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とくもん
解悶
と ほ
杜甫
ひとたびじしてここくとたび
一 辭 故 國 十
ふあきを
経 秋
ごとにみるしうくはをおもふ
毎 見 秋 瓜 憶
こきうを
故 丘
こんにち なん こ とる
今 日 南 湖 采
びけつを
薇 蕨
なんびとがためにもとむてい
何 人 為 覓 鄭
くは しう
瓜 州
こきやうをでゝより、としひさしく
りよかくとなりて、十ねんにもなる。
あきの事なれば、子◯がさびしいよ
は、うりのめいぶつゆへ、たびて、瓜を
見ても、いまじぶん、わがさとにもよい
うりがあろふかと、おもひだす。
今日、なんこあたりへきて
いては、こきやうで、見なれた
うりはなくして、はやはるに
なりて、わらびをとるとき
なれば、ひとへに、こきやうを
おもひだす。せめての事に
ていくはぢうといふふうゆう
になりとも、あふてなぐさ
まふとおもへども、あふ事も
ならぬ。だれか、わがために
たづねて、つれてきてあはせ
てくれやうぞ。だれも、つれ
てくるものはあるまい。鄭瓜州と
いふは、でき口でこきやうの
やうなうりでも、とつてきて
くれたならば、わがうれいも、
とけやうとなり。くわしくは、
唐詩講釈の書を見るべし。
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解悶 杜甫
一たび故国を辞して、十たび秋を経。
秋瓜を見る毎に、故丘を憶ふ。
今日、南湖薇蕨を采る。
何人か、為に覓(もと)む鄭瓜州。
意訳
一度、故郷の長安を出てから、十回の秋を経てしまった。
秋の瓜を見るごとに、故郷の瓜が植えられた丘を思い出す。
今日は、南の湖では薇蕨を採っているが、
誰か、鄭審殿を尋ねて、連れて来てくれないか。
※故国 杜甫の故郷は長安。大暦元年(766年)、55歳頃の夔州(四川省奉節)に移った時の作。
※十経秋 安禄山の反乱の翌年(756年)長安を離れる。
※秋瓜憶故丘 杜甫の故郷に、漢代に瓜の栽培して有名な東陵丘があり、瓜を見て故郷を思い出す。
※南湖 どこの湖かは不明だが、夔州にあるものであろう。
※薇蕨 ゼンマイとワラビだが、日本で春の山菜の薇と蕨とは異なる。
※鄭瓜州 友人で、秘書監の鄭審の事で、長安の南の瓜州に一族が住んでいたので、そう呼ばれると推察されている。
唐詩選画本 七言絶句 巻第五
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