、千葉、神奈川の1都6県。西国33所は、関西の京都、大阪の2府に和歌山、奈良、滋賀、兵庫4県と岐阜県に広がる。
これを全部回ったら大変だろう。
ところが、水潜寺に詣でて、観音堂(本堂)の前にある、百観音の砂が集められている「百観音御砂」の足型の上に足を乗せて拝めば、日本百霊場の功徳が得られるとされる。
足元を見ると、確かに「足型の上で拝めば百観音巡礼の功徳がある」と明記してある。
結願堂の前には百寺の名を記した石輪を回せる「百観音功徳車」もある。
6体のお地蔵様が並ぶ6地蔵も7観音もそろっている。
結願の寺だから他の33観音の石像がずらり並んで迎えてくれる。
まだ33箇所を回り終えていないのに、早々と水潜寺に来たのは、秩父鉄道の皆野駅から便数は少ないものの、町営バスがあり、約20分。距離は6kmぐらいで、歩いても1時間半くらいで来られるからだ。
それと山の中の寺なのになぜ「潜水」という海にあるような名がついているのか、この目で確かめたかったからだ。
本堂の右手の山に自然にできた岩屋があり、通り抜けられるようになっている。そこには清水が湧いていて、観音詣でが終わった人は中をくぐって、その水で身を清め、聖なる世界からまた俗世間に帰っていく慣わしだった。
そこから水潜り寺が水潜寺になったのだという。
その岩屋をぜひ潜ってみようと楽しみにしていたのに、今は落石や落木の恐れがあるというので、立ち入り禁止になっている。
岩屋の水はパイプで引いてきて「水くぐりの長名水」の名で飲めるようになっている。飲んでみると冷たくおいしい。
「水かけ地蔵尊」も近くにあり、長名水を三杯かけて願い事を三度唱えるとかなうとか。
「撫でぼとけ」で知られるオビンズル様も讃仏堂の左側にある。
この寺で拝めば功徳、御利益が一杯だ。
子連れの熊が数度目撃されているので、「熊出没注意」の張り紙があるのが、いかにも山寺にふさわしかった。
皆野町出身の俳句界の長老・金子兜太氏の
曼珠沙華 どれも腹出し 秩父の子
の句碑が立っているのも似つかわしい光景だった。
結願寺らしく、水潜寺の本尊は、中央に一木造り室町時代の作とされる「千手観音」、脇に西国を象徴する阿弥陀如来(西方浄土)、坂東を象徴する薬師如来(東方瑠璃光世界)を配している。
有難い限りである。
帰りはバスの便が少ないので、秩父鉄道・親鼻駅まで歩いた。寺から少し下りると、「秩父温泉・満願の湯」がある。
地下数百mから湧出する、全国有数のアルカリ性が極めて高い天然温泉だという。
入ってみようかと思った。だが、満願ではない身。これ以上ばちあたりを重ねては、と遠慮してヤマを下った。
駐車場は車で一杯だった。