又、かたはらに、琴琵琶をたて置けり。いはゆる折琴つぎ琵琶是なり。
今さらの身に○(は)おは(ふせ)ぬ手すさびながらも、昔わすれぬ名殘に、折ふしはかきなで〃、おもひをやる。子期がごときの知音も物せねど、興あれば、しば/\松のひヾきに秌風の樂をたぐへ、岩がねにながるヽ水に流泉の曲をあやどる。藝はこれつたなければ、人の聞をよろこばしめむとにもあらず。獨しらべ、ひとり詠じて、みづから心やしなふ計なり。
(参考 大福光寺本)
カタハラニ琴琵琶ヲノヲノ一張ヲタツ。イハユルヲリ琴ツキヒワコレ也。
…略…
若余興アレハシハシハ松ノヒゝキニ、秋風楽ヲタクヘ、水ノヲトニ流泉ノ曲ヲアヤツル。
芸ハコレツタナケレトモ、人ノミゝヲヨロコハシメムトニハアラス。ヒトリシラヘ、ヒトリ詠シテ、ミツカラコゝロヲヤシナフハカリナリ。