廿四昔、男、かたゐ中にすみけり。男みやづかへしにとて、わかれをしみて
まち ねんごろ
行にけるまゝに、みとせこざりければ、待わびたりけるに、いと念比にいひける
と
人に、こよひあはんとちぎりたりけるに、此をとこきたりけり。此戸
あけ給へとたゝきけれど、あけで哥をなんよみて、出したりける
たま とし
あら玉の年の三とせをまちわびてたゞこよひこそにゐまくらすれ
と、いひいだしたりければ
わが
あづさゆみまゆみつきゆみ年をへて我せしかごとうるはしみせよ
と、いひていなんとしければ、女
あづさゆみひけどひかねどむかしよりこゝろは君によりにし物を
ゆけ
と、いひけれど、男かへりにけり。女いとかなしくて、しりに立てをひ行ど
いわ
えおひつかで、し水の有所にふしにけり。そこなる岩におよびのちして書付ける
あひ思はでかれぬる人をとゞめかね我身はいまぞきへはてぬめる
と、かきてそこにいたづらになりにけり