新古今和歌集の部屋

延徳本 方丈記 若き子を

わかき子をさきだてゝ、袖をしぼる老人もあり。或ははぐゝむ親にをくれて、路頭にさすらふみなし子、或は契を結ぶ夫妻にわかれて、比翼のかたらひ空しくなり、あるは頬をかくる主君をうしなひて、眷顧の思ひたちまち反す。

又、ともにあひむかへる時には、かれをはごくみ養むとて、さま/"\の心をついやし、貧しきものは財あらんことをのぞみ、冨るものは寶のうする事を歎くといへども、心にかなふことなし。

この故に、あるにつけてもうれへ、なきにつけてもうれへずといふことなし。

又、わづかにこれかなへば、かれかくることをなげき、彼是おなじくあらんことを思へども、おもふにしががふことなし。かやうに歎きつゝ、一生はつくるといへども、希望は盡きず。

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