藤原雅經
なれ/\て見しは名残の春ぞともなど白川の花の下かげ
最勝寺の櫻は鞠のかゝりにて久しく成にしをその木たちふ
りて風に倒れたるよし聞侍りしかばおのこどもにおほせて異
木を其跡にうつし植させし時まづまかりて見侍りければ
あまたの年/"\暮にし春まで立馴にける事よと思ひ
出てよみ侍りけると詞書に有。心はおほかた此詞書にて
あきらかに聞ゆ。されども白川のといへるはなどしらさりし事ぞと
云意の詞也。春毎に此白河の花に對して我身の老おとろへ
たる事を歎き侍りしに我より先に花のかれうせたる事よ。なれ
て見し春を花は限りぞとこそ思ひつらめ。それをば知
らで花に向ひて我齢のかたぶきたる事を歎きつる心の程の
愚かさよとよみたる所餘情限りなく有心体の哥也。
※出典は常縁聞書に近い。