
源氏物語、薄雲
(入道)
きさいの宮はるのはじめよりなやみわたらせたまひて
三月にはいとをもくならせたまひぬればぎやう
かうなどあり。 ゐんにわかれたてまつらせたまひしほどは
いといはけなくてものふかくもおぼされざりしを
いみじうおぼしなげきたる御けしきに宮もい
とかなしくおぼさる。ことしはかならずのがるまじき
としと思ひ給へれど、おどろ/"\しき心ちにもはべ
らざりつればいのちのかぎりしりがほに侍らん
もひとやうたてこと/"\しくおもはむとはゞかりて
なんくどくの事などもわざとれいよりもとりわ
きてもし侍ずなりにける。まいりて心のどかに
むかしいまの御ものがたりもなどおもふたまへながらう
つしざまなるおりすくなう侍てくちおしくい
ぶせくてもすぎ侍りぬるわざなどいとよはげ
にきこえ給。三十七におはしませ。といとわかくさ
かりに○よらるり御さまをおしうかなしと見た
てまつらせたまふ。つゝしませたまふべき御とし
なるにはれ/"\しからで月ごろすぐさせ給事を
(だに嘆きわたりはべりつるに)
国立歴史民俗博物館 展示品
