先日の道新の「いずみ」
函館の滝沢 鈴さん95歳のエッセイ
を紹介させていただきます。
先日、道新の朝刊を読んでいたら、こんな見出しが目に留まった。
「斜面を上れず特急47キロ後退 石北線80人に影響」。記事を読んで
私はあることを思い出し、思わず笑ってしまった。
昭和20年ごろの冬のこと。私は職場から実家に帰省するため、吹雪の日に
江差から函館行きの汽車に乗っていた。2月の江差のたば風は半端な寒さではない。
ダルマストーブの上にのせられたするめのおいしそうな匂いが、車内にたちこめていた。
しばらく走った汽車は途中の坂にさしかかった時、汽笛を鳴らして止まり、ズズズズーツと
すべって後退した。そして発車、また止まる・・・を繰り返した。
車内が騒然となった時、一人のおじさんが叫んだ。「すがだねーな、皆で押すか゛!」別の
おじさんが「んだんだ、もっと下がらねうち゛に早ぐな」
吹雪きの中、乗客全員が汽車から降りて、顔を真っ赤にして汽車を押した。大人から小さな子供まで
が無我夢中で押した。
しばらくすると汽車は少しずつ動き出した。もう少しだ。「それそれ!それそれ!」掛け声をかけなが
ら押した。やがて汽車は無事坂の上にあがった。皆手をたたいて喜んだ。
汽車に戻ったおじさんたちは「やんや冬はこれだからな」と言って、するめをかじっていた。
その後、汽車は何事もなかったかのように函館駅に着いた。
遠い昔の私の経験。汽車を人力で押すなんて、思いも寄らないことであった。
これぞローカル線・・・ほっこりした貴重なお話でした。