(文春文庫 「へんこつ 上」平岩弓枝 著)
「八犬伝」の原作者、滝沢馬琴先生(あえてここでは”滝沢馬琴”)と、
八犬伝の登場人物の一人に名を借りた、顔なじみの若同心・大塚新吾が
中心となり、大奥の絡んだ謎の事件を追う。
深川での妓楼帰りの夜、馬琴は自らの著作「八犬伝」の登場人物のような、
大きな犬を連れた美女に道を聞かれる。時同じ頃、女性の成りをした男
が殺され、犬塚新吾は下手人の捜索に借り出されていた。
死んだ男の名は春之助。陰間茶屋の陰間であり、咽喉笛をけものの牙で
食い破られていた。馬琴と新吾は事件と関わりがあるらしい謎の美女の
行方を追う内に、大奥の絡んだ愛欲渦巻く事件に巻き込まれていく。
女は強いね 男は弱いね
馬琴先生のへんこつさが面白い。流行作家として人気が出たのを
快く思っていないのに、「八犬伝」を馬鹿にされると怒る。
長年つれそっているとはいえ、教養も性格も良くない奥さんの
お百にはぶつぶつ。でも、自分の娘とは割りと仲良し。娘ほどにも
年の違う馴染みの妓がいて、医者の娘・おてつの言葉に一喜一憂。
新吾は新吾で、幼馴染の浪路やおてつ、更には事件のカギとなる
謎の美女=里江にまで惚れられて大波乱。
その里江にはとんでもない秘密があったりして。
大奥が絡むと愛憎劇ドロドロ。
男×女かと思ったら、女×女で
女×女かと思ったら、男×女で
今度こそ 男×女 だと思ったら、男×男で もう大変。
「八犬伝」の冒頭の伏姫様と八房
もしも、伏姫様が男で、玉梓の化身=八房=女だとしたら
それはそれ。女じゃないから、子供はできないけど
心で通じ合ったので珠持って転生してきます、
ってことで可能じゃないかな。
里江が新吾に恋焦がれて、彼のいいなずけとなった浪路をエサに
新吾をおびき寄せる。その浪路は、事件の発端となった春之助の死の
真実を教えるという陰間に惚れられて迫られてこちらも操のピンチ。
馬琴先生は、事件の巻き添えで殺されたらしい同心・大村一角の
おめかけのお染のはからいで「弄花堂」という怪しげな犬の病院
-実は男を女にする処方箋やら治療やらを行っている老医師の所で、
陰間と大奥と大村一角の接点を見い出すような出来事に遭遇していた
・・・と、こんなところで<上>は終わり。