天運にまかせておしまずいとはず身をば
浮雲になずらへて、頼まずまだし
とせず一期のたのしひはうたゝねの枕
の上にきはまり生涯の望は折〃の
美景に残れり。それ三界はたゞ心一
なり心若安からずは牛馬七珍も由
なく宮殿望なし今さびしき住ゐ一
間の庵みづからこれを愛す。をのづ
からみやこに出ては乞食となれることを
はづといへどもかへりて爰に居る時は
他の俗塵に着することをあはれぶ
天運にまかせて、惜しまず、いとはず。身をば
浮雲になずらへて、頼まず、まだしとせず。一期
のたのしひは、うたたねの枕の上にきはまり、生
涯の望は折々の美景に残れり。それ、三界はただ
心一なり。心、若し安からずは、牛馬七珍も由な
く、宮殿望みなし。今、さびしき住ゐ、一間の庵、
自らこれを愛す。自づから都に出ては、乞食とな
れることを、恥づといへども、帰りて、爰に居る
時は、他の俗塵に着することを哀れぶ。
(参考)前田家本
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□□□□□□□□□□□□□□□それ三界はただ
心一つなり。心、もしやすからずは、象馬七珍もよしな
く宮殿楼閣も望みなし。今寂しき住まひ、一間の庵、
自らこれを愛す。をのづから都に出でゝ、乞匃とな
れる事を恥づといへども、帰りてこゝにおる
時は、他の俗塵に馳する事を哀れぶ。
(参考)大福光寺本
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□□□□□□□□□□□□□□□夫三界ハ只
心ヒトツナリ。心若ヤスカラスハ象馬七珍モヨシナ
ク宮殿楼閣モノソミナシ。今サヒシキスマヒヒトマノイホリ
ミツカラコレヲ愛ス。ヲノツカラミヤコニイテゝ身ノ乞匃トナ
レル事ヲハツトイヘトモカヘリテコゝニヲル
時ハ他ノ俗塵ニハスル事ヲアハレム。
心、心外無別法
乞食となれることをはづ
列子まへに引たり
住ずしてだれかさとさん
如人飲水冷暖自知
といへる心也。
抑 畳語の言葉とてい
ま又いひしことをかへして
いふ言葉也。又語發する
言葉とていひ出したま
の語也。
三途 火途血途刀途也。
※列子まへに引たり
養和の飢饉6 頭注
※住まずして
景徳伝灯録 人の水を飲み冷暖を自知するが如し
糺の森