兼載雑談一、 千鳥もきけりつるの毛衣不似合事なりと鴨長明抄にあり。歌論 無名抄 千鳥鶴毛衣事俊惠法師が家を哥林苑と名付けて、月毎に會し侍りしに、祐盛法師其會衆にて、寒夜千鳥と云ふ題にて千鳥も着けり鶴の毛衣と云ふ哥よみたりければ、人々、珍しなど云ふ程に、素覺といひし人たび/\是を詠じて面白く侍り。但寸法や合はず侍らんといひ出たりけるに、に成りて笑ひのゝしりければ、事さめてやみにけり。いみじき秀句なれど、かやうに成りぬれば甲斐なきものなりとなん祐盛語り侍し。すべては、此事の心得ず侍る也。鳥は皆毛を衣とする物なれば、ほどにつけて千鳥も毛衣着ずやはあるべき。必ずしも寸法の事のほかなる借物すべきにあらず。かの白妙の鶴の毛衣年經ともといふ古哥のあるにこそあれ、何の鳥にもよまんにはゝかりあるべからず。先に申し侍る建春門院の殿上の哥合にも、鴛鴦の毛衣とよめる哥侍り。聊疑ふ人ありけれど、判者、咎あるまじきやうに宥められ...歌論無名抄千鳥鶴毛衣事