昔男時世妝巻之二
目録
○みよしのゝ田のもの鳫の段
○程はくもゐとむさし野の段
○むさしあぶみの哥のだん
○くわ子にぞ成べかりける哥の段
○しのびてかよふ忍ぶ山の哥のだん
○有常ぎみがみけしのうたの段
○名にこそたてれさくら花のだん
○哥六首たがひちがひに口説の段
○うらみ恨まれ七首の段
○秋のよの千夜をひとよのだん
昔男時世妝巻之二
○みよし野の田のもの鳫の段
むかしおとこ武蔵の国までまどひあるきけり。扨その国
にある女をよばひけり。是はなりひら、武蔵の国入間の郡みよ
しのゝ里にて、何がしといふ人の許に旅ゐし給ひしと見えし
。その家に娘有しを、はや目に見るから心うつり、それ程みやこの
こひしい床しい、かた○をば忘れ、はや此むすめに、ちか比もつて
堪忍もろき好色人。されば此娘の父は直人とて、さして氏も
なき人なれども、母なん藤原なりけるまゝ、扨貴なるよい聟も
とは心付けたりける。父は中將の御器量、只ならぬ御けしきを異人と
目利し、又母も、此御方をば聟君にとるならば、世間の聞へ、是に過
たる事はあらじと、いと嬉しくおもひ、やがて娘にかはりうたを
よみてぞやらせける
みよしのゝたのむのかりもひたぶるに
君がかたにぞ よるとなくなる
みよしのゝ田の面の鳫とは、親の身の娘をさしていふこゝろ
一向にわが子は、君になびきまいらせ、一すぢに恋したひ申なかなれば
、君だにかわいとおぼしめさせ給ふならば、こなたにはどう成とも
といふこゝろ。君が方にぞよるとなくなるとは、此お袋もその時代
の人には似合ず、粋方の上々、親の身として、子の恋を取もつ事
は業平此うたを見て聟金かへし
わがかたによるとなくなるみよしのゝ
たのむのかりを いつかわすれん
爰の此金の字は、聟殿の御器量を称美の詞。物に勝れたるは金
也。此聟君も金の光の勝れたる心を取て、聟金○とは誉し
詞。とふぞなり平の敷金でも、御持参のやうに思ふ人も有べし。いさゝ
かさふではない事。さて此返哥、そもわが方に、そのよるとなくなる
。みよしのゝたのむの鳫の詞は、それは誠か真実か、扨もわが身は
ぞつとする程かたじけない御しんもじ。此こゝろ根をばいつかわす
れんとなん。人の国にてもそのやうに、今でいはゞ、畢竟三がい坊
同然のお身ながら、猶かゝる事の止ざりけるは、いかいたわけの
おなれの果
川越市三芳野神社
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