行川のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみにうかぶうたかたはかつきえかつむすんで、ひさしくとゞまることなし。世の中にある人もすみかも、又かくのごとし。
もろ/\の里〃に棟をならべ、いらかをあらそへる、たときいやしき人の住ゐも、世〃を経てつきせぬ物なれども、むかしありしは今はなし。或は去年さかへてことしほろび、あるひはきのふつくりてきょうやけぬ。既に人これにおなじ。すがたもかはらず、ふるまひもおなじけれども、いにし見し人は、百人が中にわづかにわづかにひとりふたり残れり。或は詞をまじへ、契りを結びし人も、浅茅が原の露と消え、あるひは名を聞、すがたを見し人もよもぎがもとの塵となる。又、あしたに生まれ、夕べに死するならひ、只水のうへのうたかたなり。
其ぬしと家と無常をあらそふさま、槿の露におなじ。ある時は花よりさきに露こぼれ、あるときはつゆよりさきに花しぼむ。かくのごとく、或はぬしさきだちて家はあり、あるひは家はうせて、ぬしのこり、ぬしとすみかとともにありといへども、うれへならぬ時は稀なり。
(大福光寺本)
ユク河ノナカレハタエスシテ、シカモゝトノ水ニアラス。ヨトミニウカフウタカタハカツキエカツムスヒテ、ヒサシクトゝマリタルタメシナシ。世中ニアル人ト栖ト、又カクノコトシ。
タマシキノミヤコノウチニ棟ヲナラヘ、イラカヲアラソヘル、タカキ□ヤシキ人ノスマヒハ、世々ヲヘテツキセヌ物ナレト、昔アリシ家ハマレナリ。或ハコソヤケテコトシツクレリ。或ハ大家ホロヒテ小家トナル。スム人モ是ニ同シ。トコロモカハラス、人モヲホカレト、イニシヘ見シ人ハ、二三人カ中ニ、ワツカニヒトリフタリナリ。朝ニ死ニ夕ニ生ルゝナラヒ、水ノアハニソ似タリケル。不知ウマレ死ル人、イツカタヨリキタリテイツカタヘカ去ル。又不知カリノヤトリタカ為ニカ心ヲナヤマシナニゝヨリテカ目ヲヨロコハシムル。
ソノアルシトスミカト無常ヲアラソフサマ、イハゝアサカホノ露ニコトナラス。或ハ露ヲチテ花ノコレリ。ノコルトイヘトモアサ日ニカレヌ。或ハ花シホミテ露ナヲキエス。キエストイヘトモ夕ヲマツ事ナシ。