新古今和歌集の部屋

時雨亭方丈記 辻風2


を吹はらひてとなりとひとつになせる。いはむや
家の中の資戝かづをつくして空にあり。○○だ
吹の板のたぐひ冬の木葉の風にみだれるゝがごとし。
ちりをけぶりのごとくに吹たてぬればすべて
めも見えず。をびたゞしくなりとよむをとに物いふ
こゑもきこえず。地獄の業風なりともかばり
にとぞ覚○。損亡するのみにあらず。是をとり○
なふ間に身をそこなひ○た○ける物数をし
らず。此風ひつじさるのかたにうつり行ておほくの
人のなげきをなせり。辻風はつねに吹物なれど

(参考)前田家本
を吹き払ひて隣と一つに為せり。況や
家の内の資財、数を尽くして空にあり。檜皮、
葺板の類は、冬の木の葉の風に乱るゝが如し。
塵を煙の如く吹き立てたれば、全て
目も見えず。夥しく鳴り響む音に物言ふ
声も聞こえず。彼の地獄の業の風なりとも、かばかり
にはとぞ覚ゆる。家の損亡せるのみに非ず。是を取り繕
ふ間に身を損なひ片輪付ける人、数も知
らず。この風、未の方へ移り行きて多くの
人の嘆きを為せり。辻風は、常に吹くものなれど、

(参考)大福光寺本
ヲフキハラヒテトナリトヒトツニナセリ。イハムヤ
イヱノウチノ資財カスヲツクシテソラニアリ。ヒハタ
フキイタノタクヒ冬ノコノハノ風ニ乱ルカ如シ。
チリヲ煙ノ如ク吹タテタレハスヘテ
目モミエス。ヲヒタゝシクナリトヨムホトニモノイフ
コヱモキコエス。彼ノ地獄ノ業ノ風ナリトモカハカリ
ニコソハトソヲホユル。家ノ損亡セルノミニアラス。是ヲトリツクロ
フアヒタニ身ヲソコナヒ片輪ツケル人カスモシ
ラス。コノ風ヒツシノ方ニウツリユキテヲホクノ
人ノナケキナセリ。ツシ風ハツネニフク物ナレト
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