新古今和歌集の部屋

歌論 無名抄 俊成清輔判偏頗事




 

 

 

俊成清輔哥判有偏頗事

顕昭云この比の和哥の判は俊成卿清輔朝臣さう

なきこと也。しかあるをともに偏頗ある判者なる

にとりてそのやうのかはりたるなり。俊成卿はわれも

ひが事をすとおもひ給へるけしきにていともあら

がはず世中のならひなればさなくもいかゞはなどや

うにいはれき。清輔朝臣は外相はいみじう清廉

なるやうにて偏頗といふことつゆもけしきに

あらはさず。おのづから人のかたぶくことなどもあれば

けしきをあやまりてあらがひ論ぜられしかば

人のみなそのよしを心えてさらにいひいづることも

なかりき。

 

俊成清輔哥判有偏頗事
顕昭云、「この比の和哥の判は、俊成卿・清輔朝臣、左右
なき事也。しかあるを共に偏頗ある判者なるにとりて、そ
の様の変はりたる也。俊成卿は、我も僻事をすと思ひ給へ
る気色にて、いともあらがはず、『世の中の習ひなれば、
ば、さなくもいかゞは』など樣にいはれき。清輔朝臣は、
外相はいみじう清廉なる様にて、偏頗といふこと露も気色
に現はさず。自ずから人のかたぶく事などもあれば、気色
をあやまりて、あらがひ論ぜられしかば、人の皆その由を
心得て、更にいひいづる事もなかりき。」

 

※左右(さう)なき 甲乙つけ難い双璧

※偏頗 不公平。

※いともあらがはず そうひどく論議もしないで

※外相 うわべ

※自ずから人のかたぶく事 参加者が首を傾げる事

※気色をあやまりて 顔色を変えて

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