山遠雲埋
行客跡
松寒風破
旅人
夢
和漢朗詠集 雲
題作者不詳
山遠雲埋行客跡 山遠くしては雲行客の跡を埋うづむ
松寒風破旅人夢 松寒くしては風旅人の夢を破る
(参考)
平家物語 有王
有王、島の者にゆきうかツて、
「物申さう」と言へば、
「何事」と答ふ。
「是に都よりながされ給ひし、法勝寺執行御坊と申す人の、御行衛や知りたる」と問ふに、法勝寺とも執行とも、知ツたらばこそ返事もせめ、頭を振ツて、
「知らず」と言ふ。其中にある者が心得て、
「いさとよ、さ様の人は、三人是にありしが、二人は召し帰されて、都へ上りぬ。今一人は残されて、あそこ爰に惑ひありけれども、行衛も知らず」とぞ言ひける。
山のかたのおぼつかなさに、遥かに分け入り、嶺によぢ、谷に下れども、白雲跡を埋んで、行き来の道も定かならず、青嵐夢を破って、その面影も見えざりけり。山にては遂に尋ねもあはず、海の辺について尋ぬるに、沙頭に印を刻む鴎、沖の白洲にすだく浜千鳥の外は、跡訪ふ者も無かりけり。
令和6年10月20日 弐 喜