新古今和歌集の部屋

新古今和歌集聞書下巻 雑歌上 蹴鞠の懸の桜

    藤原雅經

なれ/\て見しは名残の春ぞともなど白川の花の下かげ

最勝寺の櫻は鞠のかゝりにて久しく成にしをその木たちふ

りて風に倒れたるよし聞侍りしかばおのこどもにおほせて異

木を其跡にうつし植させし時まづまかりて見侍りければ

あまたの年/"\暮にし春まで立馴にける事よと思ひ

出てよみ侍りけると詞書に有。心はおほかた此詞書にて

あきらかに聞ゆ。されども白川のといへるはなどしらさりし事ぞと


云意の詞也。春毎に此白河の花に對して我身の老おとろへ

たる事を歎き侍りしに我より先に花のかれうせたる事よ。なれ

て見し春を花は限りぞとこそ思ひつらめ。それをば知

らで花に向ひて我齢のかたぶきたる事を歎きつる心の程の

愚かさよとよみたる所餘情限りなく有心体の哥也。

 

※出典は常縁聞書に近い。

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